亜鉛合金は、アクセサリーや工業部品、おもちゃ、自動車部品など、私たちの身の回りで幅広く使われている金属素材です。特にダイカスト製品やファッションアクセサリーでは、非常によく使用されています。
しかし、「亜鉛合金は錆びるのか、錆びないのか」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。アクセサリーを購入する際に、錆びやすさが気になって購入を迷った経験がある方もいるかもしれません。また、ダイカスト製品の耐久性についても、錆びの問題は重要なポイントです。
本記事では、亜鉛合金の基本的な性質から、錆びるメカニズム、ダイカストやアクセサリーでの使用例、そして錆を防ぐ具体的な方法まで、詳しく解説します。
亜鉛合金製品を使用している方、購入を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。
亜鉛合金とは何か
それではまず、亜鉛合金について解説していきます。
亜鉛合金の成分と種類
亜鉛合金とは、亜鉛（Zn）を主成分とし、他の金属元素を添加した合金
のことです。亜鉛単体よりも強度や加工性、耐食性を向上させることができます。
・添加元素：アルミニウム（Al）、銅（Cu）、マグネシウム（Mg）など
・微量元素：その他の元素を微量添加する場合もある
亜鉛合金には、用途に応じて様々な種類があります。
| 種類 | 主な成分比 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| ザマック合金 | Zn + Al(4%) + Cu(1%) | ダイカスト性良好、強度高い | 自動車部品、工業製品 |
| ZDC合金 | Zn + Al(4%) + Cu(3%) | 耐食性やや向上 | 一般ダイカスト製品 |
| 装飾用亜鉛合金 | Zn + 微量添加元素 | メッキ性良好、低コスト | アクセサリー、雑貨 |
| 真鍮（黄銅） | Cu(60〜70%) + Zn | 耐食性良好、加工性良 | 配管、楽器、装飾品 |
ザマック合金は、ダイカスト用として最も広く使われる亜鉛合金
です。ZAMAK（Zinc-Aluminum-Magnesium-Copper）の頭文字から名付けられました。
亜鉛合金の特徴と性質
亜鉛合金は、いくつかの優れた特徴を持つ素材です。
約380〜420℃と低く、ダイカスト成形に適している
2. 流動性が良い
溶融状態での流動性が高く、複雑な形状の鋳造が可能
3. 寸法精度が高い
鋳造時の収縮が小さく、精密な部品が作れる
4. 比較的安価
原材料コストが低く、大量生産に向いている
5. 加工性が良い
切削加工やメッキ処理がしやすい
6. リサイクル性が高い
再溶解して再利用できる
一方で、亜鉛合金には弱点もあります。
純粋な亜鉛は比較的活性な金属であり、錆びやすい性質を持っています。そのため、多くの亜鉛合金製品には、表面処理（メッキやコーティング）が施されています。
亜鉛合金の主な用途
亜鉛合金は、その特性を活かして様々な製品に使用されています。
ドアハンドル、カーブミラー、エンブレムなど。軽量で複雑な形状が作れるダイカスト製品が多い。
2. 電気・電子機器
コネクタ、ケース、放熱部品など。寸法精度の高さが活かされる。
3. 建築金物
錠前、把手、ヒンジなど。メッキ処理により耐食性を向上させている。
4. おもちゃ・模型
ミニカー、フィギュア、模型部品など。細かいディテールを再現できる。
5. アクセサリー・雑貨
ネックレス、イヤリング、ベルトバックル、ボタンなど。低コストで量産できる。
6. 工業部品
歯車、バルブ、ポンプ部品など。強度と加工性のバランスが良い。
特にダイカスト製法では、亜鉛合金が最も多く使用される素材
となっています。
亜鉛合金は錆びるのか
続いては、亜鉛合金は錆びるのかを確認していきます。
亜鉛合金が錆びる仕組み
結論から言うと、亜鉛合金は錆びます。
亜鉛は金属の中でも比較的イオン化傾向が大きく、酸化されやすい性質を持っています。
亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が大きいため、鉄よりも酸化（錆び）やすい金属です。
化学反応式：
2Zn + O₂ → 2ZnO（酸化亜鉛）
Zn + H₂O + CO₂ → ZnCO₃（炭酸亜鉛）
ただし、亜鉛の錆びは鉄の錆びとは性質が異なります。鉄の錆び（赤錆）は疎で剥がれやすく、錆びが進行すると内部まで腐食が進みます。一方、亜鉛の錆びは比較的緻密で、ある程度は内部を保護する働きがあります。
白錆（亜鉛の錆）とは
亜鉛合金の錆びは、「白錆」として現れることが一般的です。
・質感：粉状または塊状
・発生箇所：表面全体または局部的
・進行速度：環境によって大きく異なる
白錆は、酸化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛などの白色の化合物
です。鉄の赤錆とは見た目が大きく異なります。
| 項目 | 亜鉛の白錆 | 鉄の赤錆 |
|---|---|---|
| 色 | 白色・灰白色 | 赤褐色 |
| 構造 | やや緻密 | 疎で剥がれやすい |
| 保護性 | ある程度ある | ほとんどない |
| 進行 | 比較的遅い | 速い |
| 外観への影響 | 白い粉が付着 | 赤茶色に変色 |
白錆が発生すると、表面に白い粉状の物質が付着したり、白っぽく曇ったように見えたりします。進行すると、表面が荒れて美観を損ないます。
亜鉛合金が錆びやすい条件
亜鉛合金は、特定の環境下で錆びやすくなります。
湿度が高いと、表面に水分が付着しやすく、錆びが進行します。特に湿度80%以上の環境は要注意です。
2. 結露が発生する環境
温度変化により結露が生じると、水滴が表面に付着して錆びの原因になります。
3. 海岸地域
塩分を含む海風にさらされると、塩化物による腐食が促進されます。
4. 酸性・アルカリ性環境
pH が中性から外れると、腐食が進みやすくなります。
5. 汗や皮脂が付着
アクセサリーなど、直接肌に触れる製品では、汗や皮脂による腐食が起こります。
6. 通気性の悪い場所
密閉された空間や風通しの悪い場所では、湿気がこもりやすく錆びやすくなります。
逆に、乾燥した室内環境で適切に保管すれば、亜鉛合金製品は長期間美しい状態を保つことができます。
ダイカスト製品と亜鉛合金
続いては、ダイカスト製品と亜鉛合金を確認していきます。
ダイカストとは何か
ダイカストとは、溶かした金属を金型に高圧で注入して成形する鋳造方法
のことです。英語では「die casting」と書き、「金型（die）」に「鋳造（casting）」するという意味です。
精密な金型を製作し、加熱して準備します。
2. 金属溶解
亜鉛合金を約420℃程度に溶かします。
3. 射出成形
溶けた金属を高圧（数百気圧）で金型に注入します。
4. 冷却・固化
金型内で急速に冷却し、固めます。
5. 取り出し
金型を開き、製品を取り出します。
6. 後処理
バリ取り、表面処理などを行います。
ダイカストの利点は、複雑な形状を高精度で大量生産できることです。金型製作に初期コストがかかりますが、大量生産すれば単価を大幅に下げられます。
亜鉛ダイカストの特徴
ダイカストには様々な金属が使用されますが、亜鉛合金は最も広く使われる素材の一つです。
約420℃と低いため、金型の寿命が長く、エネルギーコストも低い
2. 流動性が優れる
細かいディテールまで再現できる
3. 寸法精度が高い
収縮が少なく、±0.05mm程度の精度が得られる
4. 表面が滑らか
仕上がりが美しく、メッキ処理の下地として最適
5. 機械加工が容易
後加工でネジ穴などを追加できる
6. コストパフォーマンスが高い
材料費、加工費ともに比較的安価
| ダイカスト材料 | 融点 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 亜鉛合金 | 420℃ | 精度高い、低コスト | 小型部品、装飾品 |
| アルミニウム合金 | 660℃ | 軽量、強度高い | 自動車、電子機器 |
| マグネシウム合金 | 650℃ | 超軽量、高価 | 航空機、高級品 |
亜鉛ダイカストは、精密な小型部品や装飾品の製造に特に適しています。
ダイカスト製品の錆び対策
亜鉛ダイカスト製品は、錆びを防ぐために様々な表面処理が施されます。
薄い化成皮膜を形成し、軽度の防錆効果を与える。低コスト。
2. 電気メッキ
ニッケルメッキ、クロムメッキなどを施し、耐食性と美観を向上させる。
3. 粉体塗装
樹脂粉末をコーティングし、高い防錆効果を得る。カラーバリエーション豊富。
4. 塗装
液体塗料を塗布し、防錆と装飾を兼ねる。
5. アルマイト風処理
表面に酸化皮膜を形成し、耐食性を向上させる。
表面処理を適切に施せば、亜鉛ダイカスト製品は屋外でも長期間使用できます。
ただし、表面処理が剥がれたり傷ついたりすると、そこから錆びが発生する可能性があります。
アクセサリーと亜鉛合金
続いては、アクセサリーと亜鉛合金を確認していきます。
アクセサリーに使われる亜鉛合金
ファッションアクセサリーやコスチュームジュエリーでは、亜鉛合金が広く使用されています。
金や銀に比べて圧倒的に安価で、手頃な価格の製品を作れる
2. 加工しやすい
複雑なデザインを再現でき、細かい装飾も可能
3. 適度な重量感
軽すぎず重すぎず、高級感のある重量感がある
4. メッキ性が良い
金メッキ、銀メッキなどの下地として最適
5. 大量生産に適している
ダイカストや鋳造により、効率的に量産できる
プチプラアクセサリーや流行のデザインを取り入れたファッションジュエリーの多くが亜鉛合金製
です。
| 素材 | 価格帯 | 特徴 | 錆びやすさ |
|---|---|---|---|
| 金・銀（貴金属） | 高価 | 耐久性高い、変色少ない | 錆びない |
| ステンレス | 中程度 | 錆びにくい、丈夫 | 非常に低い |
| 真鍮 | 中程度 | 変色しやすいが味わい | 低〜中 |
| 亜鉛合金 | 安価 | デザイン自由度高い | 中〜高 |
アクセサリーが錆びる原因
亜鉛合金製のアクセサリーが錆びる主な原因は、日常的な使用による環境要因です。
肌に直接触れるため、汗や皮脂による腐食が起こりやすい。特に夏場や運動時は注意。
2. 水分・湿気
入浴時につけたまま、雨に濡れる、湿気の多い場所での保管などが原因。
3. 化粧品・香水
化学成分がメッキを侵食し、下地の亜鉛合金を露出させる。
4. 海水・塩分
海やプールで着用すると、塩分により急速に腐食が進む。
5. 摩擦・擦れ
表面のメッキが摩耗し、下地が露出すると錆びやすくなる。
6. 保管方法
密閉容器や湿気の多い場所での保管は、白錆の原因になる。
特に汗をかきやすい夏場は、使用後に柔らかい布で拭くなどの手入れが重要
です。
メッキ処理の役割と種類
アクセサリー用の亜鉛合金は、ほぼ必ずメッキ処理が施されています。
金色の美しい仕上がり。厚メッキほど耐久性が高い。
2. ロジウムメッキ
銀白色で光沢が強い。変色しにくく、プラチナに似た外観。
3. シルバーメッキ（銀メッキ）
銀色の仕上がり。比較的変色しやすい。
4. ニッケルメッキ
下地処理として使用されることが多い。金属アレルギーの原因になることもある。
5. クロムメッキ
硬くて耐摩耗性が高いが、アクセサリーでは少ない。
| メッキ種類 | 外観 | 耐久性 | 価格 |
|---|---|---|---|
| 18金メッキ | 濃い金色 | 高い | 高い |
| ロジウムメッキ | 銀白色・光沢強い | 非常に高い | やや高い |
| シルバーメッキ | 銀色 | 中程度 | 安価 |
| ニッケルフリーメッキ | 様々 | 中〜高 | やや高い |
メッキの厚さは、通常数ミクロン（0.001mm）程度
しかありません。そのため、摩擦や化学物質により比較的容易に劣化します。
高品質なアクセサリーでは、複数層のメッキ処理を施すことがあります。例えば、「亜鉛合金→銅メッキ→ニッケルメッキ→金メッキ」といった多層構造により、密着性と耐久性を向上させています。
亜鉛合金の錆を防ぐ方法
続いては、亜鉛合金の錆を防ぐ方法を確認していきます。
表面処理による防錆対策
亜鉛合金製品を錆から守る最も効果的な方法は、適切な表面処理を施すことです。
金属メッキにより、下地の亜鉛合金を保護します。メッキの種類や厚さにより耐久性が変わります。
2. 塗装・コーティング
樹脂やラッカーで表面を覆い、水分や酸素を遮断します。カラーバリエーションも豊富です。
3. クロメート処理（化成処理）
化学的に薄い皮膜を形成し、軽度の防錆効果を得ます。他の処理の下地としても使用されます。
4. 撥水コーティング
ナノテクノロジーを利用した撥水剤により、水分の付着を防ぎます。
5. ワックス処理
一時的な防錆として、ワックスやオイルで保護します。
既に所有している亜鉛合金製品に対しては、市販の防錆スプレーやコーティング剤を使用することで、ある程度の保護効果
が得られます。
日常的な手入れとメンテナンス
亜鉛合金製品、特にアクセサリーの美しさを保つには、日常的な手入れが重要です。
柔らかい布で汗や皮脂を拭き取ります。マイクロファイバークロスが最適です。
2. 水洗いは慎重に
どうしても洗う場合は、ぬるま湯で軽くすすぎ、すぐに完全に乾燥させます。
3. 化粧品・香水を避ける
着用する前に化粧や香水を済ませ、製品に付着しないようにします。
4. 入浴・運動時は外す
水や汗に長時間さらされないよう、これらの活動時は外しておきます。
5. 定期的な点検
メッキの剥がれや変色がないか、定期的にチェックします。
6. 専用クリーナーの使用
ジュエリークリーナーを使用する場合は、亜鉛合金対応のものを選びます。
柔らかい布で汚れを拭き取ります。
2. 防錆剤の塗布
CRC 5-56などの防錆潤滑剤を薄く塗布します。
3. 傷の早期補修
メッキが剥がれた部分は、タッチアップ塗装などで早めに補修します。
4. 定期点検
錆の兆候がないか、定期的に確認します。
日常的な手入れの習慣をつけることで、亜鉛合金製品の寿命を大幅に延ばすことができます。
保管方法と注意点
適切な保管方法は、亜鉛合金製品の錆び防止に非常に重要です。
他のアクセサリーと接触させず、個別の袋や小箱に入れます。
2. 乾燥剤を使用
シリカゲルなどの乾燥剤と一緒に保管し、湿気を防ぎます。
3. 密閉は避ける
完全密閉すると湿気がこもるため、やや通気性のある保管が理想です。
4. 直射日光を避ける
長期間日光に当たると、変色や劣化の原因になります。
5. 専用ケースの使用
ジュエリーボックスやアクセサリーケースを使用します。
6. 定期的に取り出す
長期保管でも、時々取り出して状態を確認し、空気に触れさせます。
可能な限り屋内の乾燥した場所で保管します。
2. 防錆油の塗布
長期保管する場合は、防錆油を薄く塗布します。
3. 通気性の確保
風通しの良い場所で保管し、湿気のこもりを防ぎます。
4. 定期点検
保管中も定期的に状態を確認します。
保管環境の湿度を60%以下に保つことが、錆び防止の重要なポイント
です。
まとめ｜錆びる理由・ダイカストやアクセサリーでの使用
本記事では、亜鉛合金が錆びるのか錆びないのか、その理由やメカニズム、ダイカストやアクセサリーでの使用例、そして錆を防ぐ方法について詳しく解説しました。
亜鉛合金は錆びる金属です。亜鉛はイオン化傾向が大きく、酸素や水分と反応して白錆を生成します。ただし、適切な表面処理（メッキや塗装）を施すことで、耐食性を大幅に向上させることができます。ダイカスト製品では複数層の防錆処理により高い耐久性を実現しており、自動車部品や工業製品として長期間使用されています。
アクセサリー用の亜鉛合金は、低コストで複雑なデザインを実現できるため、ファッションジュエリーに広く使用されています。錆びを防ぐには、使用後に汗や皮脂を拭き取り、湿気の少ない場所で個別に保管することが重要です。また、入浴や運動時には外し、化粧品や香水の付着を避けるなどの配慮も必要です。
適切な手入れと保管方法を実践することで、亜鉛合金製品を長く美しい状態で使い続けることができます。製品の特性を理解し、日常的なケアを心がけることが、錆び防止の最も効果的な方法です。
