電気工事や電気設備の設計において、電力損失の計算は非常に重要な要素です。
送電線や配線において電力が失われる現象を正確に把握することで、効率的で安全な電気システムを構築することができます。
電力損失は、電線の抵抗によって電気エネルギーが熱エネルギーに変換されることで発生します。
この損失を適切に計算することで、必要な電線サイズの選定や電圧降下の予測が可能になります。
また、電力損失と混同しやすい概念として電圧降下や消費電力がありますが、これらは異なる物理現象を表しており、正しく区別して理解することが重要です。
本記事では、送電線における電力損失の基本公式から、単相2線式(1φ2W)や単相3線式(1φ3W)での具体的な計算方法、さらに関連概念との違いや効果的な覚え方まで詳しく解説していきます。
電力損失の公式・計算方法は(送電線)?電圧降下や消費電力との違いや覚え方も
それではまず、送電線における電力損失の基本的な公式と計算方法について解説していきます。
電力損失の基本公式
電力損失(P_loss)は以下の公式で求められます:P_loss = I² × R
ここで:
P_loss:電力損失(W:ワット)
I:線路に流れる電流(A:アンペア)
R:線路の抵抗(Ω:オーム)
この公式は「ジュール損失」とも呼ばれ、電流の2乗に比例して電力損失が増加することを示しています。
線路抵抗の計算:
線路の抵抗Rは以下の公式で計算されます:R = ρ × L / A
ここで:
ρ:導体の抵抗率(Ω・m)
L:線路の長さ(m)
A:導体の断面積(m²)
計算例:
銅線(抵抗率ρ = 1.7 × 10⁻⁸ Ω・m)で、長さ100m、断面積2.0mm²の場合:
R = 1.7 × 10⁻⁸ × 100 / (2.0 × 10⁻⁶)
R = 0.85 Ω
この線路に10Aの電流が流れる場合の電力損失:
P_loss = 10² × 0.85 = 85 W
別の計算例
電力損失は電圧と電流の関係からも求められます:P_loss = V_drop × I
ここで V_drop は電圧降下を表します。
さらに、オームの法則(V = I × R)を用いると:P_loss = V_drop² / R
これらの公式は状況に応じて使い分けることで、効率的に電力損失を計算することができます。
覚え方のコツ
「電力は電流の2乗に比例」と覚えることが重要です。
電流が2倍になると電力損失は4倍になる関係を理解しておきましょう。
電力損失の公式・計算方法は(1φ2W)?
続いては、単相2線式(1φ2W)における電力損失の計算方法を確認していきます。
1φ2Wの電力損失公式:
単相2線式では、往復2本の線路で電力損失が発生します:P_loss = 2 × I² × r
ここで:
I:負荷電流(A)
r:1本の線路の抵抗(Ω/km あたり)
2:往復線路の係数
線路抵抗の詳細計算:
1φ2Wでは、電流は行きの線路と帰りの線路の両方を流れるため、実効的な線路抵抗は往復分を考慮する必要があります。
r = ρ × L / A(1本あたりの抵抗)
R_total = 2 × r(往復の合計抵抗)
実用計算例:
負荷:単相100V、20A
線路:銅線2.0mm²、配線距離50m
1本あたりの抵抗:
r = 1.7 × 10⁻⁸ × 50 / (2.0 × 10⁻⁶) = 0.425 Ω
往復の合計抵抗:
R_total = 2 × 0.425 = 0.85 Ω
電力損失:
P_loss = 20² × 0.85 = 340 W
電圧降下との関係:
1φ2Wにおける電圧降下は:V_drop = 2 × I × r
この電圧降下を用いた電力損失の計算:P_loss = V_drop × I = 2 × I² × r
効率の評価:
負荷電力が P_load = V × I = 100V × 20A = 2000W の場合、
損失率 = P_loss / P_load × 100 = 340 / 2000 × 100 = 17%
この例では17%の電力が線路損失として失われていることが分かります。
線路選定の指針:
一般的に電力損失は負荷電力の5%以下に抑えることが推奨されるため、この場合はより太い電線の選定が必要になります。
電力損失の公式・計算方法は(1φ3W)?
続いては、単相3線式(1φ3W)における電力損失の計算方法について確認していきます。
1φ3Wの電力損失公式:単相3線式では、負荷の配置によって計算方法が異なります。
平衡負荷の場合:P_loss = 2 × I² × r
不平衡負荷の場合:P_loss = I₁² × r + I₂² × r + I₃² × r
ここで:
I₁, I₂:各相線の電流(A)
I₃:中性線の電流(A)
r:1本の線路抵抗(Ω)
平衡負荷での詳細計算:
1φ3Wで負荷が完全に平衡している場合、
中性線に電流は流れません(I₃ = 0)。
例:各相に20Aずつ平衡負荷がある場合
P_loss = 20² × r + 20² × r + 0² × r = 800r
不平衡負荷での計算例:
L1-N間:15A
L2-N間:25A
中性線電流:I₃ = |25 – 15| = 10A
電力損失:
P_loss = 15² × r + 25² × r + 10² × r
P_loss = (225 + 625 + 100) × r = 950r
実用計算例:
配線距離:30m
電線:銅線3.5mm²
負荷:L1-N間20A、L2-N間20A(平衡負荷)
1本あたりの抵抗:
r = 1.7 × 10⁻⁸ × 30 / (3.5 × 10⁻⁶) = 0.146 Ω
電力損失:
P_loss = 2 × 20² × 0.146 = 116.8 W
1φ2Wとの比較:
同じ総電力を供給する場合、1φ3Wの方が電力損失が少なくなります。
これは電流が分散されることで、I²項による損失が軽減されるためです。
項目 | 1φ2W | 1φ3W(平衡) |
---|---|---|
総電流 | 40A | 各相20A |
電力損失 | 40² × r = 1600r | 2 × 20² × r = 800r |
損失比較 | 基準 | 50%削減 |
効率改善のポイント:
1φ3Wでは負荷の平衡を保つことが重要です。
不平衡が大きくなると中性線電流が増加し、電力損失も増大します。
電力損失と電圧降下や消費電力との違いや覚え方
最後に、電力損失と電圧降下や消費電力との違いや効果的な覚え方についてまとめていきます。
各概念の定義と違い:
概念 | 定義 | 単位 | 発生場所 |
---|---|---|---|
電力損失 | 線路抵抗で失われるエネルギー | W(ワット) | 配線・送電線 |
電圧降下 | 線路抵抗による電圧の低下 | V(ボルト) | 配線・送電線 |
消費電力 | 負荷で実際に使用されるエネルギー | W(ワット) | 負荷機器 |
電力損失の特徴:
電力損失は「無駄になるエネルギー」であり、主に熱として放散されます。
P_loss = I² × R の関係で、電流の2乗に比例して増加します。
電圧降下の特徴:
電圧降下は「電圧の低下量」を表し、負荷端での電圧不足の原因となります。
V_drop = I × R の関係で、電流に比例して増加します。
消費電力の特徴:
消費電力は「有効に利用されるエネルギー」であり、負荷の仕事に変換されます。
P_load = V × I × cosφ で表されます。
まとめ 電力損失の計算方法・求め方は(送電線)?電圧降下や消費電力との違いや覚え方も
この記事では、電力損失の公式・計算方法は(送電線)?電圧降下や消費電力との違いや覚え方もについて解説しました。
電気的な用語を理解し、さらに快適に過ごしていきましょう。