透磁率は、物質の内部に磁界を加えたとき、どの程度の磁束密度が生じるかを表す物理量です。
モーター、変圧器、電磁石、コイル、インダクタ、磁気センサーなどを設計する際には、材料の透磁率を正しく把握する必要があります。
透磁率の求め方で基本となるのが、磁束密度Bと磁場の強さHの関係を表すB=μHという公式です。
ただし、鉄やフェライトなどの磁性材料では、透磁率が常に一定とは限りません。
磁場の強さ、周波数、温度、材料の組成、磁気履歴などによって値が変わるため、計算だけでなく測定方法も理解しておくことが重要でしょう。
この記事では、透磁率の求め方と計算公式を中心に、絶対透磁率、比透磁率、磁束密度、磁場の強さ、磁化、磁気回路との関係をわかりやすく解説します。
さらに、ソレノイドや環状試料を使った実験方法、インダクタンスから逆算する手順、測定時の注意点についても確認していきます。
透磁率はB=μHを変形してμ=B÷Hで求められる
それではまず、透磁率の基本的な求め方について解説していきます。
透磁率は、磁束密度Bを磁場の強さHで割ることで求められます。
磁束密度と磁場の強さが比例する範囲では、計算式は非常にシンプルです。
透磁率を求める基本公式は、μ=B÷Hです。
磁束密度Bの単位はテスラ、磁場の強さHの単位はアンペア毎メートル、透磁率μの単位はヘンリー毎メートルです。
B=μHの意味
B=μHは、物質の内部における磁束密度と磁場の強さの関係を示す式です。
Bは磁束がある面積にどれほど集中しているかを表す量であり、単位にはTを使用します。
Hは電流などによって作られる磁界の強さを表し、単位にはA/mを使用します。
μは両者を結び付ける比例係数であり、物質が磁束をどれほど通しやすいかを示しています。
同じ磁場の強さHを加えた場合、透磁率μが大きい材料ほど磁束密度Bも大きくなる関係です。
例えば、空気中にコイルを置いた場合よりも、コイルの内部に鉄心を入れた場合のほうが大きな磁束密度を得やすくなります。
これは、鉄の比透磁率が空気よりも大きく、磁束を集める働きが強いためです。
ただし、B=μHをそのまま使えるのは、μを一定とみなせる条件に限られます。
強磁性体ではBとHの関係が曲線になるため、磁場の範囲によって透磁率が異なる点に注意が必要でしょう。
透磁率の公式を変形する方法
透磁率を求めたい場合は、B=μHの両辺をHで割ります。
B=μHです。
両辺をHで割ると、B÷H=μとなります。
したがって、μ=B÷Hです。
例えば、磁束密度が0.8Tで、磁場の強さが400A/mだったとします。
μ=0.8÷400です。
μ=0.002H/mです。
指数表記では、μ=2.0×10のマイナス3乗H/mとなります。
この計算では、BとHの測定条件が同じであることが前提です。
異なる電流、異なる温度、異なる周波数で測った値を組み合わせると、正しい透磁率にならない可能性があります。
また、Hがゼロに近い領域では測定誤差の影響が大きくなりやすいため、適切な測定範囲を選ぶ必要があります。
透磁率の単位を確認する
透磁率μのSI単位はH/mです。
Hはインダクタンスの単位であるヘンリーを意味し、長さ1m当たりのヘンリーとして表されます。
B=μHの単位からも確認できます。
磁束密度Bの単位はTです。
磁場の強さHの単位はA/mです。
μ=B÷Hであるため、単位はT÷A/mとなります。
これはT・m/Aであり、H/mと等価です。
文献や仕様書では、N/Aの2乗と表記される場合もあります。
H/m、T・m/A、N/Aの2乗は、いずれも透磁率を表す等価な単位です。
単位が異なって見えても、次元としては同じであることを理解しておくと混乱を防げます。
絶対透磁率と比透磁率の計算方法
続いては、絶対透磁率と比透磁率の違いを確認していきます。
透磁率を扱う際には、μだけでなくμ0やμrという記号が頻繁に登場します。
それぞれの意味を区別できると、材料データや設計資料を読みやすくなるでしょう。
絶対透磁率とは
絶対透磁率とは、対象となる物質そのものの透磁率です。
一般にμで表され、単位はH/mとなります。
空気、鉄、ニッケル、フェライトなど、材料ごとに異なる値を持っています。
ただし、強磁性材料の絶対透磁率は一定値ではなく、使用条件によって変化するのが一般的です。
材料メーカーのデータシートでは、初透磁率、最大透磁率、振幅透磁率など、測定条件に応じた複数の値が掲載される場合があります。
単に透磁率とだけ記載されている場合は、どの種類の透磁率なのかを確認することが大切です。
比透磁率とは
比透磁率は、対象物質の透磁率が真空の透磁率の何倍であるかを表します。
記号にはμrを使用し、単位を持たない無次元量です。
比透磁率の公式は、μr=μ÷μ0です。
絶対透磁率を求める公式は、μ=μ0μrです。
真空の比透磁率は1です。
空気の比透磁率も実用上はほぼ1として扱われます。
一方、鉄やフェライトなどの強磁性材料では、比透磁率が数十から数千、条件によってはそれ以上になることもあります。
比透磁率が大きい材料は、小さな磁場でも大きな磁束密度を得やすい材料といえるでしょう。
ただし、値が大きければ常に優れた材料というわけではありません。
高周波損失、飽和磁束密度、保磁力、温度特性、機械的な加工性なども用途に応じて評価する必要があります。
真空の透磁率を使った計算例
真空の透磁率μ0は、実用計算では約1.256637×10のマイナス6乗H/mとして扱われます。
近似的に4π×10のマイナス7乗H/mと表す方法も広く使われています。
比透磁率が500の材料について、絶対透磁率を求めてみましょう。
μ=μ0μrです。
μ=1.256637×10のマイナス6乗×500です。
μは約6.283×10のマイナス4乗H/mとなります。
逆に、絶対透磁率が2.513×10のマイナス3乗H/mである材料の比透磁率を求める場合は、μをμ0で割ります。
μr=2.513×10のマイナス3乗÷1.256637×10のマイナス6乗です。
μrは約2000となります。
実際の材料データを使う場合は、透磁率が測定された周波数と磁場条件も合わせて確認しましょう。
同じ材料名でも、製造方法や熱処理、粉末粒径、焼結条件などによって値が変わります。
| 物理量 | 記号 | 主な単位 | 基本的な意味 |
|---|---|---|---|
| 磁束密度 | B | T | 単位面積を通過する磁束の密度 |
| 磁場の強さ | H | A/m | 電流などが作る磁界の強さ |
| 絶対透磁率 | μ | H/m | 物質内部で磁束が生じやすい程度 |
| 真空の透磁率 | μ0 | H/m | 真空における透磁率 |
| 比透磁率 | μr | なし | 物質の透磁率を真空と比較した倍率 |
磁束密度Bと磁場の強さHを求める方法
続いては、透磁率の計算に必要となるBとHの求め方を確認していきます。
μ=B÷Hを使うためには、磁束密度と磁場の強さをそれぞれ求めなければなりません。
実験では測定器から直接得る場合もありますが、コイルの形状や電流値から計算する方法もあります。
磁束密度Bを磁束と断面積から求める
磁束密度Bは、磁束Φを磁束が通過する断面積Aで割ることで求められます。
B=Φ÷Aです。
磁束Φの単位はウェーバ、断面積Aの単位は平方メートル、磁束密度Bの単位はテスラです。
例えば、断面積2.0×10のマイナス4乗平方メートルの鉄心に、1.0×10のマイナス4乗ウェーバの磁束が通っているとします。
B=1.0×10のマイナス4乗÷2.0×10のマイナス4乗です。
B=0.5Tです。
断面積を平方センチメートルや平方ミリメートルで与えられた場合は、平方メートルへ換算してから計算します。
1平方センチメートルは1×10のマイナス4乗平方メートルです。
1平方ミリメートルは1×10のマイナス6乗平方メートルとなります。
面積の換算を誤ると、磁束密度が100倍や10000倍もずれるため注意が必要でしょう。
磁場の強さHをコイルから求める
長いソレノイドコイルの内部では、磁場の強さHを巻数、電流、コイル長さから近似できます。
H=NI÷lです。
Nはコイルの巻数、Iは電流、lは磁路長またはコイル長です。
例えば、巻数500回、電流0.2A、磁路長0.25mの場合を考えます。
H=500×0.2÷0.25です。
H=400A/mです。
このとき磁束密度Bが0.6Tと測定されたなら、透磁率は0.6÷400で求められます。
μ=0.6÷400です。
μ=1.5×10のマイナス3乗H/mです。
環状鉄心では、平均磁路長を使ってHを計算する方法が一般的です。
平均磁路長は、環状コアの内径と外径の平均から求めた円周を近似値として使用できます。
ただし、形状が複雑な磁気回路では磁場が均一にならないため、有限要素法などによる解析が必要になることもあります。
磁化Mを含む関係式
物質中の磁束密度は、磁場の強さHだけでなく、物質の磁化Mを用いて表すこともできます。
B=μ0のかっこH+Mかっことじです。
磁化Mは、材料内部の磁気モーメントがどの程度そろっているかを表す量です。
線形な磁性体では、M=χmHと表せます。
χmは磁化率です。
B=μ0のかっこH+χmHかっことじです。
B=μ0のかっこ1+χmかっことじHです。
したがって、μr=1+χmです。
この関係から、比透磁率と磁化率が密接に結び付いていることがわかります。
常磁性体ではχmが小さな正の値となり、比透磁率は1よりわずかに大きくなります。
反磁性体ではχmが小さな負の値となり、比透磁率は1よりわずかに小さくなる関係です。
強磁性体では磁化と磁場の関係が非線形になるため、単純な比例式だけでは十分に表せない場合があります。
透磁率を実験で測定する方法
続いては、透磁率を実験で測定する代表的な方法を確認していきます。
実際の磁性材料では、透磁率が周波数や磁場によって変わるため、使用条件に近い状態で測定することが重要です。
測定対象の形状や必要な精度に応じて、BとHを直接測る方法や、インダクタンスから逆算する方法が選ばれます。
環状試料を使ってBとHを測る方法
環状試料を使う方法は、磁性材料の特性を評価する代表的な実験です。
ドーナツ状の試料に励磁用コイルと検出用コイルを巻き、電流と誘導電圧を測定します。
環状形状には磁束が外部へ漏れにくいという利点があります。
励磁用コイルに流す電流からHを計算し、検出用コイルに生じる電圧を積分してBを求めます。
磁場の強さは、H=N1I÷lで求めます。
磁束密度は、検出コイルの誘導電圧を時間積分し、巻数と断面積で割って求めます。
N1は励磁コイルの巻数、Iは励磁電流、lは平均磁路長です。
検出コイルに発生する電圧は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいて磁束の時間変化に比例します。
BとHを連続的に記録すれば、B−H曲線やヒステリシスループも得られます。
この曲線から、初透磁率、最大透磁率、保磁力、残留磁束密度、飽和磁束密度などを評価できます。
インダクタンスから透磁率を求める方法
コイルのインダクタンスを測定し、その値から透磁率を逆算する方法もあります。
長いソレノイドのインダクタンスは、近似的に次の式で表されます。
L=μNの2乗A÷lです。
したがって、μ=Ll÷Nの2乗Aです。
Lはインダクタンス、Nは巻数、Aはコアの断面積、lは磁路長です。
例えば、インダクタンスが0.08H、巻数が400回、断面積が1.5×10のマイナス4乗平方メートル、磁路長が0.2mの場合を考えます。
μ=0.08×0.2÷400の2乗×1.5×10のマイナス4乗です。
分母は24となります。
μは約6.67×10のマイナス4乗H/mです。
実際には、漏れ磁束、巻線間容量、コアの空隙、測定周波数、測定器の誤差などが影響します。
特に高周波では透磁率が複素数として扱われ、磁束を生じさせる成分と損失を表す成分に分けて評価する必要があります。
LCRメーターで測定する場合は、周波数、測定電圧、直流バイアスの条件を記録しておきましょう。
透磁率測定で注意する条件
透磁率の測定値は、さまざまな条件に左右されます。
最も重要なのは、磁場の強さをどの範囲で変化させたかという点です。
強磁性体では、弱い磁場での初透磁率と、磁化が進んだ領域での最大透磁率が異なります。
さらに磁場を強くすると磁気飽和へ近づき、増分透磁率が低下する場合があります。
周波数も重要な条件です。
周波数が高くなると、渦電流損失、磁壁移動の遅れ、共鳴現象などが現れ、透磁率が低下したり損失成分が増加したりします。
温度上昇によって磁気特性が変化する点にも注意が必要です。
強磁性材料はキュリー温度付近で強磁性を失い、透磁率が大きく変化します。
機械的な応力や加工ひずみも磁壁の移動を妨げる原因となり、透磁率を低下させる可能性があります。
透磁率の測定値には、周波数、磁場の強さ、温度、直流バイアス、試料形状を必ず併記することが重要です。
条件が異なる測定値同士を単純に比較すると、材料の性能を誤って判断するおそれがあります。
| 測定項目 | 値に影響する主な要因 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 初透磁率 | 微小磁場、加工ひずみ、温度 | 測定磁場が十分に小さいか |
| 振幅透磁率 | 交流磁場の振幅、周波数 | 実際の使用条件に近いか |
| 増分透磁率 | 直流バイアス、微小交流磁場 | 直流重畳条件が一致しているか |
| 複素透磁率 | 周波数、損失、共鳴 | 実部と虚部の両方を確認したか |
| 最大透磁率 | 磁場範囲、磁気履歴 | B−H曲線全体を測定したか |
透磁率の計算を磁気回路やコイル設計に応用する方法
続いては、透磁率の計算を磁気回路やコイル設計へ応用する方法を確認していきます。
透磁率は単なる材料定数ではなく、磁気抵抗、磁束、インダクタンス、電磁石の吸引力などに関係します。
設計では、透磁率だけを単独で見るのではなく、磁路長や断面積、空隙との組み合わせで考えることが大切です。
磁気抵抗と透磁率の関係
磁気回路における磁気抵抗は、電気回路の抵抗に相当する量です。
磁気抵抗Rm=l÷μAです。
lは磁路長、μは透磁率、Aは磁路の断面積です。
透磁率が大きいほど磁気抵抗は小さくなり、磁束が流れやすくなります。
磁路長が長いほど磁気抵抗は大きくなり、断面積が広いほど小さくなる関係です。
磁束Φは、起磁力NIを磁気抵抗で割ることで求められます。
Φ=NI÷Rmです。
この関係は、電気回路における電流=電圧÷抵抗という式に似ています。
磁気回路の考え方を使えば、変圧器、モーター、リレー、電磁石などの磁束を概算できます。
空隙がある場合の透磁率
鉄心に空隙があると、磁気回路全体の実効透磁率は大きく低下します。
鉄心の透磁率が非常に高くても、空気の透磁率は小さいため、磁気抵抗の多くを空隙部分が占めるからです。
磁気回路全体の磁気抵抗は、各部分の磁気抵抗を足し合わせて求めます。
全磁気抵抗=鉄心部分の磁気抵抗+空隙部分の磁気抵抗です。
鉄心部分は、lcore÷μcoreAです。
空隙部分は、lgap÷μ0Aです。
空隙を設けるとインダクタンスは低下しますが、直流電流による磁気飽和を起こしにくくなる利点があります。
そのため、電源回路用インダクタやフライバックトランスでは、意図的に空隙を設ける場合があります。
空隙付近では磁束が外側へ広がるフリンジングが生じるため、高精度な計算では有効断面積の補正が必要です。
透磁率を使ったインダクタンス設計
コイルのインダクタンスは、透磁率、巻数、断面積、磁路長によって決まります。
L=μNの2乗A÷lです。
この式から、巻数を2倍にするとインダクタンスは理想的には4倍になります。
断面積を大きくするとインダクタンスは増え、磁路長を長くすると減少します。
透磁率の高いコアを使えば、少ない巻数でも大きなインダクタンスを得やすくなります。
一方、巻数を増やし過ぎると巻線抵抗、銅損、寄生容量が増えるため、単純に巻数だけを増やせばよいわけではありません。
また、材料の透磁率は周波数や直流バイアスで低下することがあります。
設計値を計算する際は、初透磁率ではなく、実際の電流と周波数に対応した実効的な値を使用する必要があるでしょう。
透磁率の高いコアを選ぶだけでなく、飽和磁束密度、コア損失、直流重畳特性、温度上昇を合わせて確認することが重要です。
まとめ
透磁率の求め方は、磁束密度Bと磁場の強さHの関係であるB=μHを変形し、μ=B÷Hとするのが基本です。
絶対透磁率はH/mで表され、比透磁率は対象材料の透磁率を真空の透磁率で割った無次元量となります。
磁束密度はB=Φ÷A、磁場の強さはコイルの場合にH=NI÷lを使って計算できます。
また、インダクタンスがわかっている場合は、L=μNの2乗A÷lを変形して透磁率を逆算することも可能です。
ただし、鉄やフェライトなどの強磁性体では、透磁率が磁場、周波数、温度、直流バイアス、磁気履歴によって変化します。
計算値や測定値を利用するときは、どの条件で得られた透磁率なのかを確認することが欠かせません。
磁気回路やコイルを設計する際には、透磁率だけでなく、磁路長、断面積、空隙、磁気飽和、損失なども含めて総合的に判断しましょう。