3Dプリンターで造形物を作る際、最も重要な工程の一つが初層、つまり底面の印刷でしょう。しかし、多くのユーザーが底面のトラブルに悩まされています。底面が汚くなったり、波打ったり、ビルドプレートから浮いてしまったりと、様々な問題が発生するのです。
底面の品質は、造形物全体の成功を左右する極めて重要な要素になります。初層がしっかりと定着していなければ、途中で造形物が剥がれてしまったり、反りが発生したりするでしょう。また、底面が汚いと、完成品の見た目や寸法精度にも大きな影響を及ぼします。
これらの問題には必ず原因があり、適切な対策を講じることで解決できるのです。レベリング調整、ノズル高さ、ビルドプレートの温度、フィラメントの種類など、様々な要因が複雑に絡み合っています。
本記事では、3Dプリンターの底面トラブルについて、汚い・波打つ・浮くという3つの主な問題ごとに、その原因と具体的な対策方法を詳しく解説していきます。初心者の方でも実践できる調整方法を中心に、段階的に説明していきますので、ぜひ参考にしてください。
底面トラブルの主な原因はレベリングとノズル高さの調整不足
それではまず、3Dプリンターの底面トラブルの根本的な原因について解説していきます。
底面が汚くなったり、波打ったり、浮いたりする問題の多くは、ビルドプレートのレベリングとノズル高さの調整不良に起因しています。この2つの要素は3Dプリンティングの基礎中の基礎であり、適切に設定されていなければ、どんなに優れた機材でも良い結果は得られないでしょう。
レベリングとノズル高さの調整は、3Dプリンティング成功の90%を決定する最重要項目です。他の設定を調整する前に、まずこの2点を完璧にしましょう。
これらの調整が不適切だと、フィラメントがビルドプレートに正しく押し付けられず、密着不良や不均一な押し出しが発生するのです。その結果、底面に様々なトラブルが現れます。
ビルドプレートのレベリングの重要性
レベリングとは、ビルドプレート(プリントベッド)の表面をノズルに対して完全に平行にする調整作業のことです。プリンターを使い続けていると、振動や衝撃によってレベリングがずれてしまうことがあるでしょう。
レベリングが狂っていると、ビルドプレートの一部分ではノズルが近すぎて、別の部分では遠すぎるという状況が生じます。近すぎる部分ではフィラメントが潰れすぎて汚くなり、遠すぎる部分では密着せずに浮いてしまうのです。
多くの3Dプリンターには、4隅にレベリング調整用のネジやノブが配置されています。これらを適切に調整することで、プレート全体を水平に保てるでしょう。最近のプリンターには自動レベリング機能が搭載されているモデルもありますが、完全に自動化されているわけではなく、定期的な手動レベリングも必要になります。
レベリング調整の基本手順
1. ホームポジションに移動させる
2. ノズルをビルドプレート中央に移動
3. 4隅それぞれでA4用紙1枚分の隙間になるよう調整
4. 中央と各辺の中間点でも確認
5. 全ての点で同じ抵抗感になるまで繰り返す
ノズルとプレート間の適切な距離
レベリングが完璧でも、ノズルとビルドプレートの距離(Z軸オフセット)が適切でなければ、底面トラブルは解決しません。この距離は一般的に、紙1枚分(約0.1mm)が理想とされているでしょう。
ノズルが高すぎると、フィラメントがビルドプレートに十分に押し付けられず、密着力が弱くなります。その結果、造形物が浮いたり、初層がザラザラになったりするのです。逆に低すぎると、フィラメントが過度に潰され、ノズルが詰まったり、底面に筋が入ったりします。
適切な距離を見極めるには、実際にテストプリントを行うことが重要でしょう。初層を印刷した際に、線と線の間に隙間がなく、かつ表面が滑らかであれば理想的な状態です。線の間に透明な隙間が見える場合は高すぎ、表面が波打っていたり、フィラメントが横に広がりすぎている場合は低すぎるサインになります。
| ノズル高さ | 底面の状態 | 対処方法 |
|---|---|---|
| 高すぎる | 線の間に隙間、密着不良、浮きやすい | Z軸オフセットを下げる(-0.05mm程度ずつ) |
| 適切 | 滑らかで均一、線が密着 | 現状維持 |
| 低すぎる | 波打ち、筋、フィラメント詰まり | Z軸オフセットを上げる(+0.05mm程度ずつ) |
その他の底面トラブルに関わる要因
レベリングとノズル高さ以外にも、底面品質に影響を与える要因がいくつかあります。これらも併せて理解しておくことが大切でしょう。
ビルドプレートの温度は、フィラメントの密着性に大きく影響します。PLAであれば50〜60度、ABSなら80〜100度が一般的な設定でしょう。温度が低すぎると密着不良や反りが発生し、高すぎると初層が柔らかくなりすぎて変形する可能性があるのです。
印刷速度も重要な要素になります。特に初層は通常の印刷速度よりも遅くすることで、フィラメントがしっかりと定着する時間を確保できるでしょう。多くのスライサーソフトには「初層速度」という設定項目があり、通常の50〜70%程度に落とすのが効果的です。
ビルドプレートの清潔さも見逃せません。指紋、油分、ホコリなどが付着していると、密着力が大幅に低下します。使用前にイソプロピルアルコールや専用クリーナーで拭き、常に清潔な状態を保つことが重要でしょう。
底面が汚くなる原因と対策方法
続いては、底面が汚くなる具体的な原因と対策方法を確認していきます。
「汚い」という表現には様々な状態が含まれますが、一般的には表面が粗い、筋が入っている、不均一、ザラザラしているといった問題を指すでしょう。これらは見た目の問題だけでなく、造形精度にも影響を及ぼします。
ノズルが近すぎることによる筋や波模様
底面に筋状の模様や波のような凹凸が現れる場合、ノズルがビルドプレートに近すぎる可能性が高いでしょう。ノズルが低すぎると、押し出されたフィラメントが過度に潰され、行き場を失ったフィラメントが横に盛り上がってしまうのです。
この問題の見分け方は比較的簡単です。底面を観察した際に、印刷パスに沿った筋や盛り上がりが規則的に並んでいる場合は、ノズル高さが原因でしょう。特にノズルが移動する方向に沿って、波状の模様が現れることが多いのです。
対策手順
1. Z軸オフセットを+0.05mm上げる
2. テストプリント(20mm角の薄い板など)を印刷
3. 底面を確認し、まだ筋が残っていれば再度+0.05mm上げる
4. 滑らかになるまで繰り返す
調整は少しずつ行うことが重要です。一度に大きく変更すると、今度は高すぎて密着不良になる可能性があるでしょう。0.05mm刻みで調整しながら、最適なポイントを見つけていきます。
フィラメントの押し出し量の問題
底面が粗かったり、線の太さが不均一だったりする場合は、押し出し量(Extrusion Multiplier)の設定が適切でない可能性があるでしょう。押し出し量とは、ノズルから出るフィラメントの量を調整するパラメータです。
押し出し量が多すぎると、余分なフィラメントが底面に溜まり、ブロブ(塊)やストリング(糸引き)が発生します。逆に少なすぎると、線と線の間に隙間ができ、底面がスカスカになってしまうでしょう。
標準的な押し出し量は100%に設定されていますが、フィラメントのメーカーや種類によって、95〜105%の範囲で調整が必要な場合があります。まずは1%刻みで調整してみて、最適な値を探りましょう。
押し出し量を確認するには、キャリブレーションキューブなどの単純な形状を印刷し、壁の厚みや表面の品質をチェックするのが効果的です。正確な寸法が出ていない場合は、押し出し量の調整が必要なサインでしょう。
ビルドプレートの表面状態と清掃方法
ビルドプレートの表面に汚れや傷があると、底面品質に直接影響します。特に油分が付着していると、フィラメントが滑ってしまい、不均一な底面になってしまうでしょう。
ガラス製ビルドプレートの場合は、イソプロピルアルコール(IPA)を染み込ませた布で拭くのが最も効果的です。PEIシートやテクスチャードシートの場合も、同様にIPAで清掃できますが、研磨剤入りのクリーナーは避けるべきでしょう。表面を傷つけてしまう可能性があります。
長期間使用していると、ビルドプレート表面に小さな傷や摩耗が生じることがあります。これらが原因で底面が汚くなる場合は、プレート自体の交換を検討する必要があるでしょう。PEIシートなどの消耗品は定期的に交換することで、常に良好な印刷品質を維持できます。
| プレートタイプ | 推奨クリーナー | 清掃頻度 |
|---|---|---|
| ガラス | イソプロピルアルコール、食器用洗剤 | 使用前毎回 |
| PEIシート | イソプロピルアルコール | 使用前毎回 |
| テクスチャード | イソプロピルアルコール、ぬるま湯 | 数回に1回 |
| 磁気シート | 中性洗剤、イソプロピルアルコール | 使用前毎回 |
底面が波打つ原因と対策方法
続いては、底面が波打つ現象の原因と解決方法を確認していきます。
波打ちは、底面に規則的または不規則的な凹凸が現れる現象です。特に大きな平面を印刷する際に顕著に現れることが多く、造形物の平坦性を損なう深刻な問題でしょう。
温度設定が不適切な場合の波打ち
ビルドプレートの温度が高すぎると、初層のフィラメントが柔らかくなりすぎて、ノズルが通過する際に変形してしまいます。これが波打ちの主な原因の一つでしょう。
PLAの場合、ビルドプレート温度は50〜60度が標準ですが、環境温度や使用するフィラメントによって最適値は変わります。まずは標準設定から5度ずつ下げてテストしてみることをおすすめします。温度を下げることで、初層が適度に固まり、ノズルの動きによる変形を防げるでしょう。
逆に、温度が低すぎても問題です。この場合は密着不良が起こり、初層が途中で剥がれることで波打ちのような見た目になることがあります。適切な温度設定は、使用するフィラメントの種類とメーカー推奨値を基準に、微調整していくことが重要でしょう。
主なフィラメントの推奨ビルドプレート温度
PLA:50〜60度
PETG:70〜80度
ABS:80〜100度
TPU:30〜50度
ナイロン:70〜90度
印刷速度と初層速度の調整
印刷速度が速すぎると、フィラメントが適切に定着する前にノズルが移動してしまい、波打ちの原因になります。特に初層では、通常の印刷速度よりも遅く設定することが重要でしょう。
多くのスライサーソフト(Cura、PrusaSlicer、Simplify3Dなど)には、「初層速度」という専用パラメータがあります。通常の印刷速度が50mm/sであれば、初層は20〜30mm/s程度に設定するのが効果的です。遅くすることで、各ラインがしっかりとビルドプレートに押し付けられ、滑らかな底面を実現できるでしょう。
また、移動速度(Travel Speed)も影響します。移動中にフィラメントが垂れたり、既に印刷した部分を引っ掻いたりすることで、波打ちが生じる場合があるのです。移動速度を上げるか、リトラクション設定を最適化することで改善できます。
レベリング不良による部分的な波打ち
ビルドプレートの一部分だけが波打つ場合は、レベリングが完全でない可能性が高いでしょう。プレートの中央と端で高さが異なると、ある部分ではノズルが近すぎて波打ち、別の部分では遠すぎて密着不良になります。
この問題を解決するには、より精密なレベリング調整が必要です。4隅だけでなく、各辺の中間点や中央部分も含めて、最低9点でレベリングを確認することをおすすめします。自動レベリング機能がある場合でも、手動で微調整を加えることで、より正確な結果が得られるでしょう。
大型の印刷物ほど、レベリングの精度が結果に直結します。60×60mm以上の底面積を持つ造形物を印刷する際は、必ず事前にレベリングを再確認しましょう。
また、ビルドプレート自体が歪んでいる可能性もあります。金属製のプレートは熱による膨張と収縮を繰り返すことで、徐々に反りが生じることがあるのです。定規やストレートエッジを使ってプレートの平坦性を確認し、必要であれば交換を検討してください。
底面が浮く原因と対策方法
続いては、底面が浮いてしまう問題の原因と解決策を確認していきます。
底面が浮くとは、造形物がビルドプレートから部分的または完全に剥がれてしまう現象です。これは印刷失敗の最も一般的な原因の一つであり、早急な対策が必要でしょう。
密着不良の主な原因と改善方法
底面が浮く最大の原因は、初層の密着力不足です。ノズルとビルドプレートの距離が遠すぎると、フィラメントが十分に押し付けられず、密着力が弱くなってしまうでしょう。
この問題を解決するには、Z軸オフセットを下げる必要があります。ただし、急激に下げすぎると今度はノズルが詰まったり、底面が汚くなったりするため、0.05mm刻みで少しずつ調整することが重要です。理想的には、初層を印刷した際に、隣り合う線がわずかに重なり合い、隙間が見えない状態になります。
ビルドプレートの清掃も密着力に大きく影響するでしょう。指紋や油分が付着していると、密着力が著しく低下します。特にPLAは油分に敏感なため、印刷前には必ずイソプロピルアルコールで拭き取ることをおすすめします。
密着力を高める追加対策
・スカート(Skirt)やブリム(Brim)を使用する
・ラフト(Raft)を追加する
・接着剤やヘアスプレーをプレートに塗布する
・初層の線幅を通常より太く設定する(110〜120%)
反りによる浮きとその対策
造形物の端や角が反り上がって浮いてしまうことがあります。これは特にABSなどの収縮率が高い素材で顕著に現れる現象でしょう。フィラメントが冷却される際に収縮し、その力でビルドプレートから引き剥がされてしまうのです。
反り対策として最も効果的なのは、ビルドプレート温度を上げることです。ABSの場合は80〜100度、場合によっては110度まで上げることで、冷却による収縮を抑制できるでしょう。また、エンクロージャー(筐体)で3Dプリンターを囲い、周囲温度を一定に保つことも非常に効果的です。
PLAでも大型の造形物では反りが発生することがあります。この場合は、ブリムを広めに設定したり、コーナー部分に小さなサポートを追加したりすることで改善できるでしょう。スライサーソフトの「マウスイヤー」機能を使うと、角に自動的に円盤状の補強が追加され、反りを防げます。
| 対策 | 効果 | 適用場面 |
|---|---|---|
| ブリム追加 | 高 | 全ての素材、小〜中型造形物 |
| ラフト使用 | 非常に高 | 密着困難な素材、小型複雑形状 |
| 温度上昇 | 高 | ABS、ナイロンなど収縮率の高い素材 |
| エンクロージャー | 非常に高 | ABS、大型造形物 |
| 接着剤使用 | 中〜高 | PLAの密着不良、ガラスプレート |
冷却ファンの設定と底面への影響
冷却ファンの設定も、底面の浮きに大きく関係しています。初層から強く冷却してしまうと、フィラメントが急激に収縮し、密着力が弱くなってしまうでしょう。
多くのスライサーソフトには「初層ファン速度」という設定があり、デフォルトでは0%(ファンオフ)になっています。これは非常に重要な設定で、少なくとも最初の2〜3層はファンを完全にオフにしておくべきでしょう。その後、徐々にファン速度を上げていくことで、密着を維持しながら適切な冷却を行えます。
ただし、PLAの場合でも、ブリッジ部分やオーバーハングでは冷却が必要になることがあります。最近のスライサーソフトには、部位ごとに冷却設定を変更できる機能があるため、底面は冷却なし、上層は通常通り冷却という設定が可能です。
ABSやナイロンなどの高温材料では、全体を通して冷却を弱めに設定するか、完全にオフにすることが推奨されます。これらの素材は層間接着を重視するため、むしろ冷却を避けたほうが良い結果が得られるでしょう。
まとめ
3Dプリンターの底面が汚い・波打つ・浮くという問題について、原因と対策を詳しく解説してきました。
これらのトラブルの根本的な原因は、主にレベリングとノズル高さの調整不足にあります。ビルドプレートを完全に水平にし、ノズルとの距離を紙1枚分(約0.1mm)に保つことが、美しい底面を得るための第一歩でしょう。この基本を疎かにしては、どんな高度な設定も効果を発揮しません。
底面が汚くなる問題は、ノズルが近すぎることによる筋や波模様、押し出し量の不適切さ、ビルドプレートの汚れなどが原因です。Z軸オフセットを0.05mm刻みで調整し、押し出し量を1%単位で微調整することで改善できるでしょう。また、印刷前には必ずビルドプレートをイソプロピルアルコールで清掃することが重要です。
波打ちについては、ビルドプレート温度が高すぎる、印刷速度が速すぎる、レベリングが不完全といった原因が考えられます。温度を5度ずつ下げて試す、初層速度を通常の50〜70%に落とす、9点以上でレベリングを確認するなどの対策が効果的でしょう。
底面が浮く問題は、密着不良と反りが主な原因になります。Z軸オフセットを下げて密着力を高める、ブリムやラフトを使用する、ビルドプレート温度を上げる、初層の冷却ファンをオフにするなどの対策を組み合わせることで解決できるでしょう。特にABSなど収縮率の高い素材では、エンクロージャーの使用が非常に効果的です。
3Dプリンティングは、様々なパラメータが複雑に絡み合う技術です。一つの調整だけでは解決しない場合も多く、複数の要因を総合的に見直す必要があるでしょう。本記事で紹介した対策を一つずつ試しながら、自分のプリンターとフィラメントに最適な設定を見つけてください。底面トラブルを克服できれば、3Dプリンティングの成功率は格段に向上するはずです。