建築や土木、機械工学の分野で構造物の強度を計算する際、必ずと言っていいほど登場するのが「断面係数」という概念です。梁や柱がどれだけの荷重に耐えられるのかを判断するために、断面係数は欠かせない指標となっています。
しかし、初めてこの用語に触れる方にとっては、「断面係数って何?」「どうやって計算するの?」といった疑問が浮かぶでしょう。
また、断面係数には「弾性断面係数」と「塑性断面係数」という2つの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っているのです。
本記事では、断面係数の基本的な定義から単位、公式、さらには各種断面形状における断面係数の一覧まで、徹底的に解説していきます。
塑性断面係数についても詳しく触れていきますので、構造設計や材料力学を学ぶ方はもちろん、実務で活用したい方にも役立つ内容となっているはずです。断面係数を理解することで、構造物の安全性をより正確に評価できるようになります。
それでは、順を追って見ていきましょう。
断面係数の基本的な定義と意味

それではまず、断面係数とは何なのか、その基本的な定義について解説していきます。
断面係数が示す物理的な意味
断面係数とは、部材の曲げに対する強さを表す幾何学的な特性値のことを指します。
具体的には、ある断面が曲げモーメントを受けたときに、どの程度の応力が発生するかを判断するための指標なのです。梁に荷重がかかると曲げモーメントが生じ、その結果として断面には引張応力や圧縮応力が発生します。
このとき、断面係数が大きいほど同じ曲げモーメントに対して発生する応力は小さくなるでしょう。
つまり、断面係数は「曲げに対する抵抗力の大きさ」を数値化したものと言えます。建築物の梁や柱を設計する際には、この値を用いて安全性を確保しているのです。
弾性断面係数と塑性断面係数の違い
断面係数には大きく分けて2種類あります。それが弾性断面係数と塑性断面係数です。弾性断面係数は、材料が弾性範囲内で変形している状態を前提とした値となっています。
一方、塑性断面係数は材料が降伏した後、塑性変形している状態を考慮した値です。
弾性範囲では応力分布が直線的ですが、塑性範囲では応力が一定値になるという特徴があります。そのため、同じ断面形状でも塑性断面係数の方が弾性断面係数よりも大きな値を示すのです。
鋼構造の設計では塑性断面係数を用いることで、より経済的な設計が可能になるケースもあるでしょう。
断面係数が必要とされる理由
なぜ断面係数という概念が必要なのでしょうか。それは、曲げ応力の計算を簡潔にするためです。
曲げ応力は「曲げモーメント÷断面係数」という非常にシンプルな式で求められます。もし断面係数という概念がなければ、毎回複雑な積分計算を行わなければならないでしょう。
断面係数を用いることで、設計者は迅速に応力を計算し、安全性を評価できるようになります。これが構造設計の効率化に大きく貢献しているのです。
断面係数の単位と基本公式
続いては、断面係数の単位と基本的な公式を確認していきます。
断面係数の単位系について
断面係数の単位は、長さの3乗で表されます。SI単位系では「m³」または「mm³」が用いられるでしょう。
実務では扱う部材のサイズに応じて使い分けられています。小さな部材であればmm³、大きな構造物であればcm³やm³が使われることが多いです。
断面係数の単位
- SI単位系:m³、cm³、mm³
- 曲げモーメントの単位がN・mの場合、断面係数はm³を使用
- 応力の単位はN/m²(Pa)となる
単位の換算には注意が必要です。例えば、1 cm³ = 1,000 mm³、1 m³ = 1,000,000 cm³となります。
弾性断面係数の基本公式
弾性断面係数Zは、断面二次モーメントIを中立軸から縁までの距離yで割ることで求められます。
弾性断面係数の公式
Z = I / y
ここで、
- Z:断面係数(mm³、cm³など)
- I:断面二次モーメント(mm⁴、cm⁴など)
- y:中立軸から最外縁までの距離(mm、cmなど)
この公式を使えば、任意の断面形状について断面係数を計算できるでしょう。ただし、断面二次モーメントの計算が必要になるため、複雑な形状では計算が煩雑になります。
曲げ応力と断面係数の関係式
曲げ応力σは、曲げモーメントMを断面係数Zで割ることで求められます。
曲げ応力の計算式
σ = M / Z
ここで、
- σ:曲げ応力(N/mm²、MPaなど)
- M:曲げモーメント(N・mm、N・mなど)
- Z:断面係数(mm³、m³など)
この式からわかるように、断面係数が大きいほど同じ曲げモーメントでも応力は小さくなるのです。
つまり、断面係数を大きくすることが構造物の強度向上につながります。
設計時には許容応力を超えないように、適切な断面係数を持つ部材を選定することが重要でしょう。
主要な断面形状における断面係数一覧
続いては、実務でよく使用される断面形状の断面係数を確認していきます。
長方形断面の断面係数
長方形断面は最も基本的な形状です。幅b、高さhの長方形断面における断面係数は次のように表されます。
長方形断面の断面係数
Z = b × h² / 6
例:幅100mm、高さ200mmの場合
Z = 100 × 200² / 6 = 666,667 mm³ ≒ 667 cm³
この公式から、高さの2乗に比例することがわかります。つまり、高さを2倍にすると断面係数は4倍になるのです。
木造建築の梁などでは、この長方形断面が多く使われています。高さ方向を大きくすることで、効率的に曲げ強度を高められるでしょう。
円形断面と中空円形断面の断面係数
円形断面も実務では頻繁に使用されます。直径dの円形断面と、外径D、内径dの中空円形断面における断面係数は以下の通りです。
| 断面形状 | 断面係数の公式 |
|---|---|
| 円形断面(直径d) | Z = π × d³ / 32 |
| 中空円形断面(外径D、内径d) | Z = π × (D⁴ – d⁴) / (32 × D) |
中空円形断面は、材料を効率的に使用できるという特徴があります。鋼管などでは内部を中空にすることで、重量を抑えながら高い断面係数を確保しているのです。
H形鋼やI形鋼などの形鋼断面係数
建築や土木では、H形鋼やI形鋼といった形鋼が広く使用されています。これらの断面係数は、各鋼材メーカーが発行する規格表に記載されているでしょう。
| 形鋼の種類 | 断面係数の例(代表的なサイズ) | 特徴 |
|---|---|---|
| H形鋼 H-300×150×6.5×9 | Zx = 621 cm³ | 強軸方向の断面係数が大きい |
| I形鋼 I-200×100×5.5×8 | Zx = 234 cm³ | H形鋼より軽量 |
| 溝形鋼 C-200×80×7.5×11 | Zx = 187 cm³ | 片側がオープンな形状 |
形鋼は、フランジとウェブを組み合わせた効率的な断面を持っています。曲げに対して最も応力が大きくなる外縁部に材料を配置することで、少ない材料で大きな断面係数を実現しているのです。
実務では、必要な断面係数から適切な形鋼を選定するという流れになります。
JIS規格やメーカーカタログを参照することで、迅速に部材選定が可能でしょう。
塑性断面係数の特徴と計算方法
続いては、塑性断面係数について詳しく見ていきます。
塑性断面係数の定義と適用場面
塑性断面係数Zpは、断面全体が塑性化した状態を想定した断面係数です。材料が降伏応力に達した後も、塑性変形することで荷重を支持できるという考え方に基づいています。鋼構造の終局強度設計や限界状態設計では、この塑性断面係数が重要な役割を果たすでしょう。
弾性範囲を超えた状態でも構造物がどれだけ耐えられるかを評価できるからです。
塑性断面係数が活用される場面
- 鋼構造の終局強度設計
- 地震時の塑性変形能力の評価
- より経済的な設計の実現
ただし、コンクリートなど脆性的な材料では塑性断面係数の適用は慎重に判断する必要があります。
塑性断面係数の計算方法
塑性断面係数は、断面を塑性中立軸で二分し、それぞれの断面一次モーメントの和として求められます。
塑性断面係数の基本式
Zp = ∫A |y| dA
長方形断面(幅b、高さh)の場合:
Zp = b × h² / 4
例:幅100mm、高さ200mmの場合
Zp = 100 × 200² / 4 = 1,000,000 mm³ = 1,000 cm³
同じ長方形断面で弾性断面係数と比較すると、塑性断面係数は1.5倍になっていることがわかるでしょう。この比を形状係数と呼びます。
弾性断面係数と塑性断面係数の使い分け
実務では、設計方法や検討内容によって使い分けが行われています。
許容応力度設計では弾性断面係数を使用し、部材が弾性範囲内で機能することを前提とするのです。
一方、終局強度設計や限界状態設計では塑性断面係数を用いて、構造物の最大耐力を評価します。
| 設計手法 | 使用する断面係数 | 設計思想 |
|---|---|---|
| 許容応力度設計 | 弾性断面係数 Z | 弾性範囲内での使用を前提 |
| 終局強度設計 | 塑性断面係数 Zp | 塑性化も考慮した耐力評価 |
| 限界状態設計 | 両方を使い分け | 使用性と安全性を分けて評価 |
塑性断面係数を活用することで、より合理的で経済的な設計が可能になります。
ただし、繰り返し荷重や疲労の影響を受ける部材では、弾性範囲内での設計が望ましいでしょう。材料特性や荷重条件を十分に考慮して、適切な断面係数を選択することが重要なのです。
まとめ 断面係数の公式や一覧を徹底解説!【塑性も】
断面係数は、構造物の曲げに対する抵抗力を表す重要な指標です。弾性断面係数と塑性断面係数という2つの概念があり、それぞれ設計手法に応じて使い分けられています。
基本公式「Z = I / y」を理解することで、様々な断面形状における断面係数を計算できるでしょう。長方形や円形といった基本形状から、H形鋼などの複雑な形鋼まで、それぞれ特有の計算式や規格値が存在します。
特に、高さの2乗に比例するという特性から、断面の高さを大きくすることが曲げ強度向上に極めて有効だとわかります。また、塑性断面係数を活用することで、より経済的な設計が実現できる場合もあるのです。
実務では、必要な断面係数から適切な部材を選定し、曲げ応力が許容値以下になることを確認します。この一連のプロセスが、安全で経済的な構造設計の基礎となっているのです。
断面係数の理解は、構造力学や材料力学の学習において欠かせません。本記事で解説した内容を基礎として、さらに深い知識を身につけていってください。