科学

虚数単位とは?記号iやjの計算や書き方や読み方は?

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数学で虚数を学ぶ際に、必ず登場するのが「虚数単位i」です。i² = -1 という不思議な性質を持つこの記号は、一体どのような意味を持ち、どのように使われるのでしょうか。

本記事では、虚数単位の定義から、記号iやjの違い、計算方法、書き方や読み方まで、基礎から丁寧に解説していきます。

虚数単位は一見すると難解に思えますが、その仕組みを理解すれば、複素数の計算がスムーズに行えるようになります。電気工学ではjを使う理由や、実際の計算テクニックまで、実用的な内容も含めて確認していきましょう。虚数単位をマスターすることで、数学の世界が大きく広がるはずです。

虚数単位とは?定義と基本的な性質

それではまず、虚数単位の定義と基本的な性質について解説していきます。

虚数単位iの定義と誕生の背景

虚数単位iは、2乗すると-1になる数として定義されます。

実数の世界では、どんな数を2乗しても負の数にはなりません。正の数を2乗すれば正、負の数を2乗しても正、0を2乗すれば0です。

つまり、x² = -1 という方程式は、実数の範囲では解を持たないのです。

虚数単位iの定義

i² = -1

または

i = √(-1)

虚数単位が誕生した背景には、16世紀イタリアの数学者たちの研究がありました。

彼らは三次方程式を解く過程で、計算の途中に負の数の平方根が現れることに気づきました。最初は「意味のない数」として扱われましたが、この「架空の数」を認めることで、多くの方程式が解けるようになったのです。

歴史的経緯

16世紀:カルダノが三次方程式の解法で負の平方根に遭遇

17世紀:デカルトが「虚数(imaginary number)」と命名

18世紀:オイラーが記号iを導入

19世紀:ガウスが複素数平面で幾何学的解釈を与える

「虚数」という名前は、デカルトが「実在しない数」という意味で付けたものでした。しかし現代では、虚数は数学や物理学、工学で不可欠な存在となっています。

虚数は決して「架空」ではなく、実用的で重要な数学的道具なのです。

i² = -1という革新的な約束事

i² = -1 という定義は、数学史上最も革新的な「約束事」の一つです。

この約束を受け入れることで、数の世界が大きく拡張されました。

虚数単位の基本性質

i¹ = i

i² = -1

i³ = i² × i = -1 × i = -i

i⁴ = i² × i² = (-1) × (-1) = 1

iの累乗は、4つの値を周期的に繰り返します。

累乗 計算
i⁰ 1 任意の数の0乗
i 定義から
-1 定義から
-i i² × i = -i
i⁴ 1 i² × i² = 1
i⁵ i i⁴ × i = i

この周期性から、任意の累乗を簡単に計算できます。

累乗計算の方法

i^n を計算するには、nを4で割った余りを求める

余りが0 → i^n = 1

余りが1 → i^n = i

余りが2 → i^n = -1

余りが3 → i^n = -i

例:i²³ を計算

23 ÷ 4 = 5 余り 3

したがって、i²³ = i³ = -i

i² = -1 という約束は、一見すると矛盾しているように感じられるかもしれません。

しかし、これは新しいルールを追加しただけで、既存の実数の性質と矛盾するものではないのです。

虚数単位は実数を拡張し、より豊かな数の体系を作るための基礎となっています。

虚数単位が解決した数学の問題

虚数単位の導入により、多くの数学的問題が解決されました。

最も基本的な成果は、すべての二次方程式が解を持つようになったことです。

実数の範囲では解けなかった x² + 1 = 0 のような方程式も、虚数を使えば x = ±i という解を得られます。

虚数単位による方程式の解決

問題:x² = -4 を解け

実数の範囲:解なし

複素数の範囲:x = ±2i

計算過程

x² = -4

x = ±√(-4) = ±√(4 × (-1))

= ±√4 × √(-1) = ±2i

さらに重要なのが、代数学の基本定理です。

代数学の基本定理

n次方程式は、複素数の範囲で必ずn個の解を持つ

(重解を個数分として数える)

この定理により、どんな多項式方程式でも完全に解けることが保証されます。

三次方程式の解の公式(カルダノの公式)も、虚数を認めることで初めて実用的になりました。

方程式の次数 実数のみ 複素数を含む
1次方程式 必ず1個の解 必ず1個の解
2次方程式 0個、1個、2個の解 必ず2個の解
3次方程式 1個または3個の解 必ず3個の解
n次方程式 不定 必ずn個の解

虚数単位は、数学の「完全性」を実現する鍵だったのです。

記号iとjの違いと使い分け・読み方

続いては、虚数単位の記号と読み方について確認していきます。

数学ではi、工学ではjを使う理由

虚数単位の記号には、i(アイ)とj(ジェイ)の2種類があります。

どちらも同じ意味ですが、使われる分野によって使い分けられています。

記号の使い分け

i(アイ):数学、物理学、一般科学

j(ジェイ):電気工学、制御工学、信号処理

なぜ電気工学ではjを使うのでしょうか。

理由は、電気工学ではi が既に電流(current)を表す記号として使われているからです。

電気工学での記号使用

i:電流(instantaneous current)

I:電流の実効値(rms current)

j:虚数単位

例:電圧と電流の関係

V = ZI

ここでインピーダンス Z = R + jX

R:抵抗、X:リアクタンス

工学の教科書や論文では、j² = -1 と書かれることになります。

数学の文脈ではiを使い、電気回路の問題ではjを使うという使い分けが一般的です。

分野 虚数単位の記号 理由
数学 i imaginaryの頭文字
物理学 i 数学と統一
電気工学 j iは電流で使用
制御工学 j(または s) 電気工学の慣習

どちらの記号を使っても意味は同じですが、文脈に応じて適切な記号を選ぶことが重要です。

論文や教科書を読む際は、その分野の慣習に注意しましょう。

虚数単位の正しい読み方と発音

虚数単位の読み方は、記号によって異なります。

読み方

i:「アイ」

j:「ジェイ」

i²:「アイの2乗」または「アイ二乗」

3i:「さんアイ」または「3アイ」

複素数の読み方も確認しておきましょう。

複素数の読み方

2 + 3i:「に プラス さんアイ」

-1 – 2i:「マイナスいち マイナス にアイ」

5i:「ごアイ」または「5アイ」

-i:「マイナスアイ」

i/2:「アイ ぶんの に」または「に分のアイ」

英語での読み方も参考までに紹介します。

記号 日本語 英語
i アイ i (アイ)
3 + 2i さん プラス にアイ three plus two i
-4i マイナス よんアイ minus four i / negative four i
アイの二乗 i squared

学術的な場面では、明瞭に発音することが大切です。

「さんアイ」と「さん掛けるアイ」は同じ意味ですが、「さんアイ」の方が簡潔で一般的です。

書き方のルールと注意点

虚数単位を書く際には、いくつかのルールと注意点があります。

基本的な書き方のルール

1. iは斜体(イタリック)で書く

2. 数字とiの間に × は書かない

3. iは通常、数字の後に書く

4. 係数が1の場合、1は省略してiと書く

具体的な例を見てみましょう。

正しい書き方と間違った書き方

正しい:3i

間違い:3 × i、3・i、i3

正しい:-2i

間違い:-2 × i、i(-2)

正しい:i(係数1の場合)

間違い:1i

正しい:(2 + 3i) / 5

間違い:2 + 3i / 5(優先順位が不明確)

分数の形で書く場合の注意点もあります。

複素数が分母にある場合、分母の有理化(実数化)を行うのが一般的です。

分母の実数化

問題:1 / (2 + i) を実数化せよ

分子と分母に共役複素数を掛ける

1 / (2 + i) × (2 – i) / (2 – i)

= (2 – i) / ((2 + i)(2 – i))

= (2 – i) / (4 – i²)

= (2 – i) / (4 + 1)

= (2 – i) / 5

= 2/5 – i/5

手書きの場合、iとjの区別が明確になるように書くことも重要です。

印刷物では斜体のi、手書きでは縦棒に点を打つなど、視認性に配慮しましょう。

虚数単位の計算方法と演算規則

次に、虚数単位を使った計算方法を見ていきましょう。

iの累乗計算とパターンの規則性

iの累乗計算は、4で割った余りを利用すると簡単です。

iの累乗の周期性

i⁴ⁿ = 1

i⁴ⁿ⁺¹ = i

i⁴ⁿ⁺² = -1

i⁴ⁿ⁺³ = -i

(nは整数)

この規則性を使った計算例を見てみましょう。

累乗計算の実践

例1:i⁵⁰ を計算

50 ÷ 4 = 12 余り 2

i⁵⁰ = i⁴×¹²⁺² = i² = -1

例2:i⁹⁹ を計算

99 ÷ 4 = 24 余り 3

i⁹⁹ = i⁴ײ⁴⁺³ = i³ = -i

例3:i¹⁰⁰⁰ を計算

1000 ÷ 4 = 250 余り 0

i¹⁰⁰⁰ = i⁴ײ⁵⁰ = i⁰ = 1

負の累乗も同様に計算できます。

負の累乗

i⁻¹ = 1/i = 1/i × i/i = i/i² = i/(-1) = -i

i⁻² = 1/i² = 1/(-1) = -1

i⁻³ = 1/i³ = 1/(-i) = -1/i = -1/i × i/i = -i/(-1) = i

i⁻⁴ = 1/i⁴ = 1/1 = 1

負の累乗も4つの周期

で繰り返すことが分かります。

四則演算における虚数単位の扱い方

虚数単位を含む四則演算の方法を確認しましょう。

加法と減法

実部同士、虚部同士をそれぞれ計算

(a + bi) + (c + di) = (a + c) + (b + d)i

(a + bi) – (c + di) = (a – c) + (b – d)i

加法・減法の例

(3 + 2i) + (1 + 4i) = 4 + 6i

(5 – 3i) – (2 – i) = 3 – 2i

(4 + i) + (-4 + 3i) = 0 + 4i = 4i

乗法では、i² = -1 を使って整理します。

乗法

展開してi²を-1に置き換える

(a + bi)(c + di) = ac + adi + bci + bdi²

= ac + (ad + bc)i + bd(-1)

= (ac – bd) + (ad + bc)i

乗法の例

(2 + 3i)(1 + 4i)

= 2 + 8i + 3i + 12i²

= 2 + 11i + 12(-1)

= 2 + 11i – 12

= -10 + 11i

(3 – 2i)(3 + 2i)

= 9 + 6i – 6i – 4i²

= 9 – 4(-1)

= 9 + 4 = 13

除法は分母の実数化を行います。

除法の例

(3 + 4i) / (1 + 2i)

= (3 + 4i) / (1 + 2i) × (1 – 2i) / (1 – 2i)

= ((3 + 4i)(1 – 2i)) / ((1 + 2i)(1 – 2i))

= (3 – 6i + 4i – 8i²) / (1 – 4i²)

= (3 – 2i + 8) / (1 + 4)

= (11 – 2i) / 5

= 11/5 – 2i/5

分母を実数にする

ことが除法の基本テクニックです。

複素数の計算における実践テクニック

複素数の計算を効率化するテクニックをいくつか紹介します。

便利な計算テクニック

1. 共役複素数の積は実数になる

2. iの累乗は周期性を利用

3. 分母の実数化は共役複素数を掛ける

4. 絶対値の計算は z · z̄ を使う

テクニック1:共役複素数の積

(a + bi)(a – bi) = a² – (bi)² = a² – b²i² = a² + b²

例:(3 + 4i)(3 – 4i) = 9 + 16 = 25

この性質は分母の実数化で活用される

テクニック2:絶対値の計算

|a + bi| = √(a² + b²)

または

|z|² = z · z̄

例:|3 + 4i|² = (3 + 4i)(3 – 4i) = 25

よって |3 + 4i| = 5

計算の種類 ポイント
加減算 実部と虚部を別々に (2+3i)+(1-i)=3+2i
乗算 i²=-1で置換 i·2i=2i²=-2
除算 分母を実数化 1/i=-i
累乗 4の剰余を利用 i⁵=i

計算ミスを防ぐコツ

は、各ステップを丁寧に書き出すことです。

特にi²が現れたら、すぐに-1に置き換える習慣をつけましょう。

虚数単位の応用と実社会での活用

最後に、虚数単位の応用と実際の使われ方を確認していきます。

電気工学における虚数単位jの役割

電気工学では、虚数単位j(ジェイ)が交流回路の解析に不可欠です。

交流電圧や電流は時間とともに変化するため、その位相関係を表現するのに複素数が使われます。

電気工学での複素数表現

電圧:V = V₀e^(jωt) = V₀(cos ωt + j sin ωt)

インピーダンス:Z = R + jX

R:抵抗(レジスタンス)

X:リアクタンス

回路素子のインピーダンス

抵抗R:Z = R(実数)

コイルL:Z = jωL(純虚数)

コンデンサC:Z = 1/(jωC) = -j/(ωC)(純虚数)

ここでω = 2πf(角周波数)

虚数単位を使うことで、位相のずれを自然に表現できます。

例えば、コイルでは電流が電圧より90度遅れますが、これはインピーダンスが純虚数であることに対応しています。

素子 インピーダンス 位相
抵抗 R 0度(同相)
コイル jωL +90度(電流が遅れ)
コンデンサ -j/(ωC) -90度(電流が進み)

複雑な回路でも、複素数を使えばオームの法則が適用できます。

量子力学と波動関数での活用

量子力学では、虚数単位iが本質的な役割を果たします。

量子力学の基本方程式であるシュレーディンガー方程式には、虚数単位が含まれています。

シュレーディンガー方程式(時間依存)

iℏ ∂ψ/∂t = Ĥψ

ここで

i:虚数単位

ℏ:プランク定数を2πで割った値

ψ:波動関数(複素数値)

Ĥ:ハミルトニアン演算子

波動関数ψは複素数値を取り、粒子の状態を記述します。

粒子がある位置に存在する確率は、|ψ|² = ψ · ψ̄ で計算されるため、虚数部分も物理的に意味を持ちます。

平面波の表現

ψ = Ae^(i(kx – ωt))

= A(cos(kx – ωt) + i sin(kx – ωt))

k:波数

ω:角周波数

この表現により、波の伝播が簡潔に記述される

虚数なしでは現代量子力学は成り立たない

と言っても過言ではありません。

電子の振る舞い、原子の構造、化学結合など、ミクロな世界の理解には虚数単位が不可欠なのです。

信号処理とフーリエ変換での重要性

信号処理の分野では、フーリエ変換に虚数単位が使われます。

フーリエ変換

F(ω) = ∫ f(t)e^(-iωt) dt

時間領域の信号を周波数領域に変換

e^(-iωt) = cos(ωt) – i sin(ωt)

フーリエ変換により、音声や画像などの信号を周波数成分に分解できます。

この技術は、以下のような場面で活用されています。

応用分野 用途 虚数単位の役割
音声処理 ノイズ除去、音質改善 周波数成分の分離
画像処理 圧縮、フィルタリング 2次元フーリエ変換
通信技術 変調、復調 位相情報の保持
医療画像 MRI、CT 空間周波数解析
実用例:MP3圧縮

音楽ファイルのMP3圧縮では

1. フーリエ変換で周波数成分に分解

2. 人間に聞こえにくい周波数を削除

3. 逆フーリエ変換で音声に戻す

このプロセス全体で複素数計算が使われる

スマートフォンで音楽を聴いたり、画像を編集したりする際、裏側では虚数単位を使った複雑な計算が行われているのです。

GPS、無線通信、レーダー技術なども、複素数と虚数単位の理論に基づいています。

虚数単位は、現代のデジタル技術を支える基盤の一つと言えるでしょう。

まとめ

虚数単位iは、i² = -1 という性質を持つ特殊な数として定義されます。数学ではi、電気工学ではjという記号が使われ、どちらも「アイ」「ジェイ」と読みます。

iの累乗は4つの値を周期的に繰り返し、この規則性を利用することで複雑な計算も簡単に行えます。四則演算では、i²を-1に置き換えることが基本となり、分母の実数化には共役複素数を活用します。

虚数単位は電気工学の交流回路解析、量子力学の波動関数、信号処理のフーリエ変換など、現代科学技術の多くの分野で不可欠な役割を果たしています。一見すると抽象的な概念ですが、私たちの日常生活を支える実用的な数学的道具なのです。

虚数単位を理解することで、数学と科学技術の深いつながりを実感できるでしょう。