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エンタルピーとエントロピーの違い・関係式をわかりやすく・簡単に解説!

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エンタルピーとエントロピーは、どちらも熱力学で非常に重要な概念ですが、名前が似ているため混同してしまう方も多いのではないでしょうか。どちらも「エン」で始まり、「H」と「S」という記号で表され、化学反応を理解する上で欠かせない物理量です。

しかし、この2つは全く異なる意味を持っています。エンタルピーは「熱量(エネルギー)」に関する量であり、エントロピーは「乱雑さ(無秩序さ)」に関する量です。そして、この2つを組み合わせたギブズエネルギーという量が、化学反応が自発的に進むかどうかを判断する重要な指標となります。

本記事では、エンタルピーとエントロピーの違いを明確にし、それぞれの意味、関係式、ギブズエネルギーとの関連について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。熱力学の理解を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。

エンタルピーとエントロピーの基本

それではまず、エンタルピーとエントロピーの基本について解説していきます。

エンタルピーとは何か

エンタルピー(enthalpy)は、物質が持つエネルギーの一種で、記号Hで表されます。

エンタルピーの基本

・記号:H
・単位:ジュール(J)または キロジュール(kJ)
・意味:熱含量、熱エネルギー
・定義式:H = U + PV
・変化:ΔH(デルタH)

エンタルピーは「系が持つ熱的なエネルギー」と考えることができます。化学反応では、エンタルピーの変化(ΔH)に注目します。ΔHが負なら発熱反応、正なら吸熱反応を意味します。

エントロピーとは何か

エントロピー(entropy)は、物質の「乱雑さ」や「無秩序さ」を表す量で、記号Sで表されます。

エントロピーの基本

・記号:S
・単位:J/K(ジュール毎ケルビン)または J/(K·mol)
・意味:乱雑さ、無秩序さ、状態の数
・イメージ:散らかり具合
・変化:ΔS(デルタS)

エントロピーは「どれだけ散らかっているか」「どれだけ自由度があるか」を表す量です。気体は液体や固体よりもエントロピーが大きく、温度が高いほどエントロピーは大きくなります。自然界は、エントロピーが増大する方向に変化する傾向があります。

両者の根本的な違い

エンタルピーとエントロピーの違いを整理しましょう。

項目 エンタルピー(H) エントロピー(S)
意味 熱エネルギー 乱雑さ、無秩序さ
単位 J または kJ J/K または J/(K·mol)
何を表すか エネルギーの出入り 状態の乱れ具合
増加する条件 熱を吸収 より乱雑になる
自然の傾向 低くなる方向(安定) 高くなる方向(拡散)
覚え方

エンタルピー(H):Heat(熱)のH
エントロピー(S):Spreads(広がる)のS

エンタルピーは熱量、エントロピーは散らばり度合いと覚えましょう。

エンタルピーの詳細

続いては、エンタルピーの詳細を確認していきます。

エンタルピーが表すもの

エンタルピーは、物質が持つエネルギーの総量を表します。

エンタルピーの定義式

H = U + PV

H:エンタルピー
U:内部エネルギー(分子の運動エネルギーなど)
P:圧力
V:体積

定圧条件(大気圧下など)では、エンタルピー変化は系が吸収または放出する熱量に等しくなります。

エンタルピー変化の意味

化学では、エンタルピーの変化量(ΔH)が重要です。

エンタルピー変化

ΔH = H(生成物) – H(反応物)

ΔH 0(正):吸熱反応
・熱を吸収
・エネルギー的に不安定な方向

例:

水の生成反応:
H₂(g) + 1/2 O₂(g) → H₂O(l) ΔH = -286 kJ/mol

この反応では286 kJの熱が放出されます(発熱反応)。生成物(水)の方が反応物(水素と酸素)よりエンタルピーが低く、エネルギー的に安定です。

エンタルピーの単位と計算

エンタルピーの単位と計算方法を確認しましょう。

エンタルピーの単位

絶対値:J、kJ
モルエンタルピー:J/mol、kJ/mol

化学反応では通常 kJ/mol を使用

計算方法については前回の記事で詳しく解説しましたが、主な方法は以下の3つです。

エンタルピー変化の計算方法

1. ヘスの法則
既知の反応式を組み合わせる

2. 生成エンタルピー
ΔH = Σ(生成物の生成熱) – Σ(反応物の生成熱)

3. 結合エネルギー
ΔH = (切断する結合) – (生成する結合)

エントロピーの詳細

続いては、エントロピーの詳細を確認していきます。

エントロピーが表すもの

エントロピーは、物質の「乱雑さ」「散らかり具合」を数値化したものです。

エントロピーのイメージ

部屋の例:
・整理整頓された部屋:エントロピー小
・散らかった部屋:エントロピー大

物質の状態:
・固体:分子が規則正しく並ぶ → エントロピー小
・液体:分子が自由に動く → エントロピー中
・気体:分子が自由に飛び回る → エントロピー大

固体

エントロピー変化の意味

化学反応でのエントロピー変化(ΔS)について確認しましょう。

エントロピー変化

ΔS = S(生成物) – S(反応物)

ΔS > 0(正):エントロピー増大
・より乱雑になる
・自然に進みやすい

ΔS

例:

水の蒸発:
H₂O(l) → H₂O(g) ΔS > 0

液体の水が気体の水蒸気になると、分子の自由度が大幅に増加するため、エントロピーは大きく増大します。

エントロピーの単位と計算

エントロピーの単位は、エンタルピーと異なります。

エントロピーの単位

絶対値:J/K
モルエントロピー:J/(K·mol)

Kはケルビン(絶対温度)

エントロピー変化の計算:

エントロピー変化の計算

標準エントロピーから計算:
ΔS° = Σ(生成物のエントロピー) – Σ(反応物のエントロピー)

可逆過程での計算:
ΔS = Q/T(Qは熱量、Tは温度)

エントロピーの単位に温度(K)が含まれることに注目してください。エントロピーは温度に依存する量です。

エンタルピーとエントロピーの関係式

続いては、エンタルピーとエントロピーの関係式を確認していきます。

ギブズエネルギーの式

エンタルピーとエントロピーを結びつける重要な式が、ギブズエネルギー(Gibbs energy)の式です。

ギブズエネルギーの定義式

G = H – TS

G:ギブズエネルギー(自由エネルギー)
H:エンタルピー
T:絶対温度(K)
S:エントロピー

ギブズエネルギー変化

ΔG = ΔH – TΔS

この式が、エンタルピーとエントロピーの関係式です。

ΔG 0:反応は自発的に進まない

ギブズエネルギーは、「反応が自発的に進むかどうか」を判断する指標です。エンタルピー(熱)とエントロピー(乱雑さ)の両方を考慮した量で、どちらか一方だけでは反応の自発性を正確に判断できません。

反応の自発性と関係式

ΔG = ΔH – TΔS の式から、反応の自発性を判断できます。

反応の自発性の判断

【ΔH 0の場合】
ΔG = (負) – T(正) = 必ず負
→ すべての温度で自発的に進む(最も進みやすい)

【ΔH 0、ΔS > 0の場合】
ΔG = (正) – T(正)
→ 低温で非自発的、高温で自発的

【ΔH > 0、ΔS

ΔH ΔS ΔG 自発性
負(発熱) 正(増大) 常に自発的
負(発熱) 負(減少) 温度依存 低温で自発的
正(吸熱) 正(増大) 温度依存 高温で自発的
正(吸熱) 負(減少) 常に非自発的

温度の影響

ギブズエネルギーの式 ΔG = ΔH – TΔS から、温度が反応の自発性に大きく影響することがわかります。

温度の影響

低温(Tが小さい):
・TΔSの項が小さい
・ΔHの影響が大きい
・発熱反応(ΔH 0)が有利

具体例で理解する違い

続いては、具体例で理解する違いを確認していきます。

氷が溶けるときのエンタルピーとエントロピー

氷が水になる過程で、エンタルピーとエントロピーがどう変化するか見てみましょう。

氷の融解

H₂O(s) → H₂O(l)

エンタルピー変化:ΔH = +6.0 kJ/mol(正)
・吸熱反応
・熱を吸収して融解

エントロピー変化:ΔS = +22 J/(K·mol)(正)
・乱雑さが増大
・固体→液体で分子の自由度増加

氷が溶ける反応は吸熱(ΔH > 0)なのに、0℃以上では自発的に進みます。これは、エントロピー増大(ΔS > 0)の効果が大きいためです。

ΔG = ΔH – TΔS
= 6000 – 298×22(25℃の場合)
= 6000 – 6556
= -556 J/mol

化学反応での両者の役割

化学反応での具体例を見てみましょう。

【例1】燃焼反応

CH₄(g) + 2O₂(g) → CO₂(g) + 2H₂O(l)

ΔH = -891 kJ/mol(大きな発熱)
ΔS = -243 J/(K·mol)(気体分子数減少)

ΔG = -891000 – 298×(-243)
= -891000 + 72414
= -818586 J/mol
= -819 kJ/mol

【例2】炭酸カルシウムの分解

CaCO₃(s) → CaO(s) + CO₂(g)

ΔH = +178 kJ/mol(吸熱)
ΔS = +161 J/(K·mol)(気体生成でエントロピー増大)

25℃では:
ΔG = 178000 – 298×161
= 178000 – 47978
= +130022 J/mol > 0(非自発的)

しかし、温度を上げると:
約900℃(1173 K)では:
ΔG = 178000 – 1173×161
= 178000 – 188853
= -10853 J/mol

日常生活での例

日常生活で見られる現象をエンタルピーとエントロピーで説明してみましょう。

部屋の散らかり

エンタルピー:ほぼ変化なし
エントロピー:増大(散らかる方向)

部屋は自然に散らかります(ΔS > 0)。片付けるには、外部からエネルギー(労力)を加える必要があります。これは、エントロピー減少(秩序化)には仕事が必要だということを示しています。

砂糖が水に溶ける

エンタルピー:わずかに吸熱または発熱
エントロピー:大きく増大

砂糖の結晶が水に溶けると、分子が自由に動けるようになり、エントロピーが大幅に増大します。このエントロピー増大により、自発的に溶解が進みます。

計算問題で理解を深める

続いては、計算問題で理解を深めていきます。

エンタルピーとエントロピーから自発性を判断

【例題1】

ある反応のΔH = -50 kJ/mol、ΔS = -120 J/(K·mol)である。
この反応が自発的に進む温度範囲を求めなさい。

【解答】

ΔG = ΔH – TΔS

ギブズエネルギーの計算問題

【例題2】

25℃(298 K)で、ある反応のΔH = +80 kJ/mol、ΔS = +250 J/(K·mol)である。
この反応のΔGを計算し、自発的に進むか判断しなさい。

【解答】

ΔG = ΔH – TΔS

= 80000 – 298×250
= 80000 – 74500
= +5500 J/mol
= +5.5 kJ/mol

ΔG > 0 なので、25℃では自発的に進まない。

(高温にすればTΔSの項が大きくなり、ΔGが負になって自発的に進むようになります)

応用問題

【例題3】

ある反応について、ΔH = +100 kJ/mol、ΔS = +200 J/(K·mol)である。
この反応が自発的に進み始める最低温度を求めなさい。

【解答】

自発的に進むのは ΔG

まとめ|エンタルピーとエントロピーの違いと関係

本記事では、エンタルピーとエントロピーの違いと関係式について、具体例を交えながら詳しく解説しました。

エンタルピー(H)は「熱エネルギー」を表す量で、化学反応での熱の出入りを示します。ΔHが負なら発熱反応、正なら吸熱反応です。一方、エントロピー(S)は「乱雑さ」を表す量で、物質の無秩序さの度合いを示します。固体より液体、液体より気体の方がエントロピーが大きくなります。

この2つを結びつけるのがギブズエネルギーの式 ΔG = ΔH – TΔS です。反応が自発的に進むかどうかは、エンタルピーとエントロピーの両方を考慮したギブズエネルギーで判断されます。ΔG 0なら非自発的です。

低温ではエンタルピーの影響が大きく発熱反応が有利ですが、高温ではエントロピーの影響が大きくエントロピー増大反応が有利になります。この温度依存性により、ある反応が低温では進まなくても高温では進むという現象が起こります。エンタルピーとエントロピーの両方を理解することで、化学反応の自発性を正確に判断できるようになります。