神経細胞や心筋細胞が情報を伝えるとき、細胞膜では電気的な変化が起こります。
その中心となる現象が脱分極と再分極です。
用語だけを見ると似ていますが、膜電位の変化する向き、主に動くイオン、細胞が次に反応できる状態へ戻るまでの役割には明確な違いがあります。
活動電位、過分極、不応期までを一つの流れとして捉えると、神経伝達や心電図の理解も進めやすくなるでしょう。
脱分極と再分極の違い

それではまず脱分極と再分極の違いについて解説していきます。
膜電位が変化する向き
脱分極は、細胞の内側と外側の電気的な差である膜電位が、安静時よりも小さくなる現象です。
安静時の神経細胞の膜電位は、一般におよそマイナス七十ミリボルトとされています。
ここでいうマイナスは、細胞外側と比べて細胞内側が電気的に負であることを示しています。
刺激を受けて細胞内が以前より正に近づくと、膜電位はマイナス七十ミリボルトからマイナス五十ミリボルト、さらにゼロ付近へと移動します。
この負の状態が弱まり、内側が正の方向へ近づく変化が脱分極です。
一方の再分極は、脱分極によって正に近づいた膜電位が、再び負の安静時の値へ戻っていく過程を指します。
脱分極が上り坂なら、再分極は元の電気的な状態へ戻る下り坂と考えると理解しやすいでしょう。
| 比較項目 | 脱分極 | 再分極 |
|---|---|---|
| 膜電位の向き | 負から正の方向へ近づく | 正に近づいた状態から負へ戻る |
| 主な役割 | 刺激を電気信号として立ち上げる | 細胞を安静時に近い状態へ戻す |
| 主に関わるイオン | ナトリウムイオンの流入 | カリウムイオンの流出 |
| 活動電位での位置 | 急上昇する局面 | 下降して回復する局面 |
イオン移動の中心的な違い
細胞膜には、特定のイオンを通すイオンチャネルという通り道があります。
神経細胞では刺激が一定の大きさに達すると、電位依存性ナトリウムチャネルが開きやすくなります。
細胞外に多く存在するナトリウムイオンが細胞内へ流れ込み、細胞内の正電荷が増えるため、膜電位は急速に上昇します。
これが脱分極の主要な仕組みです。
続いてナトリウムチャネルは不活性化し、今度は電位依存性カリウムチャネルが開きます。
細胞内に多いカリウムイオンが外へ流出すると、細胞内は再び負の状態へ近づきます。
脱分極ではナトリウムイオンが入り、再分極ではカリウムイオンが出るという対比を押さえることが基本になります。
安静時には細胞内が負の状態です。
刺激でナトリウムイオンが流入すると脱分極が起こります。
その後にカリウムイオンが流出すると再分極へ進みます。
活動電位における意味
活動電位とは、細胞膜の電位が短時間で大きく変化する現象です。
神経細胞では、この変化が軸索に沿って伝わることで情報伝達が行われます。
脱分極は活動電位を発生させる出発点であり、細胞が刺激に応答したことを示す重要な局面です。
再分極は単なる後片付けではありません。
膜電位を回復させ、次の刺激に対応できる状態を整えるという大切な役割を担います。
どちらか一方だけでは、連続的で正確な神経伝達は成り立ちにくいでしょう。
脱分極は電気信号を立ち上げる変化です。
再分極は信号の後に膜電位を回復させる変化です。
両者は対立する現象ではなく、一回の活動電位を構成する連続した過程として理解することが重要です。
活動電位の発生過程
続いては活動電位の発生過程を確認していきます。
安静膜電位の維持機構
活動電位を理解するには、まず刺激がないときの安静膜電位を知る必要があります。
神経細胞の細胞膜は、ナトリウムイオンよりもカリウムイオンを通しやすい性質を持っています。
細胞内にはカリウムイオンが比較的多く、細胞外にはナトリウムイオンが比較的多い状態です。
カリウムイオンがわずかに細胞外へ出やすいことや、細胞内に通りにくい陰性のタンパク質があることなどにより、細胞内は負に保たれます。
さらにナトリウムポンプと呼ばれる仕組みが、ナトリウムイオンを外へ、カリウムイオンを内へ運びます。
この働きは活動電位の瞬間的な上昇を直接つくる主役ではありませんが、イオン濃度の差を長期的に維持する役割を果たします。
閾値と急速な脱分極
弱い刺激が加わっても、膜電位の変化が小さければ活動電位は起こりません。
しかし膜電位が閾値と呼ばれる水準まで達すると、多数のナトリウムチャネルが開き始めます。
ナトリウムイオンの流入は膜電位をさらに正へ動かし、その変化が追加のナトリウムチャネルを開かせます。
この連鎖によって、活動電位の立ち上がりは急激になります。
活動電位には全か無かの法則があります。
閾値に届かなければ大きな活動電位は生じず、閾値を超えれば基本的に一定の大きさの活動電位が発生するという考え方です。
刺激が弱い場合は、膜電位が少し変化しても安静時へ戻ります。
刺激が閾値に達した場合は、ナトリウムチャネルの開口が連鎖します。
この急激な変化が活動電位の脱分極相です。
ピークから再分極への移行
脱分極が進むと、膜電位はゼロを越えて一時的に正の値へ達します。
ただし、この状態が長く続くわけではありません。
ナトリウムチャネルは開いた後に不活性化し、ナトリウムイオンの流入が減少します。
同時にカリウムチャネルの開口が進み、カリウムイオンの流出が目立つようになります。
細胞内から正電荷が出ることで膜電位は下降し、再分極が始まります。
活動電位の波形を読む際は、上昇局面だけでなく、どの時点でナトリウム流入が弱まりカリウム流出が優位になるかを見ると整理しやすくなります。
過分極と不応期の仕組み
続いては過分極と不応期の仕組みを確認していきます。
過分極が起こる理由
再分極が進んだ後、膜電位が安静時よりも一時的に負になることがあります。
この状態が過分極です。
過分極は、カリウムチャネルがすぐには閉じず、カリウムイオンの流出がしばらく続くことで起こります。
安静時がマイナス七十ミリボルト付近なら、過分極ではそれより低いマイナス八十ミリボルト付近まで変化する場合があります。
過分極は異常ではなく、活動電位の後半に見られる生理的な変化として理解することが大切です。
その後はチャネルの状態が整い、イオンの分布も調整され、膜電位は安静時へ戻っていきます。
絶対不応期の特徴
活動電位が始まってから一定時間は、どれほど強い刺激を加えても新しい活動電位を起こせない期間があります。
これを絶対不応期と呼びます。
主な理由は、電位依存性ナトリウムチャネルが不活性化状態にあり、すぐには再び開けないためです。
絶対不応期は、神経の興奮が逆向きに戻ることを防ぐことにも関係します。
そのため、活動電位は通常、刺激が加わった側から軸索の先端方向へ一方向に伝わりやすくなります。
神経情報の順序を保つうえで欠かせない安全装置のような働きといえるでしょう。
相対不応期と刺激の強さ
絶対不応期の後には、通常より強い刺激なら活動電位を起こせる期間があります。
これが相対不応期です。
この時期には一部のナトリウムチャネルが反応できる状態へ戻っていますが、カリウムイオンの流出が続いていたり、過分極が残っていたりします。
そのため膜電位を閾値まで上げるには、普段より大きな刺激が必要になります。
不応期は神経細胞が連続して発火できる回数にも影響します。
活動電位の頻度には上限があり、不応期がその上限を決める一因です。
絶対不応期では、新たな活動電位は起こせません。
相対不応期では、通常より強い刺激があれば活動電位が起こる可能性があります。
過分極は相対不応期と重なることが多く、興奮しにくさに関わります。
ナトリウムイオンとカリウムイオンの動き
続いてはナトリウムイオンとカリウムイオンの動きを確認していきます。
濃度差と電気的勾配
イオンの移動には、濃度の偏りと電気的な引力の両方が関わります。
ナトリウムイオンは細胞外に多く、細胞内は安静時に負であるため、ナトリウムイオンは細胞内へ入りやすい条件にあります。
ナトリウムチャネルが開くと、濃度差と電気的勾配の両方によってナトリウムイオンが内側へ流れ込みます。
カリウムイオンは細胞内に多いため、濃度差だけを見れば細胞外へ出ようとします。
一方で細胞内が負になると、正のカリウムイオンを内側へ引き戻す力も働きます。
こうした複数の力の釣り合いが、各イオンの平衡電位や膜電位に影響します。
イオンチャネルの開閉状態
イオンチャネルは常に同じように開いているわけではありません。
電圧の変化、化学物質の結合、物理的な刺激などに反応して開閉する種類があります。
活動電位で重要なのは、膜電位の変化に応じて開閉する電位依存性チャネルです。
ナトリウムチャネルは比較的速く開いて不活性化し、カリウムチャネルはやや遅れて開く性質を持ちます。
この時間差があるからこそ、脱分極の上昇と再分極の下降が順序よく進みます。
イオンそのものだけでなく、チャネルがいつ開き、いつ閉じるかが波形を決める重要な要素です。
| 段階 | ナトリウムチャネル | カリウムチャネル | 主なイオン移動 |
|---|---|---|---|
| 安静時 | 多くは閉鎖状態 | 電位依存性のものは多くが閉鎖状態 | 漏出経路による緩やかな移動 |
| 脱分極 | 急速に開口 | 開口は遅れて進行 | ナトリウムイオンが細胞内へ流入 |
| 再分極 | 不活性化状態 | 開口が増加 | カリウムイオンが細胞外へ流出 |
| 過分極 | 回復過程 | 一部が開いた状態で残る | カリウムイオンの流出が続く |
ナトリウムポンプの役割
ナトリウムポンプは、正確にはナトリウムカリウムポンプと呼ばれる輸送体です。
エネルギーを使ってナトリウムイオンを細胞外へ運び、カリウムイオンを細胞内へ取り込みます。
一般には、ナトリウムイオン三個を外へ出し、カリウムイオン二個を内へ入れる形で働きます。
活動電位の数ミリ秒ほどの急速な変化では、主にイオンチャネルを通る移動が中心です。
しかし活動電位が何度も繰り返されると、イオン濃度の偏りを維持するナトリウムポンプの働きが重要になります。
チャネルとポンプは役割が異なるため、同じものとして扱わないよう注意しましょう。
イオンチャネルは、イオンを比較的速く受動的に移動させる通り道です。
ナトリウムポンプは、エネルギーを使ってイオン濃度の偏りを維持します。
活動電位では両方が必要ですが、働く時間のスケールと役割は異なります。
神経細胞と心筋細胞の特徴
続いては神経細胞と心筋細胞の特徴を確認していきます。
神経細胞における情報伝達
神経細胞では、樹状突起や細胞体で受け取った刺激が軸索起始部に集まります。
そこで閾値を超えると活動電位が生じ、軸索に沿って伝わります。
活動電位は伝わる途中で弱くなる信号ではなく、隣接する膜を次々に脱分極させる形で進行します。
有髄神経では髄鞘によって覆われた部分があり、ランビエ絞輪と呼ばれる場所を飛び飛びに興奮が進みます。
この仕組みは跳躍伝導と呼ばれ、情報を速く伝えることに役立ちます。
再分極と不応期があるため、興奮した部分は直後に逆向きの信号を起こしにくく、伝達方向が保たれます。
心筋細胞における活動電位
心筋細胞でも脱分極と再分極は重要ですが、神経細胞とは波形や関与するイオンが一部異なります。
特に心室筋細胞の活動電位では、ナトリウムイオンの流入による急な脱分極の後に、カルシウムイオンの流入が関わる持続的な局面が見られます。
この局面はプラトー相と呼ばれ、心筋が十分な時間だけ収縮することに関係します。
その後はカリウムイオンの流出が優位となり、再分極が進みます。
心筋の再分極は心臓が次の拍動に備えるための回復過程でもあります。
心電図では、心室の脱分極と再分極が波形として表れます。
心電図との関連
心電図は、心臓の各部で起こる電気活動を体表面から記録する検査です。
一般的な心電図では、P波は心房の脱分極、QRS波は心室の脱分極、T波は心室の再分極と関連づけて理解されます。
ただし、心電図の一つの波形は多数の心筋細胞の電気変化を総合して記録したものです。
単一細胞の活動電位の波形と完全に同じものではない点に注意が必要です。
脱分極と再分極の順序や時間が乱れると、不整脈などの評価につながる所見が現れる場合もあります。
症状や心電図の異常が気になるときは、自己判断に頼らず医療機関へ相談することが大切です。
神経細胞では、活動電位が情報を遠くへ伝える役割を担います。
心筋細胞では、活動電位が規則的な収縮と弛緩を支える役割を持ちます。
どちらも脱分極と再分極を繰り返しますが、細胞の種類によって波形と機能は異なります。
理解を深めるための注意点
続いては理解を深めるための注意点を確認していきます。
脱分極と興奮の関係
脱分極はしばしば細胞の興奮と表現されますが、すべての脱分極が必ず活動電位になるわけではありません。
小さな脱分極は局所電位として起こり、刺激が弱ければそのまま消えていきます。
一方で十分な脱分極が閾値に達すると、活動電位として急速な変化が生じます。
この違いを知ると、興奮という言葉をより正確に使えるようになります。
脱分極は膜電位の変化そのもの、活動電位は閾値を超えた大きな電気的応答と整理すると分かりやすいでしょう。
再分極と安静状態の違い
再分極は、膜電位が安静時へ向かって戻る途中の過程です。
安静状態は、膜電位が比較的安定し、次の刺激を受ける前の状態を指します。
再分極が終われば即座に完全な安静状態になるとは限りません。
カリウムチャネルの開口が残れば過分極が起こり、相対不応期へ入る場合があります。
そのため、再分極、過分極、安静膜電位を別々の概念として捉えることが重要です。
用語を混同しないことが、活動電位の図を正しく読む近道になります。
学習時の整理方法
脱分極と再分極を覚えるときは、膜電位のグラフとイオンの矢印を同時に見る方法がおすすめです。
上向きの波形ではナトリウムイオンの流入、下向きの波形ではカリウムイオンの流出を対応させます。
さらに、その直後に過分極と不応期を加えると、活動電位全体の流れがつながります。
丸暗記よりも、どのイオンがどちらへ動き、その結果として細胞内の電気がどう変わるかを順に説明できる状態を目指しましょう。
イオンの移動、膜電位の変化、チャネルの状態を一組として考えると、複雑に見える内容も整理しやすくなります。
まとめ
脱分極は、主にナトリウムイオンが細胞内へ流入し、細胞内が負の状態から正の方向へ近づく変化です。
再分極は、主にカリウムイオンが細胞外へ流出し、膜電位が安静時の負の状態へ戻っていく過程を指します。
活動電位は、安静膜電位、閾値、脱分極、再分極、過分極、不応期という流れで理解すると整理しやすいでしょう。
絶対不応期と相対不応期は、神経の興奮が一方向へ伝わることや、発火頻度に上限があることに関係します。
神経細胞では情報伝達に、心筋細胞では規則的な拍動に、こうした電気的変化が活用されています。
脱分極は信号の開始、再分極は回復への移行という基本を軸に、イオンの動きとチャネルの開閉を結び付けて理解していきましょう。