物理や光学を学ぶ上で重要な概念の一つが屈折率です。レンズ、プリズム、光ファイバーなど、光に関する現象を理解するためには、屈折率の知識が欠かせません。
しかし、屈折率とは何を表しているのか、どんな公式で計算するのか、波長とどう関係するのか、わかりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
実は、屈折率は物質中を光がどれだけ遅く進むかを表す物理量であり、材料の光学的性質を知る上で非常に重要な指標です。
ガラスやアクリルは屈折率が大きく、空気や真空は屈折率が小さいです。
この記事では、屈折率の基本的な定義から、単位や記号、公式、波長との関係、計算方法、そしてガラス、空気、アクリル、レンズ材料などの屈折率一覧まで、わかりやすく丁寧に解説していきます。
物理学や光学を学ぶ方はぜひ最後までお読みください。
屈折率とは?基本的な意味と定義
それではまず、屈折率の基本的な意味と定義について解説していきます。
屈折率の定義
屈折率(くっせつりつ、英語:refractive index)とは、真空中の光速に対する、物質中での光の速さの比を表す物理量です。
記号ではnで表されます。
屈折率は次の式で定義されます。
ここで、
・c:真空中の光速(約3.0 × 10⁸ m/s)
・v:物質中の光速
屈折率が大きい物質ほど、光の速度が遅くなります。
逆に屈折率が小さい物質は、光が速く進むということになります。
例えば、ガラスの屈折率は約1.5なので、ガラス中では光は真空中の1/1.5 = 2/3の速度で進みます。水の屈折率は約1.33なので、水中では光は真空中の約3/4の速度で進みます。
屈折率は、レンズの設計、光ファイバーの製造、光学機器の開発など、様々な光学技術に欠かせない物理量です。
光の屈折現象
屈折率が重要なのは、異なる物質の境界で光が曲がる「屈折」という現象に関係するためです。
屈折とは、光が異なる媒質の境界を通過するとき、進行方向が変わる現象です。
この現象はスネルの法則(屈折の法則)で説明されます。
ここで、
・n₁:入射側の物質の屈折率
・θ₁:入射角
・n₂:屈折側の物質の屈折率
・θ₂:屈折角
この法則により、レンズが光を集めたり広げたりする仕組みが説明できます。
屈折率が大きい物質に光が入るとき、光は法線(境界面に垂直な線)に近づくように曲がります。
逆に、屈折率が小さい物質に光が入るとき、光は法線から遠ざかるように曲がります。
屈折率が表す物質の性質
屈折率は、物質の光学的な性質を表す重要な指標です。
屈折率が大きい物質:
・光の速度が遅い
・光を大きく曲げる
・レンズとして強い屈折力を持つ
・例:ダイヤモンド、ガラス、水
屈折率が小さい物質:
・光の速度が速い
・光をあまり曲げない
・真空に近い性質
・例:空気、ヘリウム、真空
屈折率は波長によって変わります。これを分散と呼びます。
一般的に、波長が短い(青い)光ほど屈折率が大きく、波長が長い(赤い)光ほど屈折率が小さくなります。
この性質により、プリズムが白色光を虹色に分けることができます。
・屈折率が大きい:光が遅く進む(レンズに適する)
・屈折率が小さい:光が速く進む(真空に近い)
・屈折率は波長によって変化する(分散)
屈折率の単位と記号
続いては、屈折率を表す単位と記号について確認していきます。
屈折率の単位(無次元)
屈折率は、速度の比を表すため、単位のない無次元数です。
定義式n = c/vにおいて、cとvは同じ単位(m/s)なので、単位は相殺されます。
屈折率は通常、1以上の値を取ります。
真空の屈折率がちょうど1で、他のすべての物質の屈折率は1より大きくなります(ただし、X線などの特殊な場合を除く)。
一般的な物質の屈折率の範囲:
・気体:1.0〜1.001程度
・液体:1.3〜1.7程度
・固体:1.4〜2.5程度(一般的な材料)
・ダイヤモンド:2.4程度(特に高い)
真空・空気の屈折率
真空と空気の屈折率は、光学計算の基準となります。
真空:
・屈折率n = 1(定義)
・光が最も速く進む
・すべての屈折率の基準
空気(標準状態)
:
・屈折率n ≈ 1.000293
・実用上はn = 1とする
・真空とほぼ同じ
空気の屈折率は1に非常に近いため、日常的な光学計算では空気中も真空として扱うことが多いです。
ただし、精密な測定や天体観測などでは、空気の屈折率を考慮する必要があります。
絶対屈折率と相対屈折率
屈折率には、絶対屈折率と相対屈折率という2つの概念があります。
絶対屈折率:
真空を基準とした屈折率
通常「屈折率」と言えばこれを指す
記号:n
相対屈折率
:
ある物質から別の物質への光の進み方を表す
2つの物質間の屈折率の比
記号:n₂₁
n₂₁ = 1.5/1.33 ≈ 1.13
水に対してガラスの相対屈折率は約1.13です。
| 記号 | 名称 | 単位 |
|---|---|---|
| n | 屈折率(絶対屈折率) | 無次元 |
| c | 真空中の光速 | 3.0 × 10⁸ m/s |
| v | 物質中の光速 | m/s |
これらの関係を理解することが、光学の基礎となります。
屈折率の求め方と公式
続いては、屈折率を実際に求める方法を見ていきます。
基本的な計算式
屈折率nの基本的な求め方は、定義式を使います。
真空中の光速cと物質中の光速vがわかれば、屈折率を計算できます。
n = c/v = (3.0 × 10⁸)/(2.0 × 10⁸)
= 1.5
この物質の屈折率は1.5です。
逆に、屈折率から物質中の光速を求めることもできます。
v = c/n = (3.0 × 10⁸)/1.33
≈ 2.26 × 10⁸ m/s
水中での光速は約2.26 × 10⁸ m/sです。
スネルの法則を使った計算
スネルの法則を使って、屈折角や屈折率を求めることができます。
n₁sinθ₁ = n₂sinθ₂
1 × sin30° = 1.5 × sinθ₂
0.5 = 1.5 × sinθ₂
sinθ₂ = 0.5/1.5 = 1/3 ≈ 0.333
θ₂ = arcsin(0.333) ≈ 19.5°
屈折角は約19.5度です。光は法線に近づくように曲がります。
n₁sinθ₁ = n₂sinθ₂
1.33 × sin45° = 1.5 × sinθ₂
1.33 × 0.707 = 1.5 × sinθ₂
0.940 = 1.5 × sinθ₂
sinθ₂ = 0.940/1.5 ≈ 0.627
θ₂ = arcsin(0.627) ≈ 38.8°
屈折角は約38.8度です。
波長と屈折率の関係
屈折率は波長によって変化します。この関係を分散と呼びます。
一般的に、コーシーの式という近似式が使われます。
ここで、λは波長、A、B、Cは物質固有の定数
簡略化した形では、
この式から、波長が短いほど屈折率が大きくなることがわかります。
・赤色光(λ = 656 nm):n ≈ 1.512
・黄色光(λ = 589 nm):n ≈ 1.517
・青色光(λ = 486 nm):n ≈ 1.524
波長が短い青色光ほど屈折率が大きい。
この性質により、プリズムが白色光を虹色のスペクトルに分解できます。
・n = c/v(定義式)
・n₁sinθ₁ = n₂sinθ₂(スネルの法則)
・v = c/n(物質中の光速)
・c = 3.0 × 10⁸ m/s(覚えておく)
・波長が短いほど屈折率が大きい
これらの式を使いこなせれば、様々な光学の問題を解けます。
様々な物質の屈折率一覧
続いては、代表的な物質の屈折率を確認していきます。
気体の屈折率
気体の屈折率は、真空とほぼ同じで非常に小さいです。
真空:
・屈折率n = 1.000000(定義)
空気(標準状態、589 nm):
・屈折率n ≈ 1.000293
・実用上はn = 1とする
二酸化炭素:
・屈折率n ≈ 1.00045
ヘリウム:
・屈折率n ≈ 1.000036
水素:
・屈折率n ≈ 1.000132
気体の屈折率は1に非常に近く、実用上は真空と同じとして扱われます。
液体の屈折率
液体の屈折率は、物質によって異なります。
水(20℃、589 nm):
・屈折率n ≈ 1.333
・最も一般的な液体
エタノール:
・屈折率n ≈ 1.361
グリセリン:
・屈折率n ≈ 1.473
ベンゼン:
・屈折率n ≈ 1.501
二硫化炭素:
・屈折率n ≈ 1.628
油類:
・オリーブ油:n ≈ 1.46
・ひまし油:n ≈ 1.48
・シリコーン油:n ≈ 1.40〜1.41
固体の屈折率(ガラス・アクリル・レンズ材料など)
固体の屈折率は、材料によって幅広い範囲にわたります。
ガラス類:
・石英ガラス(溶融石英):n ≈ 1.458
・ソーダガラス(普通ガラス):n ≈ 1.52
・クラウンガラス(BK7):n ≈ 1.517
・フリントガラス:n ≈ 1.6〜1.9
・重フリントガラス:n ≈ 1.7〜1.9
プラスチック類:
・アクリル(PMMA):n ≈ 1.49
・ポリカーボネート(PC):n ≈ 1.586
・ポリスチレン(PS):n ≈ 1.59
・ポリエチレン(PE):n ≈ 1.51
・ポリプロピレン(PP):n ≈ 1.49
・CR-39(眼鏡レンズ材料):n ≈ 1.498
レンズ材料:
・通常プラスチックレンズ:n ≈ 1.50
・中屈折率レンズ:n ≈ 1.60
・高屈折率レンズ:n ≈ 1.67
・超高屈折率レンズ:n ≈ 1.74
・屈折率が高いほどレンズを薄くできる
結晶・鉱物:
・氷:n ≈ 1.31
・岩塩(NaCl):n ≈ 1.544
・石英(水晶):n ≈ 1.544
・サファイア:n ≈ 1.77
・ダイヤモンド:n ≈ 2.417
・ルチル(酸化チタン):n ≈ 2.6〜2.9
その他の材料:
・紙:n ≈ 1.5
・セルロース:n ≈ 1.47
・砂糖:n ≈ 1.56
・塩:n ≈ 1.54
| 物質 | 屈折率n | 用途 |
|---|---|---|
| 真空 | 1.000 | 基準 |
| 空気 | ≈ 1.000 | 一般環境 |
| 水 | 1.333 | 一般液体 |
| アクリル | 1.49 | プラスチックレンズ |
| ソーダガラス | 1.52 | 窓ガラス |
| クラウンガラス | 1.517 | 光学レンズ |
| ポリカーボネート | 1.586 | 耐衝撃レンズ |
| フリントガラス | 1.6〜1.9 | 高屈折率レンズ |
| サファイア | 1.77 | 光学窓材 |
| ダイヤモンド | 2.417 | 宝石・工具 |
空気と真空の屈折率がほぼ等しいため、空気中での計算は真空として扱えることが多いです。
レンズの設計では、屈折率の高い材料を使うことで、より薄く軽いレンズを作ることができます。
まとめ 屈折率のガラスや空気やアクリル・レンズなどの一覧は?単位も
屈折率について、基本的な定義から単位、公式、計算方法、様々な物質の屈折率まで詳しく解説してきました。
屈折率nは、真空中の光速に対する物質中での光の速さの比を表す物理量で、n = c/vという式で定義されます。
屈折率は無次元数(単位なし)です。
真空の屈折率n = 1は基準となる重要な値です。
空気の屈折率もほぼ1なので、実用上は空気中も真空として扱うことが多いです。
屈折率の求め方は、n = c/vという定義式から計算するか、スネルの法則n₁sinθ₁ = n₂sinθ₂を使います。
屈折率は波長によって変化し、一般的に波長が短いほど屈折率が大きくなります。
物質の屈折率は、空気(n ≈ 1)、水(n ≈ 1.33)、ガラス(n ≈ 1.5〜1.9)、アクリル(n ≈ 1.49)、ポリカーボネート(n ≈ 1.59)、ダイヤモンド(n ≈ 2.42)など、物質によって大きく異なります。
レンズ、プリズム、光ファイバー、眼鏡など、多くの光学機器の設計には屈折率の知識が不可欠です。
この記事で学んだ知識を使って、光学の理解を深めてください。