モーターやコイルを使う機器を学ぶと、逆起電力という言葉に出会います。
電流を流して回転させているはずなのに、なぜ電源の働きを妨げるような電圧が現れるのでしょうか。
この現象を理解すると、モーターの回転数、始動時の大電流、発電機の原理、電磁誘導のつながりまで整理しやすくなります。
逆起電力は電気回路だけの専門用語ではなく、扇風機、電動工具、電気自動車、産業用ロボットなどの性能にも関わる重要な考え方です。
逆起電力の意味と基本的な結論

それではまず逆起電力の意味と基本的な結論について解説していきます。
電流の変化や回転に逆らう電圧
逆起電力とは、コイルに流れる電流の変化、または磁界の中での導体の運動によって生じ、もともとの電流や電源電圧に逆向きに働く電圧を指します。
特に直流モーターでは、回転子が磁界の中を回ることで電圧が発生し、その極性が電源から与えた電圧を打ち消す方向になります。
このためモーターの回転中には、電源電圧のすべてが巻線抵抗にかかるわけではありません。
回転が速くなるほど逆起電力が大きくなり、流れる電流は抑えられます。
逆起電力は故障や損失だけを意味する言葉ではありません。
モーターが回転数に応じて電流を自然に調整するための、重要な電磁気的作用です。
起電力と電圧の言葉の整理
起電力は、電荷を動かそうとする電気的な働きの大きさです。
単位は電圧と同じVを使うため、日常的には電圧として説明されることも少なくありません。
ただし起電力は、抵抗や負荷に現れた電圧そのものではなく、電流を発生させる原因となる力に注目した言葉です。
逆起電力の場合は、電源が供給する起電力に対して反対側から現れるため、この名称が使われます。
逆起電力の大きさは、回転速度や磁束の強さに応じて変わる点が実用上の要点です。
モーターにおける電流との関係
直流モーターの電機子回路では、電源電圧から逆起電力を差し引いた残りが、主に巻線抵抗による電圧降下になります。
電機子電流の考え方は、電源電圧から逆起電力を引き、巻線抵抗で割る形です。
電機子電流 = 電源電圧 − 逆起電力 ÷ 電機子抵抗
停止しているモーターでは回転がないため、逆起電力はほぼ発生しません。
巻線抵抗は一般に小さいため、始動直後には大きな電流が流れやすくなります。
回転が立ち上がると逆起電力が増え、電流が次第に小さくなる流れです。
電磁誘導による発生の仕組み
続いては電磁誘導による発生の仕組みを確認していきます。
磁束の変化とファラデーの法則
逆起電力を理解する土台は、電磁誘導です。
コイルを通る磁束が変化すると、コイルには起電力が生じます。
磁束は磁界の強さと、その磁界を通過する面積や向きによって決まる量です。
コイルが磁石に近づく場合、遠ざかる場合、磁界中で回転する場合にも磁束は変化します。
この変化が速いほど、発生する誘導起電力は大きくなります。
誘導起電力は、磁束の変化が速いほど大きくなります。
コイルの巻数を増やすことも、発生する起電力を大きくする方法の一つです。
モーターでは、回転子のコイルが磁極に対して位置を変え続けるため、磁束の変化が連続的に起こります。
レンツの法則と逆向きの意味
誘導起電力の向きは、磁束の変化を妨げる向きになるというレンツの法則で決まります。
たとえばコイルに流れる電流が増えようとすると、その増加を抑える方向の起電力が発生します。
反対に電流が減ろうとすると、減少を妨げる方向に起電力が現れます。
この性質があるため、コイルを含む回路では電流が瞬時に大きく変化しにくくなります。
逆起電力の逆とは、電圧の極性が電流変化や電源の作用に逆らうという意味です。
電気が逆流することだけを表す言葉ではないため、極性と回路の状態を分けて考える必要があります。
回転運動から電圧が生まれる過程
モーターの回転子導体が磁界を横切ると、導体内の電荷には力が加わります。
その結果として電荷が分かれ、導体の両端には電位差が生じます。
これは発電機が電気を生み出す原理と同じです。
モーターは電気エネルギーを回転エネルギーへ変換する装置ですが、回転している最中には小さな発電機としても働いています。
その発電作用が電源と反対向きの電圧となるため、モーター内部では逆起電力として観測されます。
誘導起電力との違いと関係
続いては誘導起電力との違いと関係を確認していきます。
誘導起電力に含まれる逆起電力
誘導起電力は、磁束の変化によって発生する起電力全般を指す広い言葉です。
逆起電力はそのうち、回路の電流変化や電源の働きに反対する向きで現れるものとして説明されます。
したがって両者は完全に別の現象ではありません。
逆起電力は電磁誘導によって生まれる誘導起電力の一種と考えると、関係を理解しやすくなります。
| 比較項目 | 逆起電力 | 誘導起電力 |
|---|---|---|
| 主な意味 | 電源や電流変化を妨げる向きの起電力 | 磁束変化によって発生する起電力全般 |
| 代表的な場面 | モーターの回転中、コイルの電流遮断時 | 発電機、変圧器、コイルと磁石の相対運動 |
| 向きの考え方 | 電源電圧や電流変化に反対する向き | レンツの法則で決まる向き |
| 重要な要素 | 回転速度、巻線抵抗、負荷トルク | 磁束、巻数、変化の速さ |
自己誘導による逆起電力
逆起電力は、回転するモーターだけで起こるものではありません。
コイルに流れる電流を急に切ろうとしたときも、自己誘導によって逆起電力が発生します。
電流が減少すると磁界も弱くなりますが、コイルはその変化を妨げる向きに電圧を発生させます。
リレー、ソレノイド、電磁弁などでスイッチを切った瞬間に火花が出る現象は、この自己誘導による高い電圧が関係しています。
小型のコイルであっても、遮断の速さや回路条件によっては大きなサージ電圧になることがあります。
発電機の起電力との見分け方
発電機も導体を磁界中で動かして起電力を得ますが、通常は外部へ電力を供給する目的で使われます。
モーターでは、回転によって発生した起電力が電源電圧を打ち消す側に働くため、逆起電力と呼ばれます。
同じ電磁誘導でも、装置に電力を入れるのか、装置から電力を取り出すのかで見え方が変わります。
実際にはモーターと発電機の境界は明確ではありません。
外力でモーター軸を回せば発電機のように電圧を出し、回生ブレーキではその電力を電池や回路へ戻すことも可能です。
モーター回転数と負荷の関係
続いてはモーター回転数と負荷の関係を確認していきます。
無負荷時に回転数が高くなる理由
モーターの軸に軽い負荷しかかかっていない場合、回転子は比較的速く回ります。
回転速度が上がると逆起電力も増えるため、電源電圧との差が小さくなります。
その結果、巻線に流れる電流は必要最小限に近づきます。
無負荷状態でも摩擦、風損、鉄損などを補う電流は必要ですが、重いものを動かす場合より電流は小さくなる傾向です。
回転数が高いほど逆起電力が高く、電流が抑えられることが無負荷時の特徴です。
負荷増加時の電流とトルク
モーターに重い負荷がかかると、回転数はいったん低下します。
回転数が下がれば逆起電力も小さくなるため、電源電圧との差が広がります。
すると巻線電流が増え、モーターはより大きな電磁力とトルクを発生させます。
この働きにより、モーターは負荷の増減にある程度は自動的に対応できます。
負荷が増えると回転数が下がり、逆起電力が減少します。
その結果として電流とトルクが増える仕組みが、モーターの基本的な自己調整作用です。
ただし負荷が大きすぎると回転を維持できず、停止状態に近づいて過大電流が続くおそれがあります。
始動電流が大きくなる理由
停止しているモーターでは、回転速度がゼロです。
したがって回転に伴う逆起電力もほぼゼロになり、電源電圧が巻線抵抗に強くかかります。
巻線抵抗が低いモーターでは、定常運転時より何倍も大きい始動電流が流れる場合があります。
このため大出力モーターでは、始動回路、インバーター制御、ソフトスターターなどを用いて電流を抑える設計が行われます。
停止中は逆起電力が小さいため、始動電流は大きくなります。
始動後に回転が上がると逆起電力が増え、電流は通常の運転値へ近づきます。
回路設計と保護部品の役割
続いては回路設計と保護部品の役割を確認していきます。
スイッチ遮断時のサージ電圧
コイルへ流す電流を急に遮断すると、磁界に蓄えられていたエネルギーが電圧として現れます。
このときの逆起電力は、電源電圧を大きく超えることがあります。
トランジスタ、MOSFET、リレー接点などは高いサージ電圧に弱く、繰り返し受けると劣化や破損につながります。
逆起電力対策は、部品を守るための回路設計として欠かせません。
フライバックダイオードの働き
直流コイルの保護では、フライバックダイオードと呼ばれるダイオードをコイルと並列に接続する方法がよく使われます。
通常の通電時にはダイオードへ電流が流れない向きにしておき、遮断時だけコイル電流の通り道を作ります。
これにより逆起電力の電圧上昇を抑え、蓄えられたエネルギーをゆるやかに消費できます。
ただしダイオードだけの対策では、コイルの消磁時間が長くなる場合があります。
高速な応答が求められる電磁弁やリレーでは、ツェナーダイオード、バリスタ、スナバ回路などを使い分けます。
| 保護方法 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| フライバックダイオード | 直流リレー、ソレノイド | 構成が簡単で部品への負担を抑えやすい |
| ツェナーダイオード | 高速遮断が必要な直流コイル | 電圧を一定範囲に制限しつつ消磁を速めやすい |
| バリスタ | 電源ライン、交流負荷 | 大きな過渡電圧の吸収に利用される |
| スナバ回路 | 交流リレー、スイッチ接点 | ノイズや接点火花の低減に役立つ |
ノイズ対策と測定時の注意点
逆起電力による急激な電圧変化は、電磁ノイズの原因にもなります。
センサー信号、通信回路、マイコンのリセット回路などが近くにあると、誤動作につながる可能性があります。
対策としては保護部品の追加に加え、配線を短くすること、電源と信号の経路を分けること、適切な接地を行うことが大切です。
オシロスコープで測定する際は、プローブの接地線が長いとノイズを拾いやすくなります。
測定器の定格電圧や入力範囲も確認し、予想以上のサージから機器を保護しましょう。
逆起電力の要点整理
逆起電力については、電流や回転の変化に対して反対向きに現れる起電力として捉えることが基本です。
モーターでは回転により逆起電力が生まれ、回転数が高いほど電流を抑える方向に働きます。
負荷が増えると回転数と逆起電力が下がり、その分だけ電流とトルクが増加します。
この関係を知ると、始動電流が大きい理由や、過負荷でモーターが熱を持ちやすい理由も理解しやすくなるでしょう。
逆起電力はモーターの回転制御、始動電流、コイルのサージ対策を結び付ける重要な現象です。
誘導起電力との関係、レンツの法則、保護回路まで一緒に押さえることで、回路や機器の動作をより正確に判断できます。
また、コイルの電流を切る場面では自己誘導による高電圧にも注意が必要です。
フライバックダイオードなどの保護部品を適切に選び、電圧、電流、応答速度のバランスを確認することが安全な設計につながります。