真空の透磁率とは、真空中における磁束密度と磁場の強さの関係を表す物理定数です。
一般には真空透磁率とも呼ばれ、記号にはμ0が使われます。
電磁気学の教科書では、μ0=4π×10−7H/mという値を目にすることが多いでしょう。
ただし、現在の国際単位系では、真空の透磁率は定義によって厳密に固定された値ではなく、測定される物理定数として扱われています。
そのため、4π×10−7H/mは実用上きわめて正確な近似値ですが、現行SIでは完全な定義値ではありません。
真空の透磁率は、電流が作る磁場、電磁波の速度、真空の誘電率、微細構造定数などと密接に関係します。
この記事では、真空の透磁率とは?値と意味も解説!(真空透磁率・物理定数・μ0・4π×10^-7・SI単位系など)というテーマに沿って、基本式、単位、旧SIと現行SIの違い、計算例を解説します。
真空の透磁率は真空中の磁束密度と磁場の強さを結ぶ物理定数
それではまず、真空の透磁率の定義と物理的な意味について解説していきます。
真空の透磁率μ0は、真空中で磁場の強さHと磁束密度Bを関係付ける定数です。
真空中では、B=μ0Hという関係が成り立ちます。
したがって、μ0=B/Hと表せます。
真空の透磁率は、真空が物質のように強く磁化されることを意味する値ではありません。
電磁気学の単位体系において、磁束密度と磁場の強さを結び付ける基準となる物理定数です。
真空の透磁率の基本的な意味
磁場の強さHは、電流や磁極による磁化作用を表す量です。
磁束密度Bは、磁場の状態を磁束の密度として表した量です。
真空中には通常の磁性材料のような磁区や磁化がありません。
それでも、BとHは同じ単位や同じ数値を持つ量ではないため、両者を関係付ける比例定数が必要です。
その定数が真空の透磁率μ0です。
物質中では、磁化Mを含めてB=μ0(H+M)と表されます。
磁化しやすい物質ではMが大きくなるため、同じHでもBが大きくなります。
線形な物質では、物質の透磁率μを用いてB=μHとまとめて表すことが可能です。
さらに、μ=μ0μrという関係があり、μrは真空を基準とした比透磁率です。
記号μ0の読み方
μはギリシャ文字のミューです。
右下の0はゼロを表し、真空または自由空間における値であることを示します。
日本語では、ミューゼロ、ミューノート、真空透磁率などと呼ばれます。
英語では、vacuum permeability、permeability of free space、magnetic constantなどの名称が使われます。
以前はmagnetic constantという呼び方も広く用いられましたが、現在はvacuum magnetic permeabilityと表現されることがあります。
添字0は、真空の誘電率ε0、真空中の光速cなどの式にも現れます。
電磁気学では、真空を基準状態として物質中の性質を比較するため、添字0を付けた物理定数が多く用いられます。
真空と空気の透磁率の違い
厳密には、真空と空気は同じものではありません。
空気には窒素、酸素、アルゴンなどの分子が存在し、それぞれが弱い磁気特性を持っています。
酸素は常磁性を示し、窒素は反磁性を示します。
ただし、通常の温度と圧力における空気の比透磁率は1に非常に近い値です。
そのため、一般的な電磁気学の計算や電気機器の設計では、空気の透磁率を真空の透磁率μ0とほぼ等しいものとして扱います。
高精度な測定や強磁場環境では、空気の組成、圧力、温度による小さな差を考慮する場合があります。
通常の磁気回路計算では空気の比透磁率を約1とし、空隙部分の透磁率としてμ0を用いて問題ありません。
真空の透磁率は約1.256637×10の−6乗H/m
続いては、真空の透磁率の具体的な数値と表し方を確認していきます。
教科書や技術資料では、4πを使った形と小数表示の両方が使われます。
4π×10の−7乗という表記
真空の透磁率は、実用上μ0≒4π×10−7H/mと表されます。
小数では、μ0≒1.25663706×10−6H/mです。
πは円周率で、約3.14159265です。
4πは約12.5663706であるため、4π×10−7は約1.25663706×10−6となります。
計算問題では4π×10−7をそのまま使うと、円周や球面に関係する係数と約分できることがあります。
たとえば、長い直線電流の周囲に生じる磁束密度の式には2πが含まれます。
長い直線電流から距離rの位置における磁束密度は、B=μ0I/(2πr)です。
μ0=4π×10−7を代入すると、B=2×10−7I/rと簡単に表せます。
このように、4πを含む表記は電磁気学の式との相性がよく、手計算でも便利です。
真空の透磁率の単位
真空の透磁率のSI単位は、ヘンリー毎メートルを表すH/mです。
磁束密度Bの単位Tと磁場の強さHの単位A/mを用いると、透磁率の単位はT・m/Aとなります。
テスラTはWb/m2であるため、Wb/(A・m)とも表せます。
| 表記 | 読み方 | 関係 |
|---|---|---|
| H/m | ヘンリー毎メートル | 透磁率の代表的なSI表記 |
| N/A2 | ニュートン毎アンペア二乗 | 力と電流の関係から導かれる表記 |
| T・m/A | テスラメートル毎アンペア | B=μHから導かれる表記 |
| Wb/(A・m) | ウェーバー毎アンペアメートル | 磁束を用いた表記 |
これらは見た目が異なりますが、SI基本単位へ分解すると同じ次元になります。
計算式の形によって使いやすい単位表記が選ばれます。
有効数字と近似値の使い分け
学校の計算問題では、μ0=4π×10−7H/mとして扱うのが一般的です。
πを3.14として計算する場合、結果の有効数字もそれに合わせます。
技術計算では、1.256637×10−6H/mなどの小数値を使うことがあります。
ただし、測定値の精度が低い場合に、真空の透磁率だけ多くの桁を使っても最終結果の精度は向上しません。
電流、長さ、面積、巻数など、他の値の有効数字に合わせる必要があります。
また、現行SIにおけるμ0は厳密な4π×10−7ではないため、基礎定数として極めて高い精度が必要な研究では最新の推奨値を参照します。
通常の工学計算では、4π×10−7との違いを考慮する必要はほとんどありません。
現行SIでは4π×10の−7乗は厳密な定義値ではない
続いては、国際単位系の改定によって真空の透磁率の扱いがどのように変わったかを確認していきます。
古い教科書と新しい資料で説明が異なることがあるため、背景を知っておくと混乱を防げます。
旧SIにおける真空透磁率
以前のSIでは、アンペアが二本の平行導線に働く力を基準として定義されていました。
真空中に1メートル間隔で置いた無限に長い平行導線に同じ電流を流し、導線1メートル当たりに生じる力を用いる定義です。
このアンペアの定義と電磁気学の式により、μ0は4π×10−7N/A2という厳密な定義値になっていました。
したがって、旧SIでは測定誤差を持たない固定値として扱われていました。
多くの教科書が真空透磁率を正確に4π×10−7と説明しているのは、この旧定義に基づいているためです。
SI基本単位の再定義による変化
SI基本単位は、人工物や特定の実験配置ではなく、普遍的な物理定数を基準に定義する方向へ改定されました。
現在のアンペアは、電気素量eの数値を固定することによって定義されています。
これに伴い、真空の透磁率μ0は厳密な固定値ではなくなりました。
μ0は、微細構造定数α、プランク定数h、電気素量e、光速cなどとの関係から決まる測定量です。
現行SIでも、μ0は4π×10−7H/mに極めて近い値です。
一般的な電磁気学や電気工学の計算では、従来どおり4π×10−7H/mを用いて差し支えありません。
変更の影響が現れるのは、基礎物理定数を非常に高い精度で扱う場合です。
学校教育や通常の設計計算で答えが大きく変わることはありません。
微細構造定数との関係
微細構造定数αは、電磁相互作用の強さを表す無次元の物理定数です。
真空の透磁率は、微細構造定数などと次のような関係を持ちます。
微細構造定数は、α=μ0ce2/(2h)と表すことができます。
この式を変形すると、μ0=2αh/(ce2)です。
現行SIでは、h、c、eの数値が定義によって固定されています。
一方、αは実験によって決定されるため、μ0もαの測定結果に応じた不確かさを持ちます。
この関係から、真空透磁率の精密値を扱うことは、微細構造定数の精密測定とも結び付きます。
真空透磁率の値が大きく変化したのではなく、単位の定義上、厳密値から測定値へ位置付けが変わったと理解することが大切です。
真空の透磁率は電磁波や磁気回路の計算に使われる
続いては、真空の透磁率が具体的な式でどのように使われるかを確認していきます。
μ0は、電流が作る磁場、コイルのインダクタンス、電磁波の速度など、多くの式に現れます。
直線電流が作る磁束密度
無限に長い直線導線に電流Iが流れている場合、導線を中心とする同心円状の磁場が生じます。
導線から距離rの位置における磁束密度は、アンペールの法則から求められます。
真空中または空気中では、B=μ0I/(2πr)です。
電流Iが10A、距離rが0.1mの場合、B=4π×10−7×10/(2π×0.1)となります。
計算結果は、B=2×10−5Tです。
2×10−5Tは20μTに相当します。
電流を2倍にすると磁束密度も2倍になり、距離を2倍にすると磁束密度は半分になります。
この式では、真空の透磁率が電流と磁束密度を結び付けています。
ソレノイド内部の磁束密度
長いソレノイドコイルでは、内部にほぼ一様な磁場が生じます。
単位長さ当たりの巻数をn、電流をIとすると、真空中または空心の場合の磁束密度は次の式で表されます。
空心ソレノイド内部の磁束密度は、B=μ0nIです。
コイルの総巻数をN、長さをlとすると、n=N/lであるため、B=μ0NI/lとなります。
鉄心を入れた場合は、理想化すればμ0の代わりに物質の透磁率μを使います。
ただし、実際の鉄心には磁気飽和や漏れ磁束があるため、単純な比例式だけでは正確に求められない場合があります。
空心コイルでは磁気飽和が起こらない一方、鉄心コイルより磁束密度が小さくなります。
真空の誘電率と光速との関係
真空中を伝わる電磁波の速度は、真空の透磁率μ0と真空の誘電率ε0によって表されます。
真空中の光速は、c=1/√(μ0ε0)です。
同じ式を変形すると、μ0ε0=1/c2となります。
この関係は、光が電磁波であることを示す重要な結果です。
電場の変化が磁場を生み、磁場の変化が電場を生むことで、電磁波は真空中を伝わります。
真空の特性を表すμ0とε0から得られる速度が、観測される光速と一致します。
また、真空の特性インピーダンスZ0は、μ0とε0を用いて表せます。
真空の特性インピーダンスは、Z0=√(μ0/ε0)=μ0cです。
この値は、真空中を進む電磁波の電場と磁場の大きさの比に関係します。
まとめ
真空の透磁率は、真空中における磁束密度Bと磁場の強さHを結び付ける物理定数です。
記号にはμ0が使われ、真空中ではB=μ0Hという関係が成り立ちます。
実用上の値は、μ0≒4π×10−7H/mです。
小数では約1.256637×10−6H/mとなります。
単位はH/mのほか、N/A2、T・m/A、Wb/(A・m)でも表せます。
以前のSIでは、真空の透磁率は4π×10−7N/A2という厳密な定義値でした。
現行SIでは、アンペアが電気素量を基準に再定義されたため、μ0は測定される物理定数として扱われます。
ただし、4π×10−7との差は極めて小さく、一般的な学習や工学計算では従来の値を使用できます。
真空の透磁率は、直線電流やコイルが作る磁場、インダクタンス、磁気回路などの計算に利用されます。
さらに、c=1/√(μ0ε0)という関係によって、真空の誘電率とともに電磁波の速度を決めます。
真空の透磁率は単なる数値ではなく、電流、磁場、電磁波を結び付ける電磁気学の基準となる定数です。