直流溶接機と交流溶接機の違いについて、どちらを選べばよいか迷ったことはないでしょうか。
アーク溶接における直流と交流の使い分けは溶接品質・作業性・コストに大きく影響します。
この記事では、直流溶接機の特徴と交流溶接機との違いを中心に、アーク安定性・母材への熱入れ・スラグやスパッタの少なさなどの観点から詳しく解説します。
溶接作業に携わる方や資格試験を勉強している方にとって役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
直流溶接機はアークが安定していてスパッタが少ないのが最大の特徴である
それではまず、直流溶接機の最大の特徴であるアーク安定性について解説していきます。
直流溶接機の最大のメリットはアーク(放電)が非常に安定していることです。
直流は電流の向きが一定であるため、アークの状態が安定して維持され、スパッタ(溶融金属の飛散)が少なく美しいビード(溶接跡)が得られます。
特に薄板の溶接・精密な溶接・立向きや上向き溶接など難しい姿勢での溶接に直流溶接機が適しています。
直流溶接機の極性と溶接特性
直流溶接機には正極性(DCSP)と逆極性(DCRP)の2種類の接続方法があります。
正極性(DCSP:Direct Current Straight Polarity)は母材をプラス(+)、溶接棒をマイナス(-)に接続する方法です。
逆極性(DCRP:Direct Current Reverse Polarity)は母材をマイナス(-)、溶接棒をプラス(+)に接続する方法です。
【直流溶接の極性と特性】
正極性(DCSP):母材(+)→電子が母材に衝突→母材の熱入れ大・溶け込み深い
→ 厚板溶接・深溶け込みが必要な場合に有利
逆極性(DCRP):溶接棒(+)→溶接棒の消耗が大きい・母材の熱入れ小
→ 薄板溶接・熱に弱い母材に有利
極性を選択できることが直流溶接機の大きな特長であり、溶接対象や目的に合わせて最適な極性を選べます。
スパッタとスラグが少ない理由
直流溶接ではアークが安定しているため、溶融プール(溶けた金属)の動きが穏やかになります。
その結果、溶融金属が飛び散るスパッタの発生が抑えられ、後処理の手間が大幅に削減できます。
また被覆アーク溶接棒に含まれるフラックスから生成されるスラグも均一に生成されやすく、直流溶接は仕上がりの美しさと後処理のしやすさで高い評価を受けています。
交流溶接機との比較
続いては、交流溶接機の特徴と直流溶接機との詳細な比較について確認していきます。
交流溶接機は長年にわたって溶接現場で使われており、コストの低さと堅牢さが大きな強みです。
交流溶接機の特徴
交流溶接機はトランス(変圧器)を使って高電圧の商用交流を溶接に適した低電圧・大電流に変換します。
構造がシンプルで故障が少なく、製品価格が安いというメリットがあります。
ただし、交流は1秒間に100回(50Hz×2)電流がゼロになる瞬間(ゼロクロス)があるため、アークが瞬間的に消えやすくアーク安定性が直流より劣るという特性があります。
直流溶接機と交流溶接機の比較表
| 比較項目 | 直流溶接機 | 交流溶接機 |
|---|---|---|
| アーク安定性 | ○(非常に安定) | △(ゼロクロスで不安定) |
| スパッタ | 少ない | やや多い |
| 薄板溶接 | ○(逆極性で対応) | △ |
| 立向き・上向き溶接 | ○ | △ |
| アルミ溶接(TIG) | △(直流では酸化膜除去困難) | ○(クリーニング作用) |
| 製品コスト | やや高い | 安い |
| アーク磁気吹き | 発生しやすい | 発生しにくい |
アーク磁気吹きとは
直流溶接特有の問題として「アーク磁気吹き(arc blow)」があります。
直流電流によって形成される磁界がアークを一方向に引き寄せ、アークが曲がって安定しなくなる現象です。
アーク磁気吹きは厚板・鋼板端部・狭いすき間での溶接時に発生しやすいという特性があります。
対策としては溶接棒の角度調整・バックストリップの使用・溶接速度の変更などが有効です。
直流溶接機の種類と選び方
続いては、直流溶接機の主な種類と選び方のポイントについて確認していきます。
エンジン駆動溶接機
ガソリン・ディーゼルエンジンで発電機を動かし直流溶接電流を生成するタイプです。
電源のない現場(建設現場・屋外作業・農村部)での溶接に欠かせない機器であり、可搬性と電源独立性がエンジン駆動溶接機の最大の強みです。
インバーター溶接機
現代の直流溶接機の主流はインバーター方式です。
商用交流をインバーターで高周波変換することで小型・軽量ながら安定した直流溶接電流を実現します。
インバーター溶接機はアーク安定性・省エネ性・コンパクトさのすべてに優れており、プロ用から家庭用まで幅広く使われています。
用途に応じた溶接機の選択
薄板鉄板・ステンレス・精密溶接には直流インバーター溶接機が最適です。
アルミ溶接(TIG溶接)には交流TIG溶接機が適しており、直流では除去が難しい酸化膜を交流のクリーニング作用で除去できます。
鉄骨・厚板の被覆アーク溶接には直流・交流どちらも使えますが、仕上がり重視なら直流が有利です。
直流溶接機まとめポイント
① 直流溶接機はアークが安定してスパッタ・スラグが少ない
② 正極性(DCSP)は深溶け込み、逆極性(DCRP)は薄板・熱に弱い母材向き
③ 交流溶接機はコスト低・アルミ溶接(TIG)に有利
④ 直流特有のアーク磁気吹きに注意が必要
⑤ 現代の主流はインバーター方式の直流溶接機
まとめ
この記事では、直流溶接機とは?交流溶接機との違いも!(アーク安定性:母材の熱入れ:スラグ・スパッタの少なさなど)というテーマで解説しました。
直流溶接機の最大の特徴はアークが安定していてスパッタ・スラグが少なく仕上がりが美しい点にあります。
正極性と逆極性を使い分けることで母材への熱入れを調整でき、薄板から厚板まで幅広い溶接に対応できます。
交流溶接機はコストが低くアルミTIG溶接に適していますが、アーク安定性では直流に劣ります。
現代では小型・高性能なインバーター直流溶接機が主流となっており、プロから入門者まで幅広く選ばれています。
溶接対象・作業環境・求める仕上がりに応じて最適な溶接機を選ぶことが、高品質な溶接作業への第一歩となります。