比透磁率とは、物質の透磁率が真空の透磁率の何倍であるかを表す無次元量です。
相対透磁率とも呼ばれ、記号にはμrが用いられます。
比透磁率が1であれば、その物質の透磁率は真空と同程度です。
1より大きければ外部磁場と同じ方向に磁化されやすく、1より小さければ反対方向に弱く磁化される性質を示します。
空気や多くの非磁性材料では比透磁率が1に非常に近い値です。
鉄やフェライトなどの強磁性体では、比透磁率が数十から数千以上になる場合があります。
ただし、強磁性体の比透磁率は一定ではなく、磁場の強さ、周波数、温度、磁化履歴などによって変化します。
この記事では、比透磁率とは?透磁率との違いも解説!(相対透磁率・無次元量・真空透磁率との比・強磁性体・常磁性体など)というテーマに沿って、定義、計算式、物質ごとの特徴、磁気回路での使い方を詳しく説明します。
比透磁率は物質の透磁率を真空の透磁率で割った無次元量
それではまず、比透磁率の定義と基本的な意味について解説していきます。
比透磁率は、真空を基準として、物質がどれほど磁束を通しやすいかを倍率で表す量です。
真空の透磁率をμ0、物質の透磁率をμとすると、比透磁率μrは両者の比になります。
比透磁率は、μr=μ/μ0と表されます。
式を変形すると、物質の透磁率はμ=μ0μrです。
比透磁率は真空に対する倍率であり、単位を持たない無次元量です。
透磁率μはH/mなどの単位を持つため、両者を混同しないことが重要です。
比透磁率が表す倍率
比透磁率が1の物質では、透磁率μが真空の透磁率μ0と等しくなります。
同じ磁場の強さHを加えたときに生じる磁束密度Bも、真空中とほぼ同じです。
比透磁率が100であれば、線形な範囲では透磁率が真空の100倍であることを意味します。
同じHに対して、真空中より大きなBを得られると考えられます。
ただし、実際の強磁性体ではBとHの関係が非線形です。
比透磁率が1000と記載されていても、あらゆる磁場の強さで常に1000倍になるわけではありません。
初透磁率、最大透磁率、実効透磁率など、どの条件で測定された値かを確認する必要があります。
比透磁率に単位がない理由
比透磁率は、物質の透磁率μを真空の透磁率μ0で割った値です。
μとμ0はどちらもH/mという同じ単位を持ちます。
同じ単位同士を割ると単位が約分されるため、比透磁率は無次元量になります。
比透磁率の単位は、(H/m)÷(H/m)=1です。
したがって、比透磁率は数値だけで表されます。
無次元量であっても、物理的な意味がないわけではありません。
屈折率、比誘電率、摩擦係数などと同様に、基準に対する比を表す重要な量です。
英語ではrelative permeabilityと呼ばれ、資料ではμrのほかにKmなどの記号が使われる場合もあります。
磁化率との関係
線形で等方的な磁性体では、磁化Mは磁場の強さHに比例します。
比例係数が磁化率χmです。
磁化は、M=χmHと表されます。
磁束密度は、B=μ0(H+M)です。
M=χmHを代入すると、B=μ0(1+χm)Hとなります。
一方、B=μ0μrHであるため、比透磁率と磁化率の関係が得られます。
線形磁性体では、μr=1+χmです。
反磁性体ではχmが負であるため、μrは1よりわずかに小さくなります。
常磁性体ではχmが正の小さな値であるため、μrは1よりわずかに大きくなります。
強磁性体では磁化と磁場の関係が非線形で履歴も持つため、単純な一定値として扱えない場合があります。
透磁率は単位を持ち比透磁率は真空に対する倍率を示す
続いては、透磁率と比透磁率の具体的な違いを確認していきます。
名称が似ていますが、基準を含む絶対的な値か、倍率を表す相対的な値かという違いがあります。
透磁率と比透磁率の定義の違い
透磁率μは、磁束密度Bと磁場の強さHの比例関係を示す量です。
透磁率は、μ=B/Hです。
比透磁率は、μr=μ/μ0です。
透磁率は、物質中で実際にBとHを結び付ける係数です。
比透磁率は、その透磁率を真空の値と比較し、何倍かを示します。
たとえばμ=100μ0であれば、比透磁率は100です。
逆に、比透磁率が100とわかっていれば、μ=100μ0として絶対透磁率を求められます。
単位の違い
透磁率μのSI単位はH/mです。
ほかにWb/(A・m)、T・m/A、N/A2と表すこともできます。
比透磁率μrには単位がありません。
この違いは、計算式へ数値を代入するときに重要です。
B=μHへ比透磁率をそのまま代入すると、単位が合わなくなります。
比透磁率しかわからない場合は、μ=μ0μrによって絶対透磁率へ変換してから使用します。
B=μHへ使うのは、単位を持つ絶対透磁率μです。
比透磁率μrを使う場合は、B=μ0μrHと表します。
計算例による違いの確認
比透磁率が500の理想的な磁性材料に、100A/mの磁場を加える場合を考えます。
真空の透磁率を4π×10−7H/mとします。
物質の透磁率は、μ=4π×10−7×500です。
したがって、μ≒6.283×10−4H/mとなります。
磁束密度は、B=μH=6.283×10−4×100です。
計算結果は、B≒6.283×10−2Tです。
磁束密度は約0.0628Tとなります。
この計算では、比透磁率500を直接B=μHへ代入せず、真空の透磁率を掛けて絶対透磁率へ変換しています。
なお、実際の強磁性材料では、比透磁率500が指定された磁場の強さでも維持されるとは限りません。
材料のB-H曲線や実効透磁率を確認する必要があります。
| 比較項目 | 透磁率 | 比透磁率 |
|---|---|---|
| 記号 | μ | μr |
| 定義 | B/H | μ/μ0 |
| 意味 | BとHを結ぶ絶対的な係数 | 真空に対する透磁率の倍率 |
| 単位 | H/m | なし |
| 基本式 | B=μH | B=μ0μrH |
比透磁率は反磁性体や常磁性体では1に近い
続いては、物質の磁気的な分類と比透磁率の関係を確認していきます。
反磁性体、常磁性体、強磁性体では、比透磁率の大きさと外部磁場への応答が異なります。
反磁性体の比透磁率
反磁性体は、外部磁場と反対方向に弱く磁化される物質です。
磁化率χmが負であるため、μr=1+χmの関係から、比透磁率は1よりわずかに小さくなります。
銅、銀、金、水、ビスマス、石英などが代表例です。
反磁性はすべての物質に存在する基本的な磁気応答ですが、常磁性や強磁性がある物質では、それらの作用に隠れることがあります。
通常の反磁性体では1との差が非常に小さく、一般的な磁気回路計算ではμr≒1として扱うことがあります。
ただし、ビスマスや熱分解グラファイトなど、比較的強い反磁性を示す物質もあります。
超伝導状態では内部から磁束を排除するため、理想的には完全反磁性として扱われます。
常磁性体の比透磁率
常磁性体は、外部磁場と同じ方向に弱く磁化される物質です。
磁化率χmが正の小さな値であるため、比透磁率は1よりわずかに大きくなります。
アルミニウム、白金、酸素、マンガン化合物などが代表例です。
常磁性体には不対電子に由来する磁気モーメントがあります。
外部磁場がないときは熱運動によって方向がばらばらですが、磁場を加えると一部が同じ方向へそろいます。
外部磁場を取り除くと磁化はほぼ消えるため、永久磁石のような残留磁化は通常残りません。
多くの常磁性体では、温度上昇によって熱運動が強くなると磁気モーメントがそろいにくくなり、磁化率が低下します。
この関係はキュリーの法則によって説明される場合があります。
空気や非磁性材料の比透磁率
空気の比透磁率は1に非常に近いため、通常は1として扱われます。
樹脂、ガラス、木材、セラミックスなども、多くは比透磁率が1に近い材料です。
これらは工学上、非磁性材料と呼ばれることがあります。
非磁性という言葉は、磁気応答が完全にゼロであることを意味するとは限りません。
反磁性または弱い常磁性を持っていても、強磁性体のように大きく磁化されない材料をまとめて非磁性と呼ぶ場合があります。
磁気回路では空隙の比透磁率を1とし、透磁率をμ0として計算します。
空隙の磁気抵抗は、鉄心部分より大きくなることが一般的です。
わずかな空隙でも磁気回路全体の磁気抵抗やインダクタンスに大きな影響を与えます。
強磁性体の比透磁率は条件によって大きく変化する
続いては、鉄やフェライトなどの強磁性材料における比透磁率の特徴を確認していきます。
強磁性体では、比透磁率を一つの固定値として扱えないことが重要です。
B-H曲線と比透磁率
強磁性体へ磁場の強さHを加えると、磁束密度Bは最初から一定の傾きで増加するわけではありません。
弱い磁場では磁壁の可逆的な移動が生じ、Hの増加に伴ってBが増加します。
さらに磁場を強くすると磁区の成長や磁気モーメントの回転が進み、Bが急激に増加する領域があります。
磁気飽和に近づくと、磁気モーメントの大部分が同じ方向へそろい、Hを増加させてもBはわずかしか増えなくなります。
そのため、B/Hから求める見かけの透磁率やdB/dHから求める微分透磁率は、動作点によって異なります。
初磁化曲線上の原点付近で求める値が初透磁率です。
B/Hが最大になる値は最大透磁率と呼ばれます。
磁気部品の設計では、使用する磁場の範囲に対応した比透磁率を用いる必要があります。
周波数と比透磁率
交流磁場では、周波数によって比透磁率が変化します。
低周波では、磁壁移動や磁気モーメントの回転が磁場変化へ追従しやすく、高い透磁率を示す場合があります。
周波数が高くなると、磁化が外部磁場に遅れて応答するため、透磁率の実部が低下します。
同時に、ヒステリシス損失、渦電流損失、残留損失などが増加する可能性があります。
交流条件では、複素比透磁率を用いて蓄積成分と損失成分を表します。
複素比透磁率は、μr=μ′r−jμ″rと表されます。
μ′rは磁気エネルギーの蓄積、μ″rは磁気損失に関係します。
高周波トランスやインダクターでは、低周波での初比透磁率だけを見ても適切な材料選定はできません。
使用周波数における複素透磁率、損失係数、飽和磁束密度を確認することが必要です。
温度と直流バイアスの影響
強磁性材料の比透磁率は温度によって変化します。
温度上昇によって磁区や磁壁の動きやすさが変わり、一定の範囲では透磁率が増加する場合も減少する場合もあります。
さらに温度が上昇してキュリー温度を超えると、強磁性の秩序が失われ、常磁性状態へ移行します。
その結果、比透磁率は大幅に低下します。
直流バイアス磁場が加わる場合も、動作点が磁気飽和に近づくため、交流成分に対する増分透磁率が低下します。
電源回路のチョークコイルでは、直流電流が増えるにつれてインダクタンスが低下する現象が見られます。
これは、直流磁場によってコアの実効比透磁率が低下するためです。
強磁性体の比透磁率は材料固有の一つの定数ではなく、磁場、周波数、温度、直流バイアス、磁化履歴によって変化する特性値です。
カタログ値を使うときは、測定条件と実際の使用条件が一致しているか確認する必要があります。
比透磁率は磁気回路やコイルの設計に活用される
続いては、比透磁率を使った磁気回路やインダクタンスの計算方法を確認していきます。
比透磁率を用いると、真空や空気を基準にした磁性材料の効果を式へ取り入れられます。
磁気抵抗の計算
磁気回路の磁気抵抗Rmは、磁路長l、断面積S、透磁率μによって決まります。
磁気抵抗は、Rm=l/(μS)です。
μ=μ0μrを代入すると、Rm=l/(μ0μrS)となります。
比透磁率が大きいほど磁気抵抗は小さくなります。
同じ起磁力を加えた場合、磁気抵抗が小さいほど大きな磁束を得られます。
鉄心と空隙を含む磁気回路では、それぞれの部分の磁気抵抗を計算して加算します。
鉄心の比透磁率が非常に大きくても、空隙の比透磁率は約1です。
そのため、短い空隙が磁気回路全体の磁気抵抗の大部分を占めることがあります。
空隙を設けると磁束は減少しますが、磁気飽和を抑え、エネルギーを蓄えやすくなる利点があります。
コイルのインダクタンス計算
理想的な磁気回路を持つコイルでは、インダクタンスLは透磁率に比例します。
インダクタンスは、L=μ0μrN2S/lと表されます。
Nは巻数、Sは磁路断面積、lは磁路長です。
比透磁率の高いコアを使えば、同じ形状と巻数でも大きなインダクタンスを得られます。
同じインダクタンスを得るために必要な巻数を減らせるため、巻線抵抗や銅損を低減できる可能性があります。
一方、実際のコアでは漏れ磁束、空隙、非線形性、周波数特性が存在します。
そのため、メーカーが示す実効透磁率やAL値を用いてインダクタンスを求める場合もあります。
AL値は巻数の二乗当たりのインダクタンスを表す値です。
コア形状や空隙の影響が含まれているため、実際の部品設計では便利でしょう。
材料選定で比透磁率以外に確認する項目
高い比透磁率は、磁束を集中させたり、大きなインダクタンスを得たりするうえで有利です。
しかし、比透磁率が最も高い材料が、すべての用途で最適とは限りません。
大電流を流す用途では、飽和磁束密度や直流重畳特性が重要です。
高周波用途では、コア損失、複素透磁率、電気抵抗率、共鳴周波数を確認します。
温度変化が大きい環境では、透磁率の温度係数やキュリー温度も重要です。
精密回路では、経時変化、機械的応力、振動による透磁率変化を考慮することがあります。
変圧器では磁化特性と鉄損、ノイズフィルターでは周波数ごとのインピーダンス、電磁シールドでは対象周波数での透磁率が重要です。
比透磁率は材料選定の重要な指標ですが、飽和、損失、周波数、温度、加工性などと合わせて総合的に判断します。
| 用途 | 比透磁率に求められる傾向 | 併せて確認する特性 |
|---|---|---|
| 小信号トランス | 初比透磁率が高い | 低損失、周波数特性 |
| 電源用インダクター | 直流バイアス下で安定 | 飽和磁束密度、コア損失 |
| 電磁シールド | 弱磁場で高い | 加工後の特性、飽和 |
| ノイズ抑制部品 | 対象周波数で適切 | 損失成分、インピーダンス |
| 電磁石 | 比較的高い | 飽和、保磁力、機械強度 |
まとめ
比透磁率とは、物質の透磁率μを真空の透磁率μ0で割った無次元量です。
相対透磁率とも呼ばれ、μr=μ/μ0で表されます。
比透磁率は真空を基準とした倍率であり、単位を持ちません。
透磁率μはBとHを直接結び付ける絶対的な係数で、H/mなどの単位を持ちます。
比透磁率を使って磁束密度を求める場合は、B=μ0μrHを用います。
線形磁性体では、比透磁率と磁化率の間にμr=1+χmという関係があります。
反磁性体の比透磁率は1よりわずかに小さく、常磁性体では1よりわずかに大きくなります。
空気や多くの非磁性材料では、比透磁率を約1として扱えます。
強磁性体の比透磁率は大きな値になりますが、磁場、周波数、温度、直流バイアス、磁化履歴によって変化します。
磁気回路では、比透磁率が大きいほど磁気抵抗が小さくなり、同じ起磁力で大きな磁束を得やすくなります。
コイルのインダクタンスも比透磁率に比例するため、高透磁率コアは部品の小型化や巻数削減に役立ちます。
比透磁率を正しく使うには、無次元の倍率であることと、強磁性体では使用条件によって値が変わることを理解しておく必要があります。
比透磁率と絶対透磁率の違いを整理すれば、磁性材料の比較や磁気回路の計算をより正確に行えるでしょう。