日常生活の中で何気なく使っている道具の多くは、実は「てこの原理」を応用したものです。栓抜きでビールの栓を開けるとき、ハサミで紙を切るとき、あるいはシーソーで遊ぶとき。これらすべてに共通しているのが、支点・力点・作用点という3つの要素でしょう。
てこの原理は、小さな力で大きな仕事を成し遂げるための基本的な物理法則であり、古代ギリシャの科学者アルキメデスが「私に支点を与えよ。そうすれば地球をも動かしてみせよう」と語ったことでも有名です。
しかし、支点・力点・作用点と聞いても、それぞれの違いや位置関係がよく分からない方も多いのではないでしょうか。また、力のモーメントの計算で出てくる「Cm」という単位についても、具体的な求め方が分からず困っている学生さんも少なくありません。
本記事では、てこの原理における支点・力点・作用点の基本概念から、実際の計算方法、さらには栓抜きや人間の手など身近な例を通して、分かりやすく解説していきます。物理が苦手な方でも理解できるよう、丁寧に説明していきますので、ぜひ最後までお読みください。
支点・力点・作用点の基本的な定義と役割
それではまず、てこの原理を理解する上で最も重要な3つの点について解説していきます。
支点とは何か
支点は、てこが回転する中心となる固定点
のことを指します。英語では「Fulcrum」と呼ばれ、てこ全体を支える基準点としての役割を果たすでしょう。
シーソーを思い浮かべてみてください。中央にある三角形の支えがまさに支点です。この点を中心として、板が左右に回転運動を行います。支点の位置によって、必要な力の大きさや動く距離が大きく変わってくるのです。
支点は固定されているため動かず、力点と作用点の位置関係を決める基準となります。支点の位置を変えることで、同じ力でもより大きな効果を生み出すことが可能になるのです。
力点の意味と特徴
力点は、私たちが実際に力を加える点のことです。英語では「Effort」と表現され、文字通り努力を加える場所を意味します。
栓抜きを使う場面を想像してみましょう。私たちが手で押し下げる部分が力点に当たります。力点に加える力の大きさと、支点からの距離の積が、てこの効果を決定する重要な要素となるのです。
力点の位置が支点から遠ければ遠いほど、小さな力で大きな効果を得られます。これが「てこの原理」の核心部分でしょう。長い棒を使うと重いものを動かしやすいのは、まさにこの原理に基づいています。
作用点の働きとは
作用点は、てこによって実際に仕事をされる点、つまり対象物に力が伝わる点です。英語では「Load」と呼ばれ、負荷がかかる場所を示します。
作用点には、私たちが動かしたい物体や持ち上げたい重りが位置しています。栓抜きの例で言えば、瓶の栓が押し上げられる部分が作用点となるのです。
作用点に働く力は、力点に加えた力とは異なる大きさになります。支点からの距離関係によって、力点での小さな力が作用点では大きな力に変換されるのです。この力の変換こそが、てこを使う最大のメリットと言えるでしょう。
支点・力点・作用点の3点セットを理解することが、てこの原理を使いこなす第一歩です。この3つの位置関係によって、てこは「第1種」「第2種」「第3種」の3つに分類されます。
てこの原理とモーメントの基礎知識
続いては、てこの原理の物理的な仕組みとモーメントの概念を確認していきます。
てこの原理の基本法則
てこの原理は、「力点に加えた力×支点からの距離」と「作用点に働く力×支点からの距離」が等しくなるという法則です。これをつり合いの式で表すと、次のようになります。
力点の力 × 力点から支点までの距離 = 作用点の力 × 作用点から支点までの距離
F₁ × L₁ = F₂ × L₂
この式から分かるように、支点からの距離が長ければ長いほど、小さな力で大きな力を生み出せるのです。たとえば、支点から力点までの距離が作用点までの距離の2倍であれば、半分の力で同じ効果が得られるでしょう。
実際の生活で考えてみると、重い石を動かすとき、長い棒を使った方が楽に動かせます。これは力点が支点から遠くなることで、小さな力でも大きなモーメントを生み出せるためです。

モーメント(トルク)とは
モーメントは、物体を回転させようとする力の効果を表す物理量です。別名「トルク」とも呼ばれ、力の大きさと支点からの距離(腕の長さ)の積で表現されます。
モーメントの単位は「N・m(ニュートンメートル)」または「Kgf・cm」などが使われます。Cmという表記を見かけることがありますが、これは「センチメートル」を意味し、力の単位と組み合わせて「Kgf・cm」などとして使用されるのです。
モーメント = 力 × 距離
M = F × L
例:10Nの力を支点から50cm(0.5m)の位置に加えた場合
M = 10N × 0.5m = 5N・m
てこがつり合っている状態では、時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントの合計がゼロになります。この原理を使えば、未知の力や距離を計算で求めることができるでしょう。
てこの3つの種類
支点・力点・作用点の位置関係によって、てこは3種類に分類されます。
| 種類 | 配置順序 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 第1種のてこ | 力点-支点-作用点 | シーソー、天秤、栓抜き、ペンチ | 支点が中央にあり、力の大きさと距離を調整できる |
| 第2種のてこ | 力点-作用点-支点 | 手押し車、ドアノブ、栓抜き(一部) | 常に力点での力より大きな力を作用点で発揮 |
| 第3種のてこ | 作用点-力点-支点 | ピンセット、箸、釣り竿、人間の腕 | 力は小さくなるが、速度や移動距離が大きくなる |
日常生活で最も多く使われているのは第1種のてこ
です。支点の位置を調整することで、状況に応じた最適な力の配分が可能になるのです。
Cmの求め方と具体的な計算方法
続いては、実際の計算問題でよく登場するCmの単位を使った求め方を確認していきます。
Cmとは何を表す単位か
「Cm」という表記を見て混乱する方も多いのですが、これは「センチメートル」を表す単位記号です。物理の問題では、力の単位「Kgf(キログラム重)」や「N(ニュートン)」と組み合わせて使用されます。
モーメントを計算する際、「Kgf・cm」という単位で表現されることがあります。これは「キログラム重センチメートル」と読み、日本の工業分野や実用的な計算でよく使われる単位でしょう。
国際単位系(SI単位)では「N・m」が標準ですが、実用的な場面では「Kgf・cm」の方が感覚的に理解しやすい場合もあります。1Kgf ≒ 9.8Nという関係性を覚えておくと、単位変換もスムーズに行えるのです。
モーメントの計算手順
実際にモーメントを計算する手順を、具体例を通して見ていきましょう。
【問題例】
長さ100cmの棒があり、左端から30cmの位置に支点があります。左端に2Kgfの力を加えたとき、右端に何Kgfの力が必要でしょうか。
【解答】
力点から支点までの距離:30cm
作用点から支点までの距離:100cm – 30cm = 70cm
つり合いの式:2Kgf × 30cm = X × 70cm
60 = 70X
X = 60 ÷ 70 ≒ 0.86Kgf
このように、距離が長い側では小さな力で済むことが計算からも確認できます。これがてこの原理の実用的な応用例となるのです。
計算のポイントは、すべての距離を同じ単位(この場合はcm)に揃えることです。単位がバラバラだと正確な計算ができませんので、注意が必要でしょう。
複数の力が働く場合の計算
実際の問題では、複数の力が同時に働く場合もあります。このときは、時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントを分けて計算します。
【応用問題】
長さ80cmの棒の中央(40cm地点)に支点があります。左端に3Kgfの重りを吊るし、左端から20cmの位置に5Kgfの重りを吊るしました。つり合わせるには、右端に何Kgfの重りが必要でしょうか。
【解答】
反時計回りのモーメント:
3Kgf × 40cm + 5Kgf × 20cm = 120 + 100 = 220Kgf・cm
時計回りのモーメント:
X × 40cm = 220Kgf・cm
X = 220 ÷ 40 = 5.5Kgf
複数の力がある場合でも、基本原理は同じです。それぞれのモーメントを計算し、合計が等しくなる条件を求めれば良いのです。
身近な例で理解するてこの原理
続いては、私たちの周りにある具体的な道具や身体の仕組みを通して、てこの原理を確認していきます。
栓抜きのメカニズム
栓抜きは、第1種のてこの典型的な例として知られています。瓶の縁に引っかける部分が支点、私たちが手で押し下げる部分が力点、そして栓が持ち上げられる部分が作用点となるのです。
栓抜きを使うとき、支点から力点までの距離は長く、支点から作用点までの距離は短くなっています。これにより、私たちの加える比較的小さな力が、栓を持ち上げる大きな力に変換されるわけです。
実際に栓抜きを使う際、持ち手の先端を使う方が、根元を使うよりも楽に栓が開けられることに気づくでしょう。これは、支点からの距離が長くなることで、より大きなモーメントを生み出せるためです。
人間の手と腕のてこ構造
私たちの身体も、実はてこの原理を巧みに利用しています。特に腕の構造は、第3種のてこの優れた例です。
肘の関節が支点となり、上腕二頭筋(力こぶの筋肉)が付着している部分が力点、そして手のひらで物を持つ部分が作用点となります。この配置では、筋肉が発揮する大きな力が必要になる代わりに、手先を素早く大きく動かせるのです。
人間の腕が第3種のてこになっているのは、力よりも速度と可動範囲を優先した進化の結果です。細かい作業や素早い動作を可能にするため、あえて力学的に不利な構造を採用しているのです。
指の関節も同様にてこの原理で動いています。第2関節や第3関節を支点として、腱が引っ張る力が指先の動きに変換されるのです。このような複雑なてこの組み合わせにより、人間は繊細な動作が可能になっています。
その他の日用品とてこの原理
てこの原理を応用した道具は、私たちの周りに数え切れないほど存在します。
ハサミは、2つの第1種のてこが組み合わさった道具です。中央のネジ部分が支点、指を入れる部分が力点、刃先が作用点となります。刃の根元で切る方が楽に切れるのは、作用点が支点に近いため、より大きな力を発揮できるからです。
爪切りは、複数のてこが連動した精巧な道具でしょう。レバーを押し下げると、内部の機構を通じて刃先に大きな力が伝わります。小さな力で硬い爪を切断できるのは、まさにてこの原理の賜物なのです。
ドアノブも第2種のてこの例です。ドアの蝶番が支点、ノブを回す部分が力点、ラッチボルトが引っ込む部分が作用点となり、小さな力で確実にドアを開閉できる仕組みとなっています。
まとめ
支点・力点・作用点という3つの要素は、てこの原理を理解する上での基礎となります。支点を中心とした回転運動において、力点に加えた力が作用点で拡大または縮小されるメカニズムは、古代から現代まで変わらない普遍的な物理法則です。
モーメントの計算では、力と距離の積が等しくなるという原則を押さえておけば、Cmやその他の単位を使った問題も確実に解けるでしょう。実際の計算では、単位を統一すること、時計回りと反時計回りを区別することが重要なポイントとなります。
栓抜きや人間の手など、身近な例を通して理解を深めることで、てこの原理は単なる物理の知識ではなく、私たちの生活を支える実用的な知恵として実感できるはずです。第1種から第3種まで、それぞれのてこには独自の特性があり、用途に応じて使い分けられているのです。
てこの原理をマスターすれば、日常生活の中で無意識に使っている道具の仕組みが見えてきます。小さな力で大きな仕事を成し遂げるこの原理は、物理学の美しさと実用性を同時に教えてくれる、素晴らしいテーマと言えるでしょう。