建物や構造物を設計する際に必ず考慮しなければならない外力のひとつが、風荷重です。
台風や強風による建物への影響を定量的に評価し、安全な構造を実現するために欠かせない概念です。
「風荷重ってどうやって計算するの?」「建築基準法ではどう規定されているの?」という疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、風荷重の基本から速度圧・風力係数の計算方法、建築基準法との関係、構造設計・外装設計それぞれの考え方まで詳しく解説していきます。
風荷重の基本と建築基準法の規定
それではまず、風荷重の定義と建築基準法における規定の基本を解説していきます。
風荷重とは何か
風荷重とは、風が建物の表面に与える圧力(風圧力)によって生じる荷重のことです。
建物外面への正圧(押す力)と負圧(引く力)の両方が作用し、壁・屋根・外装材・構造骨組みに影響を与えます。
地震荷重と並んで構造設計の中でも特に重要な水平力であり、高さが増すほど風荷重の影響が大きくなる傾向があります。
超高層建築では地震力よりも風荷重が支配的になるケースも珍しくありません。
建築基準法における風荷重の規定
日本では建築基準法施行令第87条および告示により、速度圧と風力係数を用いた風圧力の算定方法が規定されています。
風圧力W=q(速度圧)×Cf(風力係数)という基本式が定められており、設計では必ずこの式に基づいて計算します。
地域ごとの基準風速(V₀)も告示で定められており、台風の多い沖縄や太平洋側では高い値が設定されています。
構造設計用と外装設計用の違い
風荷重には構造設計用(建物全体の耐風設計)と外装設計用(外壁・屋根材などの耐風設計)の2種類があります。
| 区分 | 対象 | 風力係数Cf | 目的 |
|---|---|---|---|
| 構造設計用 | 柱・梁・基礎など主要構造部 | 全体に作用する平均的な値 | 倒壊・崩壊防止 |
| 外装設計用 | 外壁・屋根・窓など外装材 | 局所的な最大値(ピーク値) | 外装材の脱落・破損防止 |
外装設計用の風力係数はピーク値を用いるため、構造設計用より大きな値になることが一般的です。
速度圧と風力係数の計算方法
続いては、風荷重計算の核心となる速度圧と風力係数の求め方を確認していきます。
速度圧qの計算
速度圧qは次の式で求められます。
q=0.6 × Er² × V₀²
Er:平均風速の高さ方向分布を表す係数(地表面粗度区分・高さにより決まる)
V₀:基準風速(地域別に告示で規定、単位:m/s)
qの単位:N/m²
Erは地表面粗度区分(Ⅰ〜Ⅳ)と高さによって変化し、市街地中心部(粗度区分Ⅳ)では海岸沿い(粗度区分Ⅰ)より風速が低減されます。
基準風速V₀は告示第1風速〜第4風速の区分に応じて30〜46 m/sの範囲で定められています。
風力係数Cfの決め方
風力係数は建物の形状・用途・評価部位によって異なります。
閉鎖型・開放型・部分開放型といった建物の開口条件によっても異なる係数が適用されます。
四角形断面の閉鎖型建物の場合、構造設計用Cfは風上壁面で+0.8、風下壁面で-0.4程度が基本値です。
外装設計用のピーク風力係数は正圧・負圧ともにこれより大きな値となり、隅角部や軒先など局所部位はさらに大きな値が設定されています。
風荷重計算の実例
例:地上10mの建物外壁面(粗度区分Ⅱ、V₀=36 m/s)
Er(高さ10m、粗度区分Ⅱ)≒ 0.87
q=0.6 × 0.87² × 36²≒ 589 N/m²
Cf=0.8(風上面)とすると
W=589 × 0.8≒ 471 N/m²(約0.47 kN/m²)
この計算はあくまで簡略例であり、実際の設計では詳細な告示の規定に従って計算することが必要です。
耐風設計の考え方と実務上の注意点
続いては、耐風設計の実務的な考え方と設計上の注意点を確認していきます。
構造骨組みへの風荷重の入力方法
構造設計では、風荷重を各階の水平力として柱・梁・耐力壁などの主要構造部材に入力します。
建物全体の風受け面積に速度圧・風力係数を掛けて各階の水平力を算出し、それを構造フレームに分配します。
高層建築では建物高さ方向の風荷重分布が大きく変化するため、複数の高さで速度圧を計算することが必要です。
また、風荷重は任意の方向から作用しうるため、直交する2方向それぞれについて検討します。
外装材の耐風設計で特に注意すべき点
外装材の設計では負圧(風による引き剥がし力)が正圧より大きくなるケースが多く、特に屋根コーナー部・軒先・パラペット部分での負圧の増大に注意が必要です。
カーテンウォールや金属屋根材などは、この負圧によって脱落・破損するリスクがあります。
ファスナーや取付金物の耐力が外装設計用風荷重を上回ることを必ず確認しましょう。
風洞実験と告示計算の使い分け
建築基準法告示による計算は多くの建物に適用できる汎用的な方法ですが、特殊な形状や超高層建物では風洞実験による実測値を用いることが認められています。
風洞実験では模型を用いて実際の風の流れを再現し、局所的な風圧分布を詳細に把握できます。
告示計算では対応しきれない複雑な形状の建物や、周辺建物の影響が大きい都市部の建物では風洞実験の活用が有効でしょう。
まとめ
風荷重は速度圧qと風力係数Cfの積として計算され、建築基準法告示に従った手順で求めます。
構造設計用と外装設計用では適用する風力係数が異なるため、目的に応じた使い分けが重要です。
耐風設計では正圧・負圧の両方を考慮し、特に外装材の引き剥がし力に十分な注意を払うことが安全な設計の要点です。
特殊形状の建物では風洞実験の活用も検討してみましょう。