構造設計や機械設計において、部材の強度を評価する際に必ず必要となるのが断面係数の計算です。梁や柱、シャフトなどが曲げ荷重を受けたとき、どれだけの応力が発生するかを知るために、断面係数は欠かせない指標となっています。
しかし、断面の形状によって計算方法が異なるため、「円の断面係数はどう求めるの?」「角パイプの場合は?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
実際の設計現場では、長方形や円形、さらには中空の円筒や角パイプなど、様々な断面形状を扱う必要があるのです。
本記事では、代表的な断面形状における断面係数の求め方を、具体的な計算例を交えながら徹底的に解説していきます。長方形断面の基本から、円形、円筒、角パイプまで、それぞれの公式と計算手順を詳しく見ていきましょう。
公式を暗記するだけでなく、なぜその式になるのかという背景も理解することで、応用力が身につくはずです。実務で即座に活用できる知識を、一緒に学んでいきましょう。
断面係数を求めるための基礎知識

それではまず、断面係数を計算する前に知っておくべき基礎知識について解説していきます。
断面係数の基本公式と断面二次モーメント
断面係数Zを求める基本公式は、断面二次モーメントIを中立軸からの距離yで割るという形で表されます。
断面係数の基本公式
Z = I / y
ここで、
- Z:断面係数(mm³、cm³)
- I:断面二次モーメント(mm⁴、cm⁴)
- y:中立軸から最外縁までの距離(mm、cm)
断面二次モーメントとは、断面内の各微小要素について、中立軸からの距離の2乗と面積を掛け合わせたものを積分した値です。これが曲げに対する抵抗性の基礎となっているのです。
中立軸は、曲げモーメントを受けたときに応力がゼロとなる位置を指します。対称な断面では図心を通る軸が中立軸となるでしょう。
断面形状と断面係数の関係性
断面係数は形状によって大きく異なる特性を持っています。同じ断面積であっても、形状が違えば断面係数は変わってくるのです。
例えば、長方形断面では高さの2乗に比例するため、高さ方向を大きくすることで効率的に断面係数を増やせます。一方、円形断面では直径の3乗に比例するという特徴があるでしょう。
中空断面(パイプ形状)は、外側に材料を配置することで、少ない材料で大きな断面係数を実現できます。これが鋼管や角パイプが構造材として優れている理由なのです。
計算に必要な寸法の測り方と単位
正確な断面係数を求めるためには、適切な寸法測定が不可欠です。長方形なら幅と高さ、円なら直径、中空断面なら外径と内径を正確に測定する必要があるでしょう。
寸法測定のポイント
- ノギスやマイクロメーターを使用して精密に測定
- 複数箇所を測定して平均値を取る
- 単位はmm、cm、mで統一する
- 計算途中での単位換算ミスに注意
単位については、mm³やcm³が一般的に使用されます。1 cm = 10 mm、1 cm³ = 1,000 mm³という関係を覚えておくと便利です。
計算では、すべての寸法を同じ単位に揃えることが重要でしょう。途中で単位が混在すると、計算結果が大きく狂ってしまいます。
長方形断面の断面係数の求め方
続いては、最も基本的な長方形断面における断面係数の求め方を確認していきます。
長方形断面の公式と導出過程
幅b、高さhの長方形断面における断面係数は、次の公式で求められます。
長方形断面の断面係数公式
Z = b × h² / 6
または
I = b × h³ / 12(断面二次モーメント)
y = h / 2(中立軸から最外縁まで)
Z = I / y = (b × h³ / 12) / (h / 2) = b × h² / 6
この公式から、断面係数は高さの2乗に比例することがわかります。つまり、高さを2倍にすれば断面係数は4倍になるのです。
幅を増やすよりも高さを増やす方が、断面係数の増加には効果的だということですね。これが梁を設計する際に、高さ方向を大きくする理由となっています。
具体的な計算例(数値を用いて)
実際に数値を使って計算してみましょう。幅100mm、高さ200mmの長方形断面の場合を考えます。
計算例1:幅100mm、高さ200mmの長方形
Z = b × h² / 6
Z = 100 × 200² / 6
Z = 100 × 40,000 / 6
Z = 4,000,000 / 6
Z = 666,667 mm³
Z ≒ 667 cm³(1 cm³ = 1,000 mm³で換算)
もう一つ、幅50mm、高さ300mmの場合も計算してみましょう。
計算例2:幅50mm、高さ300mmの長方形
Z = 50 × 300² / 6
Z = 50 × 90,000 / 6
Z = 750,000 mm³ = 750 cm³
計算例1と2を比較すると、断面積はどちらも同じ20,000mm²ですが、高さが大きい方が断面係数も大きくなっていることがわかるでしょう。
木材や鋼材における実務での活用
木造建築では、105mm×210mmや120mm×240mmといった規格寸法の製材が使われます。これらの断面係数を事前に計算しておくと、設計がスムーズに進むのです。
| 木材寸法(幅×高さ) | 断面積(cm²) | 断面係数(cm³) |
|---|---|---|
| 105mm × 210mm | 220.5 cm² | 772 cm³ |
| 120mm × 240mm | 288 cm² | 1,152 cm³ |
| 150mm × 300mm | 450 cm² | 2,250 cm³ |
鋼材でも平鋼などの長方形断面が使用されます。許容曲げ応力と必要断面係数から、適切な部材サイズを選定するという流れになるでしょう。
円形断面と円筒(中空円)の断面係数の求め方
続いては、円形断面と円筒形状における断面係数の計算方法を確認していきます。
円形断面(中実円)の公式と計算手順
直径dの円形断面における断面係数は、次の公式で表されます。
円形断面の断面係数公式
Z = π × d³ / 32
または
I = π × d⁴ / 64(断面二次モーメント)
y = d / 2(中立軸から最外縁まで)
Z = I / y = (π × d⁴ / 64) / (d / 2) = π × d³ / 32
円形断面では、直径の3乗に比例するという特徴があります。πを3.14として計算すると、Z ≒ 0.0982 × d³となるでしょう。
具体例として、直径50mmの丸棒を計算してみます。
計算例:直径50mmの円形断面
Z = π × 50³ / 32
Z = 3.14159 × 125,000 / 32
Z = 392,699 / 32
Z ≒ 12,272 mm³ ≒ 12.3 cm³
円筒(中空円形)の公式と計算方法
外径D、内径dの円筒における断面係数は、中実円よりも複雑な公式となります。
円筒の断面係数公式
Z = π × (D⁴ – d⁴) / (32 × D)
または
I = π × (D⁴ – d⁴) / 64(断面二次モーメント)
y = D / 2(中立軸から最外縁まで)
Z = I / y
円筒断面の特徴
- 外側に材料を配置することで効率的
- 同じ断面積でも中実円より断面係数が大きい
- 軽量化と強度確保の両立が可能
- 鋼管、アルミパイプなどに広く使用される
外径60mm、内径50mmの円筒を計算してみましょう。
計算例:外径60mm、内径50mmの円筒
Z = π × (60⁴ – 50⁴) / (32 × 60)
Z = 3.14159 × (12,960,000 – 6,250,000) / 1,920
Z = 3.14159 × 6,710,000 / 1,920
Z ≒ 10,975 mm³ ≒ 11.0 cm³
外径60mmの中実円と比較すると、断面積は約40%少ないのに、断面係数は約50%程度を維持しています。これが円筒形状の効率性なのです。
パイプ材料における肉厚の影響
円筒形状では、肉厚(外径と内径の差)が断面係数に大きく影響します。肉厚をtとすると、内径d = D – 2tという関係になるでしょう。
| 外径D(mm) | 肉厚t(mm) | 内径d(mm) | 断面係数Z(cm³) |
|---|---|---|---|
| 60 | 2 | 56 | 6.5 |
| 60 | 5 | 50 | 11.0 |
| 60 | 10 | 40 | 17.7 |
肉厚を増やすほど断面係数は大きくなりますが、重量も増加します。設計では強度と重量のバランスを考慮して最適な肉厚を選定することが重要なのです。
一般的な鋼管の規格では、外径と肉厚の組み合わせが標準化されています。JIS規格やメーカーカタログを参照すると、断面係数が記載されているでしょう。
角パイプ(角形鋼管)の断面係数の求め方
続いては、角パイプの断面係数について詳しく見ていきます。
角パイプの基本公式と構造
角パイプは、外側が幅B、高さHの長方形で、内側が幅b、高さhの長方形となる中空断面です。断面係数は次のように求められます。
角パイプの断面係数公式
Z = (B × H² – b × h²) / (6 × H)
または、外側と内側の断面係数の差として
Z外 = B × H² / 6
Z内 = b × h² / 6
I = I外 – I内 = B × H³ / 12 – b × h³ / 12
y = H / 2
Z = I / y
正方形の角パイプ(B = H、b = h)の場合は、計算がシンプルになります。外辺をa、内辺をcとすると、Z = (a⁴ – c⁴) / (6a)となるのです。
肉厚から内法寸法を求める計算
角パイプでは、外法寸法と肉厚から内法寸法を計算する必要があります。肉厚をtとすると、次の関係が成り立つでしょう。
内法寸法の計算
内側の幅 b = B – 2t
内側の高さ h = H – 2t
例:外法100mm × 100mm、肉厚3.2mmの角パイプ
b = 100 – 2 × 3.2 = 93.6 mm
h = 100 – 2 × 3.2 = 93.6 mm
この内法寸法を使って断面係数を計算します。
計算例:□100×100×3.2の角パイプ
Z = (100 × 100² – 93.6 × 93.6²) / (6 × 100)
Z = (1,000,000 – 820,026) / 600
Z = 179,974 / 600
Z ≒ 300 mm³ = 30.0 cm³
規格品の角パイプにおける断面係数一覧
実務では、JIS規格に基づく標準サイズの角パイプが使用されます。主要なサイズの断面係数を把握しておくと便利でしょう。
| 角パイプサイズ | 肉厚(mm) | 断面係数Zx(cm³) | 重量(kg/m) |
|---|---|---|---|
| □50×50 | 2.3 | 7.0 | 3.22 |
| □75×75 | 3.2 | 20.5 | 6.85 |
| □100×100 | 3.2 | 30.0 | 9.76 |
| □150×150 | 4.5 | 95.8 | 20.3 |
角パイプは、四隅に材料が配置されることで効率的に曲げモーメントに抵抗できるという特徴があります。建築の柱や鉄骨フレームに多用される理由がここにあるのです。
長方形の角パイプ(B ≠ H)の場合、強軸と弱軸で断面係数が異なります。設計では、荷重方向に応じて適切な断面係数を使用する必要があるでしょう。
断面係数計算における実務上の注意点
続いては、実際に断面係数を計算・活用する際の注意点を確認していきます。
単位換算と計算ミスの防止
断面係数の計算で最も多いミスが単位の取り扱いです。寸法をmmで測定したのに、計算途中でcmと混在させてしまうケースが頻繁に見られます。
単位換算の基本
- 1 cm = 10 mm
- 1 cm² = 100 mm²
- 1 cm³ = 1,000 mm³
- 1 cm⁴ = 10,000 mm⁴
- 計算はすべて同じ単位で統一する
例えば、幅10cm、高さ20cmの長方形でmmとcmを混在させると、Z = 10 × 20² / 6 = 666.67という誤った結果になってしまいます。正しくは、すべてcmで統一してZ = 10 × 20² / 6 = 666.67 cm³、またはすべてmmで統一してZ = 100 × 200² / 6 = 666,667 mm³となるのです。
計算後は、オーダー(桁数)が妥当かどうか確認する習慣をつけましょう。極端に大きい値や小さい値が出たら、単位換算ミスを疑うべきです。
複雑な断面形状への対応方法
実際の設計では、I形鋼やH形鋼、T形断面など、より複雑な形状を扱うこともあります。こうした場合の基本的なアプローチを理解しておきましょう。
複雑な断面は、複数の長方形に分割して考えることができます。各部分の断面二次モーメントを平行軸の定理を使って合成し、最終的に断面係数を求めるのです。
平行軸の定理
I = Ic + A × d²
ここで、
- I:全体の図心軸まわりの断面二次モーメント
- Ic:各部分の自身の図心軸まわりの断面二次モーメント
- A:各部分の断面積
- d:各部分の図心から全体の図心までの距離
ただし、実務では規格品の形鋼を使用することが多く、メーカーカタログに断面係数が記載されています。複雑な計算を毎回行う必要はないでしょう。
設計時の断面係数の選定基準
設計では、必要断面係数から適切な部材を選定します。その基本的な流れを押さえておきましょう。
まず、作用する曲げモーメントMと許容曲げ応力σaから、必要断面係数Zを算出します。
必要断面係数の計算
σ = M / Z ≦ σa
したがって
Z ≧ M / σa
例:曲げモーメント10 kN・m、許容応力150 N/mm²の場合
Z ≧ 10,000,000 N・mm / 150 N/mm²
Z ≧ 66,667 mm³ = 66.7 cm³
この必要断面係数以上の値を持つ部材を、規格品やカタログから選定します。安全率を考慮して、計算値よりもやや大きめの断面係数を選ぶのが一般的でしょう。
材料の種類によって許容応力が異なるため、鋼材なのか、アルミなのか、木材なのかによって、同じ荷重でも必要な断面係数は変わってきます。材料特性を十分に理解した上で設計を進めることが重要なのです。
まとめ 断面係数(円や角パイプ・長方形)の計算方法を徹底解説!【円筒】
断面係数の求め方について、代表的な断面形状ごとに詳しく解説してきました。
長方形断面ではZ = bh²/6、円形断面ではZ = πd³/32という基本公式を押さえることが第一歩です。
中空断面である円筒や角パイプでは、外側の断面係数から内側の断面係数を引く考え方が基本となります。これらの形状は、少ない材料で大きな断面係数を実現できるため、構造材として広く使用されているのです。
実務では、単位の統一と換算ミスの防止が極めて重要でしょう。mmとcmの混在は計算ミスの最大の原因となります。すべての寸法を同じ単位に揃えてから計算を始める習慣をつけてください。
また、複雑な断面形状については、規格品のカタログ値を活用することで効率的に設計を進められます。基本的な公式を理解した上で、実務では適切なツールやリソースを活用していくことが大切なのです。
本記事で学んだ知識を基礎として、より安全で経済的な構造設計に取り組んでいただければ幸いです。