空気の透磁率は、コイル、電磁石、モーター、変圧器、アンテナ、磁気回路などを計算する際に登場する重要な値です。
実用的な設計では、空気の透磁率を真空の透磁率とほぼ同じものとして扱う場合が多くあります。
ただし、厳密には空気と真空は同一ではありません。
空気には酸素や窒素などの分子が存在し、それぞれがわずかな磁気的性質を示すためです。
それでも、その差は通常の電磁気計算では非常に小さく、近似による影響を無視できる場面が多いでしょう。
この記事では、空気の透磁率の値と真空との違いを中心に、磁気回路、空隙、ソレノイド、インダクタンス設計での使い方を解説します。
空気の透磁率は実用上μ0とほぼ同じ値として計算できる
それではまず、空気の透磁率に関する結論について解説していきます。
空気の比透磁率は1に極めて近いため、多くの実用計算では空気の透磁率を真空の透磁率μ0と同じ値として扱います。
空気の透磁率は、実用上およそ1.256637×10のマイナス6乗H/mとして計算できます。
これは真空の透磁率μ0を使用した近似です。
空気の透磁率の近似値
空気の透磁率μairは、次の関係で表されます。
μair=μ0μr,airです。
空気の比透磁率μr,airは1に非常に近いため、μairはμ0とほぼ等しくなります。
真空の透磁率は、実用上約1.256637×10のマイナス6乗H/mです。
4π×10のマイナス7乗H/mという形で表されることもあります。
学校の問題や一般的な電磁気設計では、空気中の磁場を計算する際にμ=μ0と置いて差し支えないことが多いでしょう。
空気の比透磁率がほぼ1になる理由
空気は主に窒素と酸素から構成されています。
窒素はわずかな反磁性、酸素は常磁性を示します。
これらの効果を合わせた空気全体の磁気的応答は非常に小さく、比透磁率は1からわずかにずれる程度です。
鉄やフェライトのように磁区がそろって大きく磁化されるわけではありません。
そのため、空気中で磁束密度Bと磁場の強さHの関係を考える場合は、B=μ0Hで近似できます。
空気の透磁率を使う基本計算
空気中で磁場の強さが1000A/mの場合、磁束密度はB=μ0Hで求められます。
B=1.256637×10のマイナス6乗×1000です。
Bは約1.256637×10のマイナス3乗Tです。
ミリテスラで表すと約1.257mTです。
磁場の強さが大きくなれば、磁束密度も比例して増加します。
空気は通常の範囲で磁気飽和を考える必要がないため、線形な関係として扱いやすい媒体です。
空気と真空の透磁率の違い
続いては、空気と真空の透磁率の違いを確認していきます。
両者は実用上ほぼ同じですが、物理的には空気に物質が存在する点が異なります。
求める精度によって、同一視してよいかを判断する必要があります。
真空の透磁率とは
真空の透磁率μ0は、真空中における磁場と磁束密度の関係を表す定数です。
電磁気学では、クーロン力、電磁波、インダクタンス、磁気エネルギーなど、さまざまな式に登場します。
真空では磁性を持つ物質が存在しないため、物質による磁化を考える必要がありません。
磁束密度はB=μ0Hで表されます。
一方、物質中ではB=μ0のかっこH+Mかっことじとなり、磁化Mの影響が加わります。
空気中では分子の磁化が生じる
空気中には酸素や窒素などの分子が存在します。
外部磁界を加えると、各分子はごくわずかに磁化されます。
酸素は常磁性を示すため、磁界方向へ弱く磁化されます。
窒素は反磁性を示し、磁界と反対方向へ弱く磁化されます。
空気全体では酸素の常磁性の影響などにより、比透磁率は1よりごくわずかに大きくなる条件があります。
ただし、温度、圧力、湿度、組成によっても微小に変化します。
どの程度の精度なら同じとみなせるか
一般的なコイル、電磁石、モーター、変圧器の概算では、空気と真空の透磁率の差は無視できます。
測定誤差、寸法公差、漏れ磁束、巻線抵抗、材料特性のばらつきのほうが大きな影響を与えることが多いためです。
一方、高精度な磁気計測、物理定数の測定、精密センサー、特殊な実験では、空気の組成や密度による差を考慮する場合があります。
求める相対精度が非常に高い場合は、単純なμair=μ0という近似では不足する可能性があるでしょう。
| 比較項目 | 真空 | 空気 |
|---|---|---|
| 物質の有無 | 理想的には物質が存在しない | 窒素、酸素、水蒸気などが存在する |
| 比透磁率 | 1 | 1に極めて近い |
| 透磁率の実用値 | 約1.256637×10のマイナス6乗H/m | 通常は真空と同じ値を使用する |
| 温度や圧力の影響 | 物質密度による影響はない | 厳密にはわずかな影響がある |
| 一般設計での扱い | 基準値として使用する | 真空と同じとして近似する |
空気の透磁率を使ったコイルの計算
続いては、空気の透磁率を使ったコイルの計算方法を確認していきます。
空芯コイルでは磁性コアを使用しないため、内部の透磁率を空気または真空の透磁率として扱います。
ソレノイドの磁束密度やインダクタンスを求める際にμ0が使われます。
ソレノイド内部の磁束密度
十分に長いソレノイドの内部磁束密度は、次の式で近似できます。
B=μ0NI÷lです。
Nは巻数、Iは電流、lはコイル長です。
例えば、巻数1000回、電流0.5A、長さ0.4mの空芯ソレノイドを考えます。
B=1.256637×10のマイナス6乗×1000×0.5÷0.4です。
Bは約1.571×10のマイナス3乗Tです。
およそ1.57mTとなります。
この式はコイルが十分に長く、端部の影響を無視できる場合に適しています。
短いコイルでは端部から磁束が広がるため、形状係数を含む計算が必要になります。
空芯コイルのインダクタンス
長い空芯ソレノイドのインダクタンスは、次の式で近似できます。
L=μ0Nの2乗A÷lです。
Aはコイルの断面積です。
巻数500回、断面積3.0×10のマイナス4乗平方メートル、長さ0.2mの場合を考えます。
L=1.256637×10のマイナス6乗×500の2乗×3.0×10のマイナス4乗÷0.2です。
Lは約4.71×10のマイナス4乗Hです。
ミリヘンリーで表すと約0.471mHです。
実際のコイルでは、巻線の太さ、巻き方、コイル長と直径の比、近接効果、寄生容量などが影響します。
高周波では、理想式だけでなく自己共振周波数や交流抵抗も確認しましょう。
磁性コアを入れた場合との違い
空芯コイルに磁性コアを入れると、理想的にはインダクタンスが比透磁率に応じて増加します。
磁性コア入りコイルでは、L=μ0μrNの2乗A÷lです。
例えば、実効比透磁率が100のコアを入れた場合、同じ形状と巻数であればインダクタンスは空芯の約100倍になる可能性があります。
ただし、実際にはコア形状、空隙、漏れ磁束、磁気飽和などの影響を受けます。
空芯コイルはインダクタンスを大きくしにくいものの、磁気飽和やコア損失がないという利点があります。
高周波回路や大電流回路では、空芯コイルが適する場合もあるでしょう。
磁気回路の空隙で空気の透磁率を使う方法
続いては、磁気回路に設けられた空隙で空気の透磁率を使う方法を確認していきます。
鉄心やフェライトコアの一部に空隙がある場合、その部分の磁気抵抗はμ0を使って計算します。
短い空隙でも磁気回路全体へ大きな影響を与えることがあります。
空隙の磁気抵抗
空隙部分の磁気抵抗は、次の式で求められます。
空隙の磁気抵抗Rmg=lg÷μ0Aです。
lgは空隙長、Aは断面積です。
空気の透磁率は鉄心の透磁率より大幅に小さいため、空隙の磁気抵抗は大きくなります。
鉄心の磁路長が長くても、透磁率が非常に高ければ磁気抵抗は小さく抑えられます。
その結果、磁気回路全体では短い空隙が支配的になることがあります。
空隙がインダクタンスを下げる理由
インダクタンスは、磁気回路の磁気抵抗が小さいほど大きくなります。
空隙を設けると磁気抵抗が増えるため、インダクタンスは低下します。
一見すると不利に思えますが、空隙には磁気エネルギーを蓄えやすくする役割があります。
直流電流が重畳するインダクタでは、空隙によって実効透磁率を下げ、コアの磁気飽和を起こしにくくします。
電源用チョークコイルやフライバックトランスで空隙が使われるのは、このためです。
フリンジングの影響
空隙付近では、磁束がコア断面から外側へ広がる現象が起こります。
これをフリンジングと呼びます。
単純な計算では空隙部分の断面積をコア断面積と同じとみなしますが、実際の有効断面積はやや大きくなる場合があります。
空隙が長いほど、またコア断面が小さいほど、フリンジングの影響が無視しにくくなります。
さらに、広がった磁束が近くの巻線を横切ると、巻線内に渦電流が生じて局所的な発熱を引き起こす可能性があります。
高周波、大電流、高電力の設計では、有限要素法による磁界解析や実測で確認することが望ましいでしょう。
磁性コアにわずかな空隙があるだけでも、空気の透磁率が小さいため、磁気回路全体の実効透磁率が大きく下がる場合があります。
空気透磁率をインダクタンス設計で扱う際の注意点
続いては、空気透磁率をインダクタンス設計で扱う際の注意点を確認していきます。
μair=μ0という近似自体は多くの場面で問題ありませんが、コイルや磁気回路には別の誤差要因があります。
設計値と実測値が異なるときは、透磁率の差だけに原因を求めないことが大切です。
漏れ磁束と端部効果
理想的なソレノイドでは磁束が内部に均一に分布すると考えます。
実際にはコイル端部で磁束が外側へ広がり、内部の磁束密度も完全には均一になりません。
コイルが短く直径が大きいほど、端部効果が大きくなります。
空芯コイルのインダクタンスを高精度に求める場合は、長岡係数などの補正係数を用いる方法があります。
複雑な形状では、電磁界解析ソフトを使う選択肢もあります。
寸法誤差と巻線配置
インダクタンスは巻数の2乗に比例するため、巻数の違いが大きく影響します。
断面積やコイル長の測定誤差も計算値を変える要因です。
巻線が均一に並んでいるか、層間に隙間があるか、巻線の太さを含めた実効寸法がどうなっているかも確認しましょう。
手巻きコイルでは、巻線の締まり方や位置のばらつきによってインダクタンスが変わることがあります。
高周波での寄生成分
高周波では、コイルを理想的なインダクタンスだけで表せません。
巻線間には寄生容量が生じ、巻線抵抗には表皮効果や近接効果が現れます。
周波数が自己共振周波数へ近づくと、コイルは単純なインダクタとして動作しなくなります。
空芯コイルにはコア損失がありませんが、銅損や放射損失は発生します。
高周波設計では、インダクタンスだけでなくQ値、交流抵抗、自己共振周波数を確認する必要があります。
| 誤差要因 | 主な影響 | 対策 |
|---|---|---|
| 端部効果 | 理想式より磁束が広がる | 形状補正係数を使用する |
| 漏れ磁束 | 有効な磁束が減少する | 磁路形状を見直す |
| 巻線位置のばらつき | インダクタンスが変動する | 均一に巻線する |
| 寄生容量 | 自己共振が発生する | 巻き方や層構成を工夫する |
| 交流抵抗 | 損失と発熱が増える | 線径やリッツ線を検討する |
| フリンジング | 空隙周辺で磁束が広がる | 解析や実測で補正する |
まとめ
空気の透磁率は、一般的な実用計算では真空の透磁率μ0とほぼ同じ値として扱えます。
使用する近似値は、約1.256637×10のマイナス6乗H/mです。
空気には酸素や窒素などが含まれるため、厳密には真空と完全に同じではありません。
しかし、通常のコイルや磁気回路の設計では、その差よりも寸法誤差、漏れ磁束、空隙、巻線配置などの影響が大きくなります。
空芯ソレノイドの磁束密度はB=μ0NI÷l、インダクタンスはL=μ0Nの2乗A÷lで近似できます。
磁性コアに空隙を設けた場合は、空隙部分の磁気抵抗をlg÷μ0Aで求めます。
空気の透磁率は小さいため、わずかな空隙でも磁気回路全体のインダクタンスや磁束へ大きく影響する点が重要です。
高精度な設計では、端部効果、フリンジング、寄生容量、交流抵抗なども含めて評価しましょう。