科学

エンタルピーの計算は?変化の求め方も問題で解説!

当サイトでは記事内に広告を含みます
いつも記事を読んでいただきありがとうございます!!! これからもお役に立てる各情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします(^^)/

エンタルピーの概念は理解できても、実際の計算問題になると「どの方法を使えばいいのか」「どう計算すればいいのか」と戸惑ってしまう学生は多いのではないでしょうか。試験やテストでエンタルピー変化を求める問題は頻出ですが、計算方法がいくつもあるため、混乱しやすい分野でもあります。

エンタルピー変化の求め方には、ヘスの法則を使う方法、生成エンタルピーから計算する方法、結合エネルギーから求める方法など、複数のアプローチがあります。問題に応じて最適な方法を選び、正確に計算する力が求められます。

本記事では、エンタルピー計算の基本から、ヘスの法則、生成エンタルピー、結合エネルギーを使った計算方法まで、具体的な例題を交えながら詳しく解説します。エンタルピー計算をマスターしたい方は、ぜひ最後までお読みください。

エンタルピー変化の基本

それではまず、エンタルピー変化の基本について解説していきます。

エンタルピー変化とは何か

エンタルピー変化(ΔH)とは、化学反応や物理変化が起こるときのエンタルピーの変化量

のことです。

エンタルピー変化の定義

ΔH = H(生成物) – H(反応物)

・ΔH 0(正):吸熱反応(熱を吸収)

化学反応式と一緒に表記されることが多く、例えば:

H₂(g) + 1/2 O₂(g) → H₂O(l) ΔH = -286 kJ/mol

この式は、水素1 molと酸素0.5 molから水1 molが生成するとき、286 kJの熱が放出されることを示しています。

エンタルピー変化を求める3つの方法

エンタルピー変化を計算する主な方法は3つあります。

エンタルピー変化を求める3つの方法

1. ヘスの法則を使う方法
既知の反応式を組み合わせて目的の反応のΔHを求める

2. 生成エンタルピーを使う方法
各物質の生成エンタルピーから計算する

3. 結合エネルギーを使う方法
結合の切断と生成のエネルギーから計算する

問題によって与えられるデータが異なるため、状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要

です。

計算に必要な基本データ

エンタルピー計算でよく使用されるデータの種類を確認しましょう。

データの種類 記号 意味
生成エンタルピー ΔH°f 単体から化合物1 molが生成するときのエンタルピー変化
燃焼エンタルピー ΔH°c 物質1 molが完全燃焼するときのエンタルピー変化
結合エネルギー E 共有結合1 molを切断するのに必要なエネルギー
溶解エンタルピー ΔH°sol 物質1 molが溶解するときのエンタルピー変化

これらのデータは問題文や資料集に与えられるため、どのデータを使うべきか判断することが計算の第一歩になります。

ヘスの法則を使った計算

続いては、ヘスの法則を使った計算を確認していきます。

ヘスの法則とは

ヘスの法則とは、「反応のエンタルピー変化は、反応経路によらず、始状態と終状態だけで決まる」

という法則です。

エンタルピーは状態量であるため、A→Bという変化のエンタルピー変化は、直接A→Bと進んでも、A→C→Bと経由しても同じになります。

この性質を利用して、複数の既知の反応式を組み合わせることで、直接測定が難しい反応のエンタルピー変化を計算できます。

ヘスの法則の計算手順

ヘスの法則を使った計算の基本的な流れは以下の通りです。

ヘスの法則の計算手順

1. 目的の反応式を確認する
求めたい反応式を明確にする

2. 与えられた反応式を整理する
各反応式とそのΔHを確認

3. 反応式を加減する
目的の反応式になるように、与えられた反応式を足したり引いたりする

4. ΔHも同様に計算する
反応式に対応してΔHも加減する

ポイント:反応式を「×2」したり「逆向き」にする場合、ΔHも同様に「×2」したり「符号を逆」にする必要があります。

ヘスの法則の例題と解説

具体的な問題で確認しましょう。

【例題1】

次の反応のエンタルピー変化ΔHを求めなさい。

目的反応:
C(黒鉛) + 1/2 O₂(g) → CO(g) ΔH = ?

与えられたデータ:
① C(黒鉛) + O₂(g) → CO₂(g) ΔH₁ = -394 kJ/mol
② CO(g) + 1/2 O₂(g) → CO₂(g) ΔH₂ = -283 kJ/mol

【解答】

目的の反応式を得るために、与えられた反応式をどう組み合わせるか考えます。

目的式には:
・左辺にC(黒鉛)とO₂が必要
・右辺にCOが必要

反応式①にはCとCO₂があります。
反応式②にはCOとCO₂があります。

①からCO₂を消すために②を引けば良いことがわかります。

① – ②:
[C + O₂ → CO₂] – [CO + 1/2 O₂ → CO₂]

左辺:C + O₂ – CO – 1/2 O₂ = C + 1/2 O₂ – CO
右辺:CO₂ – CO₂ = 0

移項すると:
C + 1/2 O₂ → CO

これは目的の反応式と一致します。

したがって:
ΔH = ΔH₁ – ΔH₂ = -394 – (-283) = -394 + 283 = -111 kJ/mol

答え:ΔH = -111 kJ/mol

生成エンタルピーを使った計算

続いては、生成エンタルピーを使った計算を確認していきます。

生成エンタルピーとは

生成エンタルピー(標準生成エンタルピー)とは、最も安定な単体から化合物1 molが生成するときのエンタルピー変化

です。

生成エンタルピーの特徴

・記号:ΔH°f(fはformationの頭文字)
・単位:kJ/mol
・単体の生成エンタルピーは0
・標準状態(25℃、1気圧)での値

例:

H₂O(l)の生成エンタルピー:
H₂(g) + 1/2 O₂(g) → H₂O(l) ΔH°f = -286 kJ/mol

CO₂(g)の生成エンタルピー:
C(黒鉛) + O₂(g) → CO₂(g) ΔH°f = -394 kJ/mol

生成エンタルピーからの計算公式

生成エンタルピーを使えば、任意の反応のエンタルピー変化を簡単に計算できます。

反応エンタルピーの計算公式

ΔH°反応 = Σ(生成物の生成エンタルピー) – Σ(反応物の生成エンタルピー)

ΔH° = Σn・ΔH°f(生成物) – Σm・ΔH°f(反応物)

n, m:各物質の係数

この公式は「生成物を単体から作るエンタルピー」から「反応物を単体から作るエンタルピー」を引いたものです。これにより、反応物→生成物の変化のエンタルピーが求められます。

生成エンタルピーの例題と解説

具体的な問題で確認しましょう。

【例題2】

次の反応のエンタルピー変化を求めなさい。

CH₄(g) + 2O₂(g) → CO₂(g) + 2H₂O(l)

標準生成エンタルピー:
ΔH°f[CH₄(g)] = -75 kJ/mol
ΔH°f[CO₂(g)] = -394 kJ/mol
ΔH°f[H₂O(l)] = -286 kJ/mol
ΔH°f[O₂(g)] = 0 kJ/mol(単体)

【解答】

公式に当てはめて計算します。

ΔH°反応 = Σ(生成物の生成エンタルピー) – Σ(反応物の生成エンタルピー)

生成物:CO₂ 1 mol、H₂O 2 mol
反応物:CH₄ 1 mol、O₂ 2 mol

ΔH° =

=

= [-394 – 572] – [-75 + 0]

= -966 – (-75)

= -966 + 75

= -891 kJ/mol

答え:ΔH = -891 kJ/mol(発熱反応)

結合エネルギーを使った計算

続いては、結合エネルギーを使った計算を確認していきます。

結合エンタルピーとは

結合エネルギー(結合エンタルピー)とは、気体状態の分子中の共有結合1 molを切断するのに必要なエネルギー

です。

主な結合エネルギー(例)

H-H:436 kJ/mol
O=O:498 kJ/mol
H-O:464 kJ/mol
C-H:414 kJ/mol
C=O:799 kJ/mol

結合エネルギーは常に正の値です。なぜなら、結合を切るにはエネルギーが必要(吸熱)だからです。逆に、結合が生成するときは同じ量のエネルギーが放出(発熱)されます。

結合エネルギーからの計算方法

結合エネルギーを使った計算の考え方は以下の通りです。

結合エネルギーからの計算公式

ΔH = (切断する結合のエネルギーの合計) – (生成する結合のエネルギーの合計)

ΔH = Σ(反応物の結合エネルギー) – Σ(生成物の結合エネルギー)

化学反応では、まず反応物の結合を切断し(吸熱)、次に生成物の結合を形成します(発熱)。全体のエンタルピー変化は、この差になります。

結合エネルギーの例題と解説

具体的な問題で確認しましょう。

【例題3】

次の反応のエンタルピー変化を求めなさい。

H₂(g) + Cl₂(g) → 2HCl(g)

結合エネルギー:
H-H:436 kJ/mol
Cl-Cl:243 kJ/mol
H-Cl:432 kJ/mol

【解答】

まず、切断される結合と生成される結合を確認します。

反応物側(切断される結合):
・H-H結合:1 mol
・Cl-Cl結合:1 mol

生成物側(生成される結合):
・H-Cl結合:2 mol(HClが2分子生成)

切断に必要なエネルギー:
436 + 243 = 679 kJ

生成で放出されるエネルギー:
432 × 2 = 864 kJ

ΔH = (切断) – (生成) = 679 – 864 = -185 kJ/mol

答え:ΔH = -185 kJ/mol(発熱反応)

エンタルピー計算の応用問題

続いては、エンタルピー計算の応用問題を確認していきます。

燃焼熱を使った計算問題

燃焼エンタルピーを使った問題を見てみましょう。

【例題4】

次の物質の燃焼エンタルピーが与えられている。

C(黒鉛):ΔH°c = -394 kJ/mol
H₂(g):ΔH°c = -286 kJ/mol
CH₄(g):ΔH°c = -891 kJ/mol

メタン(CH₄)の生成エンタルピーを求めなさい。

【解答】

各燃焼反応を書き出します。

① C(黒鉛) + O₂(g) → CO₂(g) ΔH = -394 kJ/mol
② H₂(g) + 1/2 O₂(g) → H₂O(l) ΔH = -286 kJ/mol
③ CH₄(g) + 2O₂(g) → CO₂(g) + 2H₂O(l) ΔH = -891 kJ/mol

求めたい反応(メタンの生成):
C(黒鉛) + 2H₂(g) → CH₄(g) ΔH = ?

ヘスの法則を使います。
① + 2×② – ③

= [C + O₂ → CO₂] + 2[H₂ + 1/2 O₂ → H₂O] – [CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O]

左辺:C + O₂ + 2H₂ + O₂ – CH₄ – 2O₂ = C + 2H₂ – CH₄
右辺:CO₂ + 2H₂O – CO₂ – 2H₂O = 0

移項すると:
C + 2H₂ → CH₄

ΔH = -394 + 2×(-286) – (-891)
= -394 – 572 + 891
= -75 kJ/mol

答え:ΔH°f[CH₄] = -75 kJ/mol

溶解熱・中和熱の計算問題

溶解エンタルピーや中和エンタルピーの問題も見てみましょう。

【例題5】

水酸化ナトリウムの溶解エンタルピーは -44.5 kJ/molである。
NaOH 4.0 gを水に溶かすと、何kJの熱が発生するか。
(NaOHのモル質量:40 g/mol)

【解答】

まず、NaOH 4.0 gのモル数を求めます。

モル数 = 4.0 g ÷ 40 g/mol = 0.10 mol

溶解エンタルピーは -44.5 kJ/molなので、
0.10 molでは:

発熱量 = 0.10 mol × 44.5 kJ/mol = 4.45 kJ

(ΔHは負なので、44.5 kJの熱が発生)

答え:4.45 kJまたは4.5 kJ

複合的な計算問題

複数の概念を組み合わせた問題を見てみましょう。

【例題6】

エタノール(C₂H₅OH)の燃焼エンタルピーは -1367 kJ/molである。
エタノール 46 gを完全燃焼させたとき、水500 gの温度は何℃上昇するか。
(水の比熱:4.2 J/(g·℃)、エタノールのモル質量:46 g/mol)

【解答】

エタノールのモル数:
46 g ÷ 46 g/mol = 1.0 mol

発生する熱量:
1.0 mol × 1367 kJ/mol = 1367 kJ = 1,367,000 J

水の温度上昇を求めます。
Q = mcΔT
1,367,000 = 500 × 4.2 × ΔT
1,367,000 = 2100 × ΔT
ΔT = 1,367,000 ÷ 2100 = 651℃

答え:約650℃上昇

計算のポイントと注意点

続いては、計算のポイントと注意点を確認していきます。

単位の換算と有効数字

エンタルピー計算で注意すべき単位と有効数字について確認しましょう。

単位の注意点

1. kJとJの換算
1 kJ = 1000 J
計算途中で混在しないよう注意

2. 質量とモルの換算
モル数 = 質量(g) ÷ モル質量(g/mol)

3. 体積とモルの換算(気体)
標準状態:1 mol = 22.4 L

4. 有効数字
与えられたデータの有効数字に合わせる
通常2~3桁

よくある間違いと対策

エンタルピー計算でよくある間違いを確認しましょう。

よくある間違い

1. 符号の間違い
・発熱反応なのに正の値にしてしまう
・反応式を逆にしたときに符号を変え忘れる

対策:最後に「発熱なら負、吸熱なら正」を確認

2. 係数の掛け忘れ
・反応式を2倍したときにΔHも2倍し忘れる
・生成物や反応物の係数を考慮し忘れる

対策:反応式とΔHは常にセットで扱う

3. 単体の生成エンタルピー
・単体のΔH°f = 0を忘れる

対策:O₂、H₂、Nなどは常に0

4. 単位の混在
・kJとJを混ぜて計算してしまう

対策:最初に単位を統一する

計算を速く正確にするコツ

計算を効率よく進めるコツをご紹介します。

計算のコツ

1. 問題タイプの判別
・何が与えられているか確認
・ヘスの法則か、生成エンタルピーか、結合エネルギーか判断

2. 式の整理
・目的の反応式を明確にする
・与えられた式を整理して書く

3. 計算の工夫
・分数の約分を先にする
・符号に注意して慎重に計算

4. 検算
・答えの符号が妥当か確認
・桁数が合っているか確認

まとめ|エンタルピー変化の求め方は?計算のポイント

本記事では、エンタルピー変化の計算方法について、具体的な例題を交えながら詳しく解説しました。

エンタルピー変化を求める方法は主に3つあります。ヘスの法則は既知の反応式を組み合わせる方法で、反応式の加減に合わせてΔHも加減します。生成エンタルピーを使う方法は、生成物と反応物の生成エンタルピーの差から計算する最も標準的な方法です。結合エネルギーを使う方法は、切断する結合と生成する結合のエネルギー差から求めます。

計算では、単位の換算、係数の扱い、符号の判断に注意が必要です。特に、反応式を逆にしたり係数倍したりする場合は、ΔHも同様に処理することを忘れないようにしましょう。問題で与えられるデータに応じて適切な方法を選び、正確に計算することで、エンタルピー問題を確実に解けるようになります。