構造力学や材料力学を学ぶ上で、断面係数、断面二次モーメント、断面二次極モーメントという3つの用語は避けて通れない重要な概念です。これらは一見似ているようで、実は異なる物理的意味を持ち、それぞれ異なる場面で使用されます。
特に初学者にとっては、これらの用語の違いを明確に理解することが難しく感じられるかもしれません。しかし、それぞれの定義と用途をしっかり把握することで、構造計算における理解が飛躍的に深まります。
本記事では、断面係数と断面二次モーメントの違いを明確にし、さらに断面二次極モーメントという概念についても詳しく解説していきます。数式の意味から具体的な計算例、実務での使い分けまで、体系的に説明しますので、構造設計や材料力学に携わる方はもちろん、これから学ぼうとしている方にも役立つ内容となっているでしょう。各概念の本質を理解して、実践的な計算力を身につけていきましょう。
断面係数と断面二次モーメントの基本的な違い

それではまず、断面係数と断面二次モーメントの基本的な違いについて解説していきます。
この2つの概念は密接に関連していますが、物理的な意味と使用目的が明確に異なります。まずはそれぞれの定義から確認し、どのような違いがあるのかを明らかにしていきましょう。
断面二次モーメントの定義と物理的意味
断面二次モーメントは、英語でSecond Moment of Areaと呼ばれ、記号Iで表されます。これは断面が曲げに対してどれだけ変形しにくいかを示す指標です。
断面二次モーメント I = ∫ y² dA
y:中立軸からの距離
dA:微小面積要素
単位:mm⁴、cm⁴、m⁴
この式が意味するのは、断面内の各点について、中立軸からの距離の2乗に面積を掛けて、それを全断面にわたって積分(合計)するということです。
物理的には、材料が中立軸から遠くに配置されているほど、断面二次モーメントは大きくなります。これが、H型鋼のようにフランジが離れた位置にある形状が曲げに強い理由なのです。
断面二次モーメントは、主に梁のたわみを計算する際に使用されます。たわみの公式には必ず断面二次モーメントが含まれており、この値が大きいほどたわみにくい部材であることを示します。
断面係数の定義と断面二次モーメントとの関係
一方、断面係数は記号ZまたはSで表され、断面二次モーメントを基に計算される値です。
断面係数 Z = I / y
I:断面二次モーメント(mm⁴)
y:中立軸から最外縁までの距離(mm)
単位:mm³、cm³、m³
この式から分かるように、断面係数は断面二次モーメントを中立軸から最も遠い縁までの距離で割った値です。つまり、断面二次モーメントから導かれる二次的な値と言えるでしょう。
断面係数は主に曲げ応力を計算する際に使用されます。曲げ応力の公式は「σ = M / Z」となり、曲げモーメントMを断面係数Zで割ることで応力が求められるのです。
このように、断面二次モーメントが「変形のしにくさ」を表すのに対し、断面係数は「応力の発生しにくさ」を表すという違いがあります。
両者の違いを整理する
断面係数と断面二次モーメントの違いを表にまとめてみましょう。
| 項目 | 断面二次モーメント(I) | 断面係数(Z) |
|---|---|---|
| 単位 | mm⁴、cm⁴(長さの4乗) | mm³、cm³(長さの3乗) |
| 物理的意味 | 曲げ変形に対する抵抗 | 曲げ応力の発生しにくさ |
| 主な用途 | たわみの計算 | 曲げ応力の計算 |
| 関係式 | 基本量 | Z = I / y |
| 設計での役割 | 剛性の評価 | 強度の評価 |
このように、断面二次モーメントは「どれだけ曲がりにくいか」を、断面係数は「どれだけ応力が発生しにくいか」を表しているわけです。設計では両方の値を適切に使い分ける必要があるでしょう。
実務では、強度設計では断面係数を、たわみ制限の検討では断面二次モーメントを使用します。どちらか一方だけで設計が完結することは少なく、両方の検討を行って初めて安全な構造が実現できるのです。
断面二次モーメントの詳細と計算方法
続いては、断面二次モーメントについてより詳しく確認していきます。
断面二次モーメントは構造力学の基礎となる概念です。その計算方法と応用を理解することで、構造物の挙動を深く理解できるようになるでしょう。ここでは基本的な図形の計算から実践的な応用まで見ていきます。
基本図形の断面二次モーメント
まずは、基本的な図形の断面二次モーメントの公式を確認しましょう。これらは頻繁に使用される重要な公式です。
【長方形(幅b、高さh)】
I = bh³ / 12(図心まわり)
I = bh³ / 3(底辺まわり)
【円形(半径r、直径d)】
I = πr⁴ / 4 = πd⁴ / 64
【中空円形(外径D、内径d)】
I = π(D⁴ – d⁴) / 64
これらの公式は、積分計算によって導かれたものです。実務では公式を使って計算しますが、どのように導出されるかを理解しておくことも重要でしょう。
例えば長方形の場合、中立軸からの距離yは-h/2からh/2まで変化します。幅方向にはbの長さがあるので、dA = b dyとなり、これを積分することで公式が得られるのです。
平行軸の定理と複雑な断面への応用
実際の構造部材は、単純な形状だけでなく、複数の長方形や他の図形が組み合わさった複雑な断面を持つことが多いものです。このような場合に威力を発揮するのが平行軸の定理です。
平行軸の定理
I = Ig + Ad²
Ig:図心まわりの断面二次モーメント
A:断面積
d:図心から新しい軸までの距離
この定理により、任意の軸まわりの断面二次モーメントを、図心まわりの値から計算できます。これは非常に強力なツールであり、複雑な断面の計算を可能にしてくれるのです。
例えば、T字型の断面を考えてみましょう。これは2つの長方形から構成されています。各長方形の図心まわりの断面二次モーメントを求め、それぞれをT字全体の図心まわりに平行移動させた値を合計することで、T字断面全体の断面二次モーメントが得られます。
断面二次モーメントとたわみの関係
断面二次モーメントの最も重要な応用の一つが、梁のたわみ計算です。たわみの基本式には必ず断面二次モーメントが含まれています。
【単純梁の中央集中荷重によるたわみ】
δ = PL³ / (48EI)
P:荷重、L:スパン、E:ヤング率、I:断面二次モーメント
この式から、断面二次モーメントIが大きいほど、たわみδが小さくなることが分かります。つまり、Iが2倍になればたわみは半分になるわけです。
実務では、許容たわみが規定されている場合が多く、これを満たすために必要な断面二次モーメントを逆算して部材を選定します。例えば、スパンの1/300以下にたわみを抑える必要がある場合、この条件から必要なIの値を求めることができるでしょう。
たわみは使用性に直結する重要な検討項目です。強度的には問題なくても、たわみが大きすぎると使い勝手が悪くなったり、仕上げ材にひび割れが生じたりする可能性があります。そのため、断面二次モーメントによるたわみの検討は欠かせません。
断面二次極モーメントとは何か
続いては、断面二次極モーメントという概念を確認していきます。
断面二次極モーメントは、ねじりに対する抵抗を表す指標です。断面二次モーメントが曲げに関する量であるのに対し、こちらはねじりに関する量となります。混同しやすい概念ですが、明確に区別して理解しましょう。
断面二次極モーメントの定義
断面二次極モーメントは、英語でPolar Moment of Inertiaと呼ばれ、記号JまたはIpで表されます。これは断面がねじりモーメントに対してどれだけ抵抗できるかを示す値です。
断面二次極モーメント Ip = ∫ r² dA
r:回転中心からの距離
dA:微小面積要素
単位:mm⁴、cm⁴、m⁴(断面二次モーメントと同じ)
この定義は断面二次モーメントと似ていますが、重要な違いがあります。断面二次モーメントでは中立軸からの距離yを使うのに対し、断面二次極モーメントでは回転中心からの距離rを使用するのです。
直交座標系で考えると、r² = x² + y²という関係があります。これにより、次の重要な関係式が導かれます。
Ip = Ix + Iy
Ix:x軸まわりの断面二次モーメント
Iy:y軸まわりの断面二次モーメント
Ip:断面二次極モーメント
この式により、2つの直交軸まわりの断面二次モーメントが分かれば、断面二次極モーメントも簡単に計算できます。
基本図形の断面二次極モーメント
代表的な図形について、断面二次極モーメントの公式を見ていきましょう。
【円形(半径r、直径d)】
Ip = πr⁴ / 2 = πd⁴ / 32
※円形の場合、Ix = Iy = πr⁴ / 4 なので
Ip = Ix + Iy = 2 × πr⁴ / 4 = πr⁴ / 2
【中空円形(外径D、内径d)】
Ip = π(D⁴ – d⁴) / 32
【長方形(幅b、高さh)】
Ip = bh(b² + h²) / 12
※Ix = bh³/12、Iy = hb³/12 より
Ip = Ix + Iy = bh³/12 + hb³/12 = bh(b² + h²)/12
円形断面は、すべての方向で対称性があるため、ねじりに対して非常に効率的な形状です。一方、長方形断面はねじりに対してあまり効率的ではありません。
ねじり応力と断面二次極モーメントの関係
断面二次極モーメントの最も重要な応用が、ねじり応力の計算です。軸がねじりモーメントTを受けるとき、最大せん断応力τは次の式で求められます。
τ = Tr / Ip
T:ねじりモーメント(N・mm)
r:回転中心から着目点までの距離(mm)
Ip:断面二次極モーメント(mm⁴)
τ:せん断応力(N/mm²)
この式から、断面二次極モーメントが大きいほど、同じねじりモーメントでも発生する応力が小さくなることが分かります。
また、ねじれ角θは次の式で計算されます。
θ = TL / (GIp)
L:軸の長さ、G:せん断弾性係数、Ip:断面二次極モーメント
これらの式は、回転軸やトルクを伝達する部材の設計に不可欠です。機械設計では頻繁に使用される計算でしょう。
| 項目 | 断面二次モーメント | 断面二次極モーメント |
|---|---|---|
| 対象となる変形 | 曲げ | ねじり |
| 記号 | I(Ix、Iy) | Ip または J |
| 定義に使う距離 | 中立軸からの距離y | 回転中心からの距離r |
| 関係式 | 軸ごとに独立 | Ip = Ix + Iy |
| 応用例 | 梁のたわみ、曲げ応力 | 軸のねじれ、ねじり応力 |
実務における3つの概念の使い分け
続いては、断面係数、断面二次モーメント、断面二次極モーメントの実務での使い分けを確認していきます。
理論を理解した上で、実際の設計でどのように使い分けるかを知ることが重要です。ここでは具体的な場面を想定しながら、適切な選択方法を解説していきましょう。
設計フローにおける各概念の位置づけ
構造設計の典型的なフローの中で、これら3つの概念がどこで使われるかを見ていきましょう。
まず部材に作用する荷重を計算し、そこから曲げモーメント、せん断力、軸力、ねじりモーメントなどの断面力を求めます。次のステップで、これらの断面力から応力を計算する際に、各概念が登場するのです。
【曲げモーメントが支配的な場合】
1. 必要断面係数の算定 Z ≥ M / σa
(M:曲げモーメント、σa:許容応力)
2. たわみの検討 δ = f(I)を満足するか確認
3. 両方を満たす部材を選定
この手順で分かるように、強度の観点からは断面係数を、剛性の観点からは断面二次モーメントを使用します。両方の条件を満たす必要があるため、設計では両方を計算するわけです。
一方、軸部材がねじりを受ける場合には、断面二次極モーメントを使用します。
【ねじりモーメントが作用する場合】
1. ねじり応力の検討 τ = Tr / Ip ≤ τa
2. ねじれ角の検討 θ = TL / (GIp) ≤ θa
3. 条件を満たす部材を選定
このように、部材に作用する力の種類によって、使用する概念が変わってきます。
部材の種類による使い分け
部材の種類と主な検討項目を整理してみましょう。
| 部材の種類 | 主な荷重 | 使用する概念 |
|---|---|---|
| 梁 | 曲げモーメント | 断面係数、断面二次モーメント |
| 柱 | 軸力、曲げモーメント | 断面積、断面係数、断面二次半径 |
| 回転軸 | ねじりモーメント | 断面二次極モーメント |
| トラス材 | 軸力 | 断面積、断面二次半径 |
| 床版 | 面内曲げ | 単位幅あたりの断面係数 |
梁の設計では断面係数と断面二次モーメントが中心となりますが、柱の設計では座屈を考慮するため断面二次半径(i = √(I/A))も重要になります。機械部品の回転軸では断面二次極モーメントが主役となるでしょう。
計算ソフトウェアでの取り扱い
現代の構造設計では、コンピュータによる数値解析が一般的になっています。有限要素法(FEM)などの解析ソフトでは、これらの概念がどのように扱われているのでしょうか。
多くの構造解析ソフトでは、梁要素を定義する際に断面のタイプと寸法を入力すると、ソフトウェアが自動的に断面二次モーメント、断面係数、断面二次極モーメントなどを計算してくれます。
ただし、ソフトウェアに頼りきりになるのではなく、計算結果が妥当かどうかを判断できる基礎知識を持つことが重要です。例えば、入力ミスによって断面二次モーメントが異常に小さい値になっていた場合、それを見抜けなければ危険な設計につながります。
また、特殊な断面形状や複雑な組立材を使用する場合には、手計算またはスプレッドシートで断面性能を算出し、それをソフトウェアに入力する必要があることもあります。そのような場合に備えて、基本的な計算方法を理解しておくことは実務者にとって必須と言えるでしょう。
さらに、概算設計の段階では、詳細な解析を行う前に手計算で大まかな部材サイズを見積もることも多いものです。その際にも、これらの概念を正しく理解し、適切に計算できることが求められます。
まとめ
断面係数、断面二次モーメント、断面二次極モーメントという3つの重要な概念について詳しく解説してきました。これらは構造力学や材料力学の基礎となる指標であり、正しく理解することが安全な構造設計につながります。
断面二次モーメントは、曲げに対する変形のしにくさを表す基本的な量であり、単位は長さの4乗でした。主に梁のたわみ計算に使用され、この値が大きいほど曲がりにくい部材となります。
断面係数は、断面二次モーメントを中立軸から最外縁までの距離で割った値であり、単位は長さの3乗です。曲げ応力を計算する際に使用され、この値が大きいほど応力が発生しにくくなるという特徴があります。つまり、断面二次モーメントが「剛性」を表すのに対し、断面係数は「強度」を表すと言えるでしょう。
断面二次極モーメントは、ねじりに対する抵抗を表す量です。回転中心からの距離の2乗を使って定義され、直交する2軸まわりの断面二次モーメントの和として計算できます。回転軸やトルクを伝達する部材の設計に不可欠な概念でしょう。
実務では、部材に作用する荷重の種類や設計の目的に応じて、これら3つの概念を適切に使い分ける必要があります。梁の設計では断面係数と断面二次モーメントの両方を、回転軸の設計では断面二次極モーメントを使用するというように、状況に応じた選択が求められるのです。
これらの概念は数式だけでなく、その物理的な意味を理解することが重要です。本記事で紹介した内容を参考に、実際の計算に取り組んでみてください。理論と実践を組み合わせることで、構造力学への理解が確実に深まっていくはずです。