透磁率とは、磁場を加えたときに、物質の内部にどれほど磁束が生じやすいかを表す物理量です。
電磁気学では、磁束密度Bと磁場の強さHの関係を示す比例係数として用いられます。
透磁率が大きい物質ほど磁束を通しやすく、磁化されやすい性質を持つと考えられます。
ただし、透磁率は電気抵抗のように物質ごとに常に一定の値を取るとは限りません。
鉄やニッケルなどの強磁性体では、加える磁場の強さ、周波数、温度、過去の磁化状態によって透磁率が変化します。
そのため、磁気回路、変圧器、モーター、インダクター、電磁石などを設計するときは、用途に応じた透磁率の種類を選ぶ必要があります。
この記事では、透磁率とは?意味をわかりやすく解説!(定義・物理・磁束密度・磁場の強さ・磁気特性など)というテーマに沿って、透磁率の定義や式、物質による違い、実際の利用方法を詳しく説明します。
透磁率は物質内部に磁束が生じやすい程度を表す物理量
それではまず、透磁率の意味と基本的な定義について解説していきます。
透磁率は、外部から磁場の強さHを加えたときに、物質内部で生じる磁束密度Bの大きさを決める量です。
記号には、ギリシャ文字のμが使われます。
透磁率が大きい物質では、同じ磁場の強さを加えても大きな磁束密度が生じます。
したがって、透磁率は物質が磁場にどれほど応答しやすいかを表す磁気特性の一つです。
透磁率の定義と基本式
物質が線形で等方的な磁気特性を示す場合、磁束密度Bと磁場の強さHは比例関係になります。
透磁率の基本式は、B=μHです。
式を変形すると、μ=B/Hとなります。
Bは磁束密度、Hは磁場の強さ、μは透磁率です。
同じHを加えたとき、μが大きいほどBも大きくなります。
真空中では、B=μ0Hという関係が成り立ちます。
物質中では、その物質の透磁率μを用いてB=μHと表します。
ただし、強磁性体ではBとHの関係が非線形になるため、常に一定のμを使えるわけではありません。
その場合は、初透磁率、最大透磁率、増分透磁率、微分透磁率など、目的に応じた値が使われます。
磁場が時間的に変化する交流条件では、損失や位相差を考慮した複素透磁率を用いる場合もあります。
磁束密度Bと磁場の強さHの違い
磁束密度Bと磁場の強さHは似た言葉ですが、意味は異なります。
磁場の強さHは、主に電流や磁極によって作られる外部からの磁化作用を表します。
一方、磁束密度Bは、外部磁場に対する物質の磁化も含めた実際の磁場の状態を表す量です。
真空中では物質による磁化がないため、BとHは真空の透磁率μ0を介して対応します。
物質中では、原子や電子の磁気モーメントが外部磁場に応答し、磁化Mが生じます。
磁束密度は、B=μ0(H+M)と表すことができます。
線形磁性体でM=χmHと表せる場合、B=μ0(1+χm)Hとなります。
χmは磁化率です。
この式から、物質の透磁率はμ=μ0(1+χm)と表されます。
つまり、Bは外部から加えた磁場だけではなく、物質内部の磁化を含む量です。
Hは磁場を作る原因側の量、Bは物質の応答を含めた結果側の量と考えると理解しやすいでしょう。
透磁率が大きいと磁束が通りやすい理由
物質の内部には、電子の軌道運動やスピンに由来する微小な磁気モーメントがあります。
外部磁場を加えると、これらの磁気モーメントが磁場に応答し、一定の方向へそろおうとします。
磁気モーメントが磁場と同じ方向へ強くそろう物質では、外部磁場を補強する磁化が生じます。
その結果、物質内部の磁束密度Bが大きくなり、透磁率も大きくなります。
鉄などの強磁性体には、磁区と呼ばれる小さな磁化領域があります。
磁場を加えていない状態では磁区の向きがばらばらで、全体として磁化が小さい場合があります。
外部磁場を加えると、磁場方向を向いた磁区が成長し、磁壁が移動します。
さらに磁場を強くすると、磁気モーメントの回転が進み、磁化が増加します。
この磁区の変化によって、弱い磁場でも大きな磁束密度が得られるのです。
ただし、すべての磁区がほぼ同じ方向へそろうと磁気飽和に近づき、それ以上磁場を強くしても磁化は大きく増えません。
透磁率は物質の磁気特性によって大きく異なる
続いては、反磁性体、常磁性体、強磁性体における透磁率の違いを確認していきます。
物質の磁気的な分類によって、外部磁場に対する応答の向きや強さが変わります。
反磁性体の透磁率
反磁性体は、外部磁場を加えたとき、磁場と反対方向に弱く磁化される物質です。
外部磁場によって電子の運動状態が変化し、その磁場を打ち消す向きの磁気モーメントが誘起されます。
そのため、反磁性体の磁化率χmは負の小さな値です。
比透磁率μrは1よりわずかに小さくなります。
代表的な反磁性体には、銅、銀、金、ビスマス、水、石英などがあります。
日常的な磁場では反磁性の作用が非常に弱いため、磁石に強く反発する様子を確認することは容易ではありません。
しかし、強力な磁場を使えば、反磁性体が磁場の弱い領域へ移動する性質を観察できます。
超伝導体が内部の磁束を排除するマイスナー効果は、完全反磁性として扱われます。
常磁性体の透磁率
常磁性体は、外部磁場と同じ方向に弱く磁化される物質です。
原子やイオンが永久磁気モーメントを持っていても、磁場がない状態では熱運動によって向きがばらばらになっています。
外部磁場を加えると、一部の磁気モーメントが磁場方向へそろうため、弱い磁化が生じます。
常磁性体の磁化率χmは正の小さな値です。
比透磁率μrは1よりわずかに大きくなります。
代表例には、アルミニウム、白金、酸素、マンガン塩などがあります。
常磁性体の磁化は強磁性体ほど大きくなく、外部磁場を取り除くとほぼ消失します。
多くの常磁性体では、温度が高くなると熱運動が強まり、磁気モーメントがそろいにくくなります。
その結果、磁化率や透磁率が低下する傾向があります。
強磁性体の透磁率
強磁性体は、外部磁場に対して非常に強く磁化される物質です。
鉄、コバルト、ニッケル、一部の希土類元素や合金が代表例です。
強磁性体では、隣り合う原子の磁気モーメントが交換相互作用によって同じ方向へそろいます。
その結果、磁区内部には外部磁場がなくても自発磁化が存在します。
外部磁場を加えると磁区構造が変化し、大きな磁束密度が生じます。
比透磁率は数十から数千、材料や条件によってはさらに大きな値になる場合があります。
ただし、強磁性体の透磁率は一定ではなく、磁場の強さによって変化します。
弱い磁場では磁区の変化が進みやすく透磁率が増加しますが、磁気飽和に近づくと透磁率は低下します。
| 磁性の種類 | 磁化の方向 | 比透磁率の傾向 | 代表的な物質 |
|---|---|---|---|
| 反磁性体 | 外部磁場と反対方向 | 1よりわずかに小さい | 銅、銀、金、水、ビスマス |
| 常磁性体 | 外部磁場と同じ方向 | 1よりわずかに大きい | アルミニウム、白金、酸素 |
| 強磁性体 | 外部磁場と同じ方向に強く磁化 | 1より大幅に大きい | 鉄、コバルト、ニッケル |
| フェリ磁性体 | 反対向きの磁気モーメントが一部相殺 | 1より大きい | フェライト、磁鉄鉱 |
強磁性体では磁場や周波数によって透磁率が変化する
続いては、強磁性材料で使われる透磁率の種類を確認していきます。
磁気回路の設計では、単に透磁率という一つの値を見るだけでは十分ではありません。
初透磁率と最大透磁率
初透磁率は、磁化されていない材料に非常に弱い磁場を加えたときの透磁率です。
BとHの関係を表す初磁化曲線において、原点付近の傾きとして定義されます。
弱い交流信号を扱うトランスやインダクターでは、初透磁率が重要です。
初透磁率が高い材料を使うと、小さな磁場でも大きな磁束密度を得やすくなります。
最大透磁率は、初磁化曲線上でB/Hの値が最大となる透磁率です。
磁場を増加させると、磁区の移動によって透磁率が大きくなりますが、飽和に近づくと低下します。
その途中で現れる最大値が最大透磁率です。
初透磁率と最大透磁率は測定条件によって変化するため、材料を比較するときは周波数や磁場振幅も確認する必要があります。
増分透磁率と微分透磁率
磁気回路に直流磁場と小さな交流磁場が同時に加わる場合、増分透磁率が用いられます。
たとえば、直流電流が流れるチョークコイルに小さな交流成分が重なる状況です。
増分透磁率は、一定の直流バイアス磁場の周辺で、小さな磁場変化に対して磁束密度がどれほど変化するかを表します。
微分透磁率は、B-H曲線上のある点における接線の傾きdB/dHです。
微分透磁率は、μd=dB/dHと表されます。
見かけの透磁率は、原点と動作点を結ぶ傾きとしてμ=B/Hで表されます。
B-H曲線が非線形の場合、B/HとdB/dHは一致しません。
磁気飽和に近い領域では、Hを増やしてもBがわずかしか増えないため、微分透磁率は小さくなります。
直流バイアスが存在する磁気部品では、初透磁率ではなく、実際の動作点に対応した増分透磁率を見ることが重要でしょう。
複素透磁率と周波数特性
交流磁場を加えると、物質の磁化は外部磁場の変化に完全には追従できません。
その結果、磁束密度と磁場の間に位相差が生じ、エネルギーの一部が熱として失われます。
この性質を表すために、複素透磁率が使われます。
複素透磁率は、μ=μ′−jμ″と表されます。
μ′は磁気エネルギーを蓄える成分、μ″は磁気損失に関係する成分です。
周波数が低い範囲では、磁壁移動や磁気モーメントの回転が磁場変化に追従しやすく、高い透磁率を得られる場合があります。
周波数が高くなると磁化が追従しにくくなり、実部μ′が低下したり、損失成分μ″が増加したりします。
導電性の高い金属磁性材料では、渦電流損失も大きくなります。
高周波用途では、電気抵抗率が高く渦電流が流れにくいフェライト材料がよく使われます。
高い透磁率だけでなく、使用周波数での損失が小さいことも磁性材料選定の重要な条件です。
透磁率は磁気回路や電気機器の性能を左右する
続いては、透磁率が実際の磁気回路や電気機器でどのように利用されるかを確認していきます。
透磁率は、磁束の大きさ、インダクタンス、磁化電流、損失などに関係します。
磁気抵抗との関係
磁気回路では、電気回路の電気抵抗に対応する量として磁気抵抗が使われます。
磁気抵抗が小さい経路ほど、磁束が流れやすくなります。
磁気抵抗は、Rm=l/(μS)と表されます。
lは磁路長、μは透磁率、Sは磁路の断面積です。
透磁率が大きいほど磁気抵抗は小さくなります。
鉄心を使ったコイルで空心コイルより大きな磁束を得られるのは、鉄心の透磁率が空気より大きく、磁気抵抗が小さくなるためです。
磁気回路の起磁力は、コイルの巻数Nと電流Iの積NIで表されます。
磁束Φは、起磁力を磁気抵抗で割った値として考えられます。
磁束は、Φ=NI/Rmと表されます。
透磁率を大きくすると磁気抵抗が小さくなり、同じ電流でも磁束が増加します。
インダクタンスとの関係
コイルのインダクタンスは、電流変化に対して誘導起電力を発生させる性質を表します。
理想的な環状鉄心やソレノイドでは、インダクタンスは透磁率に比例します。
単純化したコイルのインダクタンスは、L=μN2S/lと表されます。
Nは巻数、Sは磁路断面積、lは磁路長です。
透磁率の高い磁性体をコアに使うと、少ない巻数でも大きなインダクタンスを得られます。
部品を小型化しやすく、巻線抵抗を減らせる点も利点です。
ただし、コアが磁気飽和すると実効的な透磁率が低下し、インダクタンスも小さくなります。
電流が大きい用途では、初透磁率の高さだけでなく、飽和磁束密度や直流重畳特性を確認する必要があります。
コアに空隙を設けると全体の実効透磁率は低下しますが、磁気飽和しにくくなり、エネルギーを蓄えやすくなります。
変圧器やモーターでの役割
変圧器では、一次巻線が作る交番磁束を鉄心に集中させ、二次巻線へ効率よく結合させます。
鉄心の透磁率が高いほど、必要な磁化電流を小さくできる傾向があります。
一方で、ヒステリシス損失や渦電流損失が大きい材料を使うと、発熱や効率低下につながります。
商用周波数の変圧器では、方向性電磁鋼板などが利用されます。
高周波スイッチング電源では、フェライトや圧粉磁心などが選ばれます。
モーターでは、固定子と回転子の鉄心に高透磁率材料を使い、磁束を効率よく形成します。
ただし、回転磁界や高調波による鉄損を抑えるため、材料の周波数特性や磁気損失が重要です。
電磁石やリレーでは、透磁率の高い軟磁性材料を使うことで、小さな励磁電流でも大きな吸引力を得やすくなります。
永久磁石では、単純に透磁率が高い材料ではなく、保磁力や残留磁束密度が大きい硬磁性材料が使われます。
用途によって求められる磁気特性が異なるため、透磁率だけで材料の良否を判断しないことが大切です。
まとめ
透磁率とは、磁場の強さHを加えたときに、物質内部で磁束密度Bがどれほど生じやすいかを表す物理量です。
線形で等方的な物質では、B=μHという関係が成り立ちます。
透磁率が大きいほど、同じ磁場の強さでも大きな磁束密度を得られます。
磁場の強さHは主に外部から与える磁化作用を表し、磁束密度Bは物質内部の磁化を含む結果側の量です。
反磁性体の比透磁率は1よりわずかに小さく、常磁性体では1よりわずかに大きくなります。
鉄などの強磁性体では比透磁率が大幅に大きくなりますが、磁場、周波数、温度、磁化履歴によって変化します。
強磁性材料では、初透磁率、最大透磁率、増分透磁率、微分透磁率、複素透磁率などを用途に応じて使い分けます。
透磁率が高い材料を磁気回路に使うと磁気抵抗が小さくなり、同じ電流で大きな磁束を作れます。
コイルのインダクタンスも透磁率に比例するため、磁性体コアは変圧器やインダクターの小型化に有効です。
実際の材料選定では、透磁率の大きさだけでなく、磁気飽和、損失、周波数特性、温度特性も合わせて確認する必要があります。
透磁率と磁束密度、磁場の強さの関係を理解すれば、磁気回路や電気機器の仕組みも把握しやすくなるでしょう。