流体力学や圧力測定を学ぶ上で基本的な測定器の一つがマノメータです。配管の圧力測定、実験室での圧力管理、医療現場での血圧測定など、圧力を知るためには、マノメータの知識が欠かせません。
しかし、マノメータとは何を測定する装置なのでしょうか。どんな原理で圧力を測定するのか、どうやって読み取るのか、差圧計とどう違うのか、わかりにくいと感じる方も多いはずです。
実は、マノメータは液柱の高さを利用して圧力を測定する装置であり、最も基本的で信頼性の高い圧力計となります。
水銀マノメータは血圧計として医療現場で長年使われ、U字管マノメータは実験室で広く利用されているのです。
この記事では、マノメータの基本的な定義から、測定原理と仕組み、様々な種類と読み方、差圧計との違い、圧力の計算方法、そして医療や産業での具体的な用途まで、わかりやすく丁寧に解説していきます。
流体力学や機械工学、医療を学ぶ方はぜひ最後までお読みください。
マノメータとは?基本的な意味と定義
それではまず、マノメータの基本的な意味と定義について解説していきましょう。
マノメータの定義
マノメータ(manometer、液柱圧力計)とは、液体の柱の高さを利用して圧力を測定する装置です。
英語では「manometer」と書き、ギリシャ語の「manos(薄い)」と「metron(測定)」に由来します。
マノメータの特徴:
・液柱の高さで圧力を測定
・目視で読み取り可能
・構造がシンプル
・電源不要
・高精度
マノメータは、次のような場面で使われています。
・実験室での圧力測定
・配管やダクトの圧力監視
・医療現場での血圧測定
・気圧の測定(気圧計)
・ボイラーや圧力容器の監視
例えば、U字型のガラス管に液体を入れたものが最も基本的なマノメータ。液面の高さの差から、圧力を読み取ることができるのです。
マノメータは、産業、医療、研究など、様々な分野で不可欠な測定器となっています。
マノメータの歴史
マノメータは古くから使われてきた測定器です。
・17世紀:トリチェリが水銀気圧計を発明(1643年)
・18世紀:U字管マノメータが開発される
・19世紀:医療用水銀血圧計が実用化(1896年)
・20世紀:様々な形式のマノメータが開発される
特に水銀マノメータは、その高精度から長年にわたって標準器として使用されてきました。
現在では環境への配慮から、水銀を使わないマノメータも増えているでしょう。
マノメータの基本原理
マノメータの測定原理は、流体の静力学に基づいています。
P = ρgh
ここで、
・P:圧力 [Pa]
・ρ:液体の密度 [kg/m³]
・g:重力加速度 = 9.8 m/s²
・h:液柱の高さ [m]
この式が示すのは、「液柱の高さhが高いほど、圧力Pは大きい」という関係。
液体の密度ρが大きいほど、同じ高さでもより大きな圧力を示します。
例えば、水銀(ρ = 13,600 kg/m³)は水(ρ = 1,000 kg/m³)の約13.6倍の密度なので、同じ圧力でも水銀柱の高さは水柱の約1/13.6で済むのです。
・液柱の高さで圧力を測定
・構造がシンプルで高精度
・電源不要で目視確認可能
・実験室や産業で広く使用
マノメータの原理と仕組み
続いては、マノメータが圧力を測定する原理と仕組みについて確認していきましょう。
液柱による圧力の発生
マノメータの原理は、液体の重さによる圧力です。
液体の柱があると、その底面には液体の重さによる圧力がかかります。
圧力の計算:
これは、高さhの液柱が作る圧力。
単位:
・ρ:kg/m³
・g:m/s²
・h:m
・P:Pa = N/m² = kg/(m·s²)
具体例で考えてみましょう。
水の密度:ρ = 1000 kg/m³
高さ:h = 1 m
P = ρgh
= 1000 × 9.8 × 1
= 9800 Pa
≈ 9.8 kPa
水柱1 mは約9.8 kPaの圧力に相当する。
圧力平衡の原理
マノメータでは、液面の高さが圧力平衡によって決まります。
U字管マノメータの場合:
・左側:測定したい圧力P₁
・右側:大気圧P₀(開放端の場合)
・液柱の高さの差:h
圧力の平衡条件:
整理すると、
P₁ – P₀ = ρgh
または、
ΔP = ρgh
ここで、ΔPはゲージ圧(大気圧との差)
この式により、液柱の高さの差hから圧力差ΔPを求めることができるのです。
様々な液体とその特性
マノメータに使う液体によって、測定できる圧力範囲が変わります。
水マノメータ:
・密度:ρ = 1000 kg/m³
・測定範囲:数kPa程度
・利点:安価、無害、透明
・欠点:蒸発しやすい、測定範囲が狭い
水銀マノメータ:
・密度:ρ = 13,600 kg/m³
・測定範囲:数十〜数百kPa
・利点:高密度、蒸気圧が低い、広範囲測定
・欠点:有毒、高価、不透明
アルコール・油マノメータ:
・密度:ρ = 800〜900 kg/m³
・測定範囲:数kPa程度
・利点:着色可能、低密度(微圧測定)
・欠点:蒸発、温度依存性
密度の比較:
水:h = P/(ρg) = 10000/(1000×9.8) ≈ 1.02 m
水銀:h = 10000/(13600×9.8) ≈ 0.075 m = 75 mm
水銀なら約7.5 cmで済むが、水では約1 m必要。
用途に応じて適切な液体を選ぶことが重要でしょう。
・液柱の重さが圧力を生む
・P = ρgh(基本式)
・圧力差ΔP = ρgh
・液体の密度で測定範囲が変わる
マノメータの種類と読み方
続いては、マノメータの様々な種類と、それぞれの読み方を見ていきましょう。
U字管マノメータ
最も基本的なマノメータがU字管マノメータです。
構造:
・U字型に曲げたガラス管
・両端が開放または片方接続
・液体(水、水銀など)を封入
・目盛りで液面の高さを読む
読み方:
・一方を測定対象に接続
・他方を大気に開放
・液面の高さの差hを読む
・圧力差:ΔP = ρgh
・両端を異なる測定点に接続
・液面の高さの差hを読む
・圧力差:ΔP = P₁ – P₂ = ρgh
目盛りの読み方:
・液面の最下部(メニスカスの底)を読む
・目線を液面と同じ高さにする(視差を避ける)
・左右の液面の高さの差を計算
単管マノメータ(縦型マノメータ)
一本の垂直管を使う単管マノメータ。
構造:
・一本の垂直なガラス管
・下端に液溜めタンク
・タンクは十分大きく、液面変動が小さい
読み方:
・管の上端から圧力を加える
・液面の上昇高さhを読む
・圧力:P = ρgh(ゲージ圧)
タンクの液面降下は無視できるほど小さい。
傾斜管マノメータ
微小圧力を測定するための傾斜管マノメータ。
構造:
・管を水平に対して傾ける(通常10〜30度)
・液体の移動距離Lを読む
・実際の高さh = L × sinθ
読み方:
・管に沿った液体の移動距離Lを測定
・傾斜角θから高さh = L × sinθ
・圧力:ΔP = ρgh = ρgL sinθ
傾斜させることで、読み取り精度が向上する。
利点:
・微小圧力の測定に適する
・読み取り精度が高い(移動距離が大きい)
・感度:通常の1/sinθ倍
井戸型マノメータ
井戸型マノメータ
は、単管マノメータの改良型。
構造:
・大きな液溜めタンク(井戸)
・細い測定管
・タンクの断面積 >> 測定管の断面積
読み方:
・タンクの液面降下は無視
・圧力:P ≈ ρgh
断面積比が100:1以上なら、補正なしで高精度。
デジタルマノメータ
現代では、デジタルマノメータも広く使われます。
構造:
・圧力センサー(半導体、ピエゾ素子など)
・デジタル表示装置
・電池または電源が必要
特徴:
・液体不要
・数値で直接表示
・データ記録が可能
・自動校正機能
ただし、「マノメータ」という名称は主に液柱式を指すことが多いでしょう。
| 種類 | 特徴 | 測定範囲 |
|---|---|---|
| U字管マノメータ | 最も基本的 | 数kPa〜数百kPa |
| 単管マノメータ | 読み取り簡単 | 数kPa〜数十kPa |
| 傾斜管マノメータ | 微圧測定用 | 数Pa〜数kPa |
| 井戸型マノメータ | 高精度 | 数kPa〜数十kPa |
これらの種類を理解することで、用途に応じた適切なマノメータを選択できるでしょう。
差圧計との違い
続いては、マノメータと差圧計の違いについて確認していきましょう。
差圧計とは
差圧計(さあつけい、differential pressure gauge)とは、2つの圧力の差を測定する装置です。
差圧計の種類:
・液柱式差圧計(マノメータも含まれる)
・機械式差圧計(ダイアフラム式など)
・電子式差圧計(圧力センサー式)
実は、U字管マノメータは差圧計の一種なのです。
マノメータと差圧計の関係
マノメータ(狭義)
:
・液柱を使った圧力計
・主に絶対圧やゲージ圧の測定
・構造がシンプル
・目視で読み取り
・液体の種類で測定範囲が決まる
差圧計(広義):
・2点間の圧力差を測定する全ての装置
・液柱式、機械式、電子式を含む
・マノメータも差圧計の一種
・様々な測定範囲に対応
関係性:
つまり、マノメータは差圧計の一種(液柱式)。
測定方式の違い
液柱式(マノメータ)
:
・液柱の高さで測定
・原理が単純で信頼性高い
・校正が容易(液体の密度のみ)
・応答が遅い
・設置に制約(垂直設置が必要)
機械式差圧計:
・ダイアフラムやベローズの変位で測定
・コンパクト
・任意の向きで設置可能
・応答が速い
・機械的な劣化がある
電子式差圧計:
・圧力センサーで電気信号に変換
・デジタル表示
・データ記録が容易
・自動制御に適する
・電源が必要
・定期的な校正が必要
用途の違い
マノメータが適する場面
:
・実験室での精密測定
・標準器としての使用
・校正作業
・電源がない場所
・目視確認が必要な場合
機械式・電子式差圧計が適する場面:
・産業現場での連続監視
・自動制御システム
・狭い設置スペース
・高速応答が必要
・データ記録が必要
| 項目 | マノメータ(液柱式) | 機械式差圧計 | 電子式差圧計 |
|---|---|---|---|
| 測定原理 | 液柱の高さ | 機械的変位 | 電気信号 |
| 精度 | 高い | 中程度 | 高い |
| 応答速度 | 遅い | 速い | 非常に速い |
| 設置 | 垂直設置必要 | 任意 | 任意 |
| 電源 | 不要 | 不要 | 必要 |
| コスト | 低い | 中程度 | 高い |
用途に応じて、適切な測定方式を選ぶことが重要となります。
圧力の計算方法と例題
続いては、マノメータを使った具体的な圧力の計算方法を見ていきましょう。
基本的な圧力計算
マノメータの基本計算式を確認します。
ここで、
・ΔP:圧力差 [Pa]
・ρ:液体の密度 [kg/m³]
・g:重力加速度 = 9.8 m/s² (または9.81 m/s²)
・h:液柱の高さの差 [m]
単位換算:
1 mmHg = 133.3 Pa
1 atm = 760 mmHg = 101,325 Pa
水マノメータの計算
水を使ったマノメータの計算例です。
U字管水マノメータで、左右の液面の高さの差が50 mm = 0.05 mだった。圧力差は?(水の密度ρ = 1000 kg/m³)
ΔP = ρgh
= 1000 × 9.8 × 0.05
= 490 Pa
≈ 0.49 kPa
圧力差は約490 Pa(約0.49 kPa)。
配管に接続した水マノメータの液柱が200 mm = 0.2 m上昇した。配管内のゲージ圧は?
P = ρgh
= 1000 × 9.8 × 0.2
= 1960 Pa
≈ 1.96 kPa
配管内のゲージ圧は約1.96 kPa。
水銀マノメータの計算
水銀を使ったマノメータの計算例です。
U字管水銀マノメータで、左右の液面の高さの差が100 mm = 0.1 mだった。圧力差は?(水銀の密度ρ = 13,600 kg/m³)
ΔP = ρgh
= 13600 × 9.8 × 0.1
= 13,328 Pa
≈ 13.3 kPa
圧力差は約13.3 kPa。
水マノメータで同じ圧力差を測るには、約1.36 mの高さが必要。
水銀気圧計の水銀柱の高さが760 mm = 0.76 mだった。気圧は?
P = ρgh
= 13600 × 9.8 × 0.76
= 101,293 Pa
≈ 101.3 kPa
= 1 atm
これが標準大気圧(1 atm = 760 mmHg)。
異種液体の計算
測定流体とマノメータ液が異なる場合の計算です。
気体配管(気体の密度は液体に比べて無視できる)に水マノメータを接続したところ、液柱差が300 mm = 0.3 mだった。気体のゲージ圧は?
気体の密度は水に比べて非常に小さいので無視すると、
ΔP = ρ_水 × g × h
= 1000 × 9.8 × 0.3
= 2940 Pa
≈ 2.94 kPa
気体のゲージ圧は約2.94 kPa。
傾斜管マノメータの計算
傾斜管マノメータの計算例です。
傾斜角20度の傾斜管マノメータ(アルコール、密度ρ = 800 kg/m³)で、液体の移動距離がL = 50 mm = 0.05 mだった。圧力差は?
液柱の実際の高さ:h = L × sin(20°) = 0.05 × 0.342 = 0.0171 m
ΔP = ρgh
= 800 × 9.8 × 0.0171
= 134 Pa
≈ 0.13 kPa
圧力差は約134 Pa。
垂直管なら約17 mmの高さに相当するが、傾斜管では50 mmの移動距離となり、読み取りやすい。
複合マノメータの計算
複数の液体層がある場合の計算です。
U字管に水(ρ = 1000 kg/m³)と水銀(ρ = 13600 kg/m³)を入れ、水銀の液面差が50 mm、水の液面差が100 mmだった。全体の圧力差は?
ΔP = ρ_水銀 × g × h_水銀 + ρ_水 × g × h_水
= 13600 × 9.8 × 0.05 + 1000 × 9.8 × 0.1
= 6664 + 980
= 7644 Pa
≈ 7.6 kPa
全体の圧力差は約7.6 kPa。
・ΔP = ρgh(基本式)
・単位をSI単位系に統一(m、kg/m³、Pa)
・g = 9.8 m/s²を使用
・気体の密度は液体に比べて無視可能
・傾斜管:h = L × sinθ
これらの計算方法をマスターすれば、様々な圧力測定の問題が解けるでしょう。
マノメータの用途(医療・産業など)
続いては、マノメータの具体的な用途を確認していきましょう。
医療分野での用途
マノメータは医療現場で重要な役割を果たしています。
血圧計(水銀血圧計):
・水銀マノメータを使用
・動脈血圧の測定(収縮期/拡張期)
・単位:mmHg
・正常血圧:120/80 mmHg程度
・最も信頼性の高い血圧測定法
測定原理:
2. カフを加圧して動脈を圧迫
3. ゆっくり減圧しながら聴診器で音を聞く
4. 最初に音が聞こえた圧力:収縮期血圧
5. 音が消えた圧力:拡張期血圧
水銀マノメータで圧力を読み取る。
注意点:
・現在は環境への配慮から、電子血圧計への移行が進んでいる
・ただし水銀血圧計は標準器として重要
・医療機関では校正用に保持されることが多い
人工呼吸器の圧力監視:
・気道内圧の測定
・適切な換気圧の管理
・安全性の確保
透析装置:
・血液回路の圧力監視
・濾過圧の管理
産業分野での用途
産業現場でもマノメータは広く使われています。
配管・ダクトの圧力測定:
・ガス配管の圧力監視
・空調ダクトの静圧測定
・水道管の水圧測定
・蒸気配管の圧力管理
ボイラー・圧力容器:
・蒸気圧の監視
・安全性の確認
・運転管理
真空装置:
・真空度の測定
・真空ポンプの性能確認
・真空乾燥装置の管理
計測・制御:
・差圧式流量計の一部
・液面計(差圧による)
・フィルター目詰まり検知
実験・研究分野での用途
流体力学実験
:
・ピトー管との組み合わせで流速測定
・風洞実験での圧力分布測定
・模型周りの圧力測定
化学実験:
・反応容器の圧力監視
・蒸留装置の圧力管理
・減圧・加圧実験
気象観測:
・気圧計(水銀気圧計)
・気圧変化の観測
・標高の測定
環境測定での用途
大気圧測定
:
・気象観測所
・航空分野
・高度計算
換気・空調評価:
・室内外の圧力差測定
・換気効率の評価
・クリーンルームの差圧管理
排気ガス測定:
・煙突のドラフト圧測定
・排気システムの性能評価
日常生活での応用
タイヤ空気圧計
:
・自動車のタイヤ空気圧測定
・適正空気圧の確認
血圧計(家庭用):
・健康管理
・高血圧のモニタリング
| 分野 | 用途 | 典型的な測定範囲 |
|---|---|---|
| 医療 | 血圧測定 | 0〜300 mmHg |
| 産業 | 配管圧力 | 0〜数百kPa |
| 実験 | 流速測定(ピトー管) | 数Pa〜数十kPa |
| 環境 | 気圧測定 | 90〜110 kPa |
| 換気 | 差圧測定 | 数Pa〜数百Pa |
マノメータは、その信頼性の高さから、様々な分野で今も重要な測定器として使われ続けています。
まとめ
マノメータについて、基本的な定義から測定原理、種類と読み方、差圧計との違い、計算方法、そして様々な用途まで詳しく解説してきました。
マノメータは、液柱の高さを利用して圧力を測定する装置であり、P = ρghという単純な原理に基づいています。
主な種類には、U字管マノメータ(最も基本的)、単管マノメータ(読み取り簡単)、傾斜管マノメータ(微圧測定用)、井戸型マノメータ(高精度)があります。
差圧計は2つの圧力差を測定する装置全般を指し、マノメータは液柱式の差圧計に分類されるのです。
圧力の計算は、ΔP = ρghの基本式を使い、水(ρ = 1000 kg/m³)や水銀(ρ = 13,600 kg/m³)などの液体の密度に応じて測定範囲が変わります。
マノメータは、医療分野(血圧計)、産業分野(配管圧力測定)、実験分野(流速測定)、環境測定(気圧計)など、多くの場面で使われているでしょう。
流体力学、機械工学、医療、環境工学など、様々な分野でマノメータの知識が必要です。
この記事で学んだ知識を使って、圧力測定の理解を深めてください。