機械の組み立てにおいて、ボルトによる締結は最も基本的な結合方法の一つです。しかし、単にボルトを締めているだけのように見えても、その内部では複雑な力学が働いているでしょう。
実は、ボルトはばねと同じように弾性変形するのです。ボルトを締め付けると、ボルトは引っ張られて伸び、被締結材は圧縮されて縮みます。この現象を理解するために、ボルトとばねの関係を知ることが重要になります。
本記事では、ボルト締結をばねモデルで理解する方法、ばね定数の計算方法、そして実際の締付力や軸力の算出まで、詳しく解説していきます。機械設計における締結の基礎を、しっかりと身につけていきましょう。
ボルト締結はばねの組み合わせとして理解できる
それではまず、ボルト締結をばねモデルで捉える基本的な考え方について解説していきます。
ボルトと被締結材のばねモデル
ボルトで2つの部材を締結する状況を考えてみましょう。ボルトを締め付けると、以下のような現象が起こります。
【ボルト締結時の変形】
・ボルト本体:引張荷重を受けて伸びる(伸長)
・被締結材:圧縮荷重を受けて縮む(圧縮)
・両者の変形量は釣り合っている
この状態は、2つのばねを直列につないで引っ張っている状況と数学的に等価です。ボルトは「引張ばね」、被締結材は「圧縮ばね」として機能しているわけです。
ボルト締結のばねモデル:
ボルト = 引張方向のばね(ばね定数 k_b)
被締結材 = 圧縮方向のばね(ばね定数 k_c)
→ 直列ばねとして扱える
このモデル化により、複雑なボルト締結の力学を、ばね定数という明確な物理量で定量的に扱えるようになります。設計計算や強度評価が格段に容易になるでしょう。
プレロードと軸力の概念
ボルトを締め付けることで生じる初期張力をプレロード(予圧、初期締付力)と呼びます。これはボルトの軸方向に作用する力、すなわち軸力です。
プレロードの役割:
– 被締結材同士を密着させる
– 外力が作用しても結合を維持する
– 疲労強度を向上させる
– 緩みを防止する
ボルトの軸力F_bと被締結材の圧縮力F_cは、力の釣り合いから等しくなります。
F_b = F_c = F (プレロード)
このプレロードが適切でないと、締結部が緩んだり、逆にボルトが破断したりする危険があります。適正なプレロードの設定がボルト締結の要と言えるでしょう。
弾性変形とばね定数
ボルトと被締結材がそれぞれどれだけ変形するかは、各々のばね定数によって決まります。
ボルトのばね定数k_bが大きい場合:
– ボルトは硬く、変形しにくい
– 同じ軸力でもボルトの伸びは小さい
– 外力に対して軸力が変動しやすい
被締結材のばね定数k_cが大きい場合:
– 被締結材は硬く、圧縮されにくい
– 外力に対して軸力の変動が小さい
– 締結の安定性が向上
実際の設計では、被締結材を硬く(ばね定数大)、ボルトを相対的に柔らかくすることで、外力による軸力変動を抑える工夫がなされます。
ボルトと被締結材のばね定数計算
続いては、ボルトと被締結材のばね定数を具体的に計算する方法を確認していきます。
ボルトのばね定数
ボルトは棒状の弾性体として扱えるため、材料力学の基本式からばね定数を求められます。
【ボルトのばね定数】
k_b = (E × A) / L
E:ボルト材料のヤング率(N/mm²)
A:ボルトの有効断面積(mm²)
L:ボルトの有効長さ(mm)
有効断面積Aは、ねじ部では谷径の断面積を使用します。M10のボルト(谷径約8.4mm)の場合:
A = π × (8.4/2)² ≈ 55.4 mm²
計算例を見てみましょう。
【計算例:M10ボルト】
材質:鋼(E = 206000 N/mm²)
有効断面積:A = 55.4 mm²
有効長さ:L = 50 mm
k_b = (206000 × 55.4) / 50
k_b = 228,248 N/mm ≈ 228 kN/mm
ボルトのばね定数は非常に大きい値になることが分かるでしょう。つまり、ボルトは非常に硬いばねとして機能しているのです。
被締結材のばね定数
被締結材のばね定数は、ボルト頭部やナット周辺の圧縮応力分布を考慮する必要があり、より複雑です。
簡易的には、円錐形の応力分布を仮定した以下の式が使われます。
【被締結材のばね定数(簡易式)】
k_c = (E_c × A_sub) / L_c
E_c:被締結材のヤング率
A_sub:座面の有効受圧面積
L_c:被締結材の板厚
ただし、実際には応力が円錐状に広がるため、有効受圧面積A_subは座面積よりも大きくなります。VDI 2230などの設計基準では、より詳細な計算式が提供されているでしょう。
| 要素 | ボルト | 被締結材 |
|---|---|---|
| 変形モード | 引張(伸び) | 圧縮(縮み) |
| ばね定数の大きさ | 比較的小 | 比較的大 |
| 計算の複雑さ | 単純 | 複雑 |
一般に、被締結材のばね定数はボルトの3〜10倍程度になります。この比率が締結の挙動に大きく影響するのです。
合成ばね定数
ボルトと被締結材は直列に接続されたばねと見なせるため、合成ばね定数k_totalは以下のように計算されます。
【直列ばねの合成ばね定数】
1/k_total = 1/k_b + 1/k_c
k_total = (k_b × k_c) / (k_b + k_c)
計算例:
ボルトのばね定数:k_b = 200 kN/mm
被締結材のばね定数:k_c = 800 kN/mm
合成ばね定数:
k_total = (200 × 800) / (200 + 800)
k_total = 160,000 / 1,000 = 160 kN/mm
合成ばね定数は、常に個別のばね定数より小さい値になります。つまり、2つのばねを直列につなぐと、全体としては柔らかくなるのです。
この合成ばね定数を使って、締付トルクから軸力を推定したり、外力負荷時の軸力変動を計算したりできるでしょう。
締結計算への応用
ここでは、ばね定数を用いた実際の締結計算方法を見ていきましょう。
締付トルクと軸力の関係
ボルトを締め付けるときに加えるトルクTと、発生する軸力Fの関係は、経験式として以下のように表されます。
【トルク-軸力関係式】
T = K × d × F
T:締付トルク(N·mm)
K:トルク係数(無次元、0.15〜0.20程度)
d:ボルトの呼び径(mm)
F:発生する軸力(N)
この式から軸力を求めると:
F = T / (K × d)
例えば、M10ボルトに50 N·m(50,000 N·mm)のトルクを加える場合:
T = 50,000 N·mm、d = 10 mm、K = 0.2 とすると
F = 50,000 / (0.2 × 10) = 25,000 N = 25 kN
トルク係数Kは、摩擦状態によって変動するため、精密な軸力管理にはトルクレンチだけでは不十分な場合があります。より正確には、角度法や超音波測定などの方法が用いられるでしょう。
外力負荷時の軸力変動
締結部に外力(引張荷重)が作用すると、ボルトの軸力はどう変化するでしょうか。ばねモデルを使えば、この変動を計算できます。
【外力負荷時の軸力増分】
ΔF_b = F_ext × (k_b / (k_b + k_c))
F_ext:外部引張荷重
ΔF_b:ボルト軸力の増加分
この式から、重要な設計指針が得られます。
| 条件 | k_b / (k_b + k_c) | 軸力変動 |
|---|---|---|
| 被締結材が硬い (k_c >> k_b) |
小(≈0.1〜0.2) | 小さい(安定) |
| 被締結材が柔らかい (k_c ≈ k_b) |
大(≈0.5) | 大きい(不安定) |
被締結材のばね定数が大きいほど、外力に対する軸力変動が小さくなります。これが、締結部の設計で被締結材を厚く硬くすることが推奨される理由です。
疲労強度とプレロード
繰り返し荷重を受けるボルトでは、疲労破壊が問題になります。適切なプレロードを与えることで、疲労強度を大幅に向上させられるのです。
疲労強度向上のメカニズム:
– 高いプレロードにより、外力による軸力変動幅が相対的に小さくなる
– 応力振幅が減少し、疲労寿命が延びる
– 被締結材の接触が維持され、荷重分担が安定
【推奨プレロード】
通常の締結:F = 0.6〜0.7 × F_proof
疲労荷重を受ける締結:F = 0.7〜0.9 × F_proof
F_proof:ボルトの保証荷重(降伏荷重の90%程度)
ただし、プレロードが高すぎると締付時にボルトが降伏してしまう危険があります。材料の強度、摩擦係数のばらつき、締付精度などを考慮して、安全率を持った設計が必要でしょう。
実際には、ボルトの強度区分(4.8、8.8、10.9など)に応じた標準的な締付トルクが規定されており、これに従うことで適切なプレロードが得られます。
まとめ
ボルト締結は、ボルトと被締結材という2つのばねが直列につながったシステムとして理解できます。ボルトは引張方向、被締結材は圧縮方向のばねとして機能し、それぞれのばね定数が締結の挙動を決定するのです。
ボルトのばね定数は k_b = EA/L で計算でき、材料のヤング率、断面積、有効長さによって決まります。被締結材のばね定数も同様に計算できますが、応力分布を考慮する必要があり、やや複雑になるでしょう。
実際の締結計算では、合成ばね定数を用いて締付トルクから軸力を推定したり、外力負荷時の軸力変動を予測したりできます。被締結材のばね定数を大きくすることで、外力に対する軸力変動を小さく抑え、安定した締結が実現できるのです。
ばねモデルによるボルト締結の理解は、機械設計における重要な基礎知識と言えるでしょう。