H形鋼やI形鋼の断面を見ると、上下に広がる部分と中央をつなぐ部分があります。
この二つはそれぞれフランジとウェブと呼ばれ、鉄骨構造の強度やたわみ、接合方法を考えるうえで欠かせない要素です。
見た目は単純な形状でも、フランジとウェブでは受け持つ力が大きく異なります。
設計図書の確認、鋼材の選定、溶接やボルト接合の検討を行うなら、名称だけでなく役割まで理解しておくことが大切でしょう。
フランジとウェブの違い

それではまずフランジとウェブの違いについて解説していきます。
断面における位置関係
フランジはH形鋼やI形鋼の上下にある幅広い部分を指します。
一方のウェブは、上下のフランジをつなぐ中央の縦板部分です。
H形鋼を正面から見ると、横方向に伸びる二本の板がフランジであり、その間を縦方向に結ぶ板がウェブになります。
I形鋼でも基本的な考え方は同じで、断面形状の種類によって幅や厚さに違いがあるだけです。
フランジは英語でつばや縁を意味する言葉から派生しており、ウェブは薄い膜や網を表す言葉として使われています。
部材を発注する場面では、フランジ幅、フランジ厚、ウェブ厚といった寸法を区別して確認します。
| 部位 | 主な位置 | 代表的な役割 |
|---|---|---|
| フランジ | 断面の上部と下部 | 曲げによる引張力と圧縮力の負担 |
| ウェブ | 断面の中央部 | せん断力の負担とフランジ間隔の維持 |
| フィレット | フランジとウェブの境目 | 応力集中の緩和と製造上の接続部分 |
呼び方が重要になる場面
フランジとウェブの区別は、建築鉄骨だけでなく橋梁、機械フレーム、搬送設備、鋼製階段などでも重要です。
たとえば梁の上フランジに荷重がかかる場合、上フランジは主に圧縮を受け、下フランジは引張を受ける傾向があります。
荷重の向きや支持条件が変われば力の状態も変化するため、常に上側が圧縮、下側が引張とは限りません。
ただし、一般的な単純梁に鉛直下向きの荷重が作用するケースでは、この理解が基本になります。
ウェブは中央にあるため目立ちにくい部分ですが、梁に生じるせん断力を受ける重要な部位です。
鋼材の加工図や施工図では、孔あけ位置をウェブ側、フランジ側に分けて記載することも少なくありません。
フランジは曲げに強くするための幅広い部分、ウェブはせん断力を伝えながら上下のフランジを結ぶ部分と理解すると、断面の役割をつかみやすくなります。
H形鋼とI形鋼の見分け方
H形鋼は断面がアルファベットのHに近く、フランジ幅が比較的広い鋼材です。
I形鋼は断面がIに見える鋼材で、H形鋼よりフランジ幅が狭い形状を指すことがあります。
ただし、規格や業界によってはH形鋼とI形鋼を広い意味で同じ系統の形鋼として扱う場合もあります。
重要なのは呼び名だけではなく、断面二次モーメントや断面係数にどのような差があるかです。
フランジが広いH形鋼は、強軸方向に曲げを受ける梁として利用されやすく、柱材として選ばれることもあります。
一方で、細長いI形断面は、部材の向きや荷重条件に応じて合理的な選定が必要になります。
フランジが担う曲げ強度
続いてはフランジが担う曲げ強度を確認していきます。
中立軸から離れた位置
梁に曲げモーメントが作用すると、断面内には引張応力と圧縮応力が生じます。
応力が小さくなる中心付近を中立軸と呼び、中立軸から離れるほど曲げによる応力は大きくなる仕組みです。
フランジは断面の上下端に配置されるため、中立軸からの距離を大きく確保できます。
そのため、少ない材料量でも曲げに対する効率を高めやすいという特徴があります。
同じ断面積の鋼材を中央に集めるより、上下のフランジへ分けたほうが曲げに有利になる理由はここにあります。
曲げ応力は、おおむね曲げモーメントに中立軸からの距離を掛け、断面二次モーメントで割る考え方で求めます。
フランジを外側へ配置すると断面二次モーメントが大きくなり、同じ荷重に対する応力やたわみを抑えやすくなります。
圧縮側フランジの座屈
圧縮力を受けるフランジでは、強度だけでなく座屈への注意が必要です。
座屈とは材料そのものが壊れる前に、部材や板が横方向へ不安定に変形して耐力を失う現象です。
梁の圧縮側フランジが横へ倒れ込む横座屈や、フランジ板そのものが波打つ局部座屈が代表例になります。
フランジが厚ければよいとは限らず、幅と厚さの比率、横補剛の有無、梁の支持条件も重要です。
長い梁では、床版、母屋、小梁、ブレースなどによって圧縮フランジを適切に拘束する設計が行われます。
設計時には許容応力度設計や保有水平耐力計算など、採用する設計手法に応じた照査が必要でしょう。
フランジ厚と接合部
フランジ厚は、断面性能だけでなく接合部の設計にも影響します。
柱と梁を接合する場面では、梁フランジに発生する引張力や圧縮力を、溶接や高力ボルトを介して柱へ伝達します。
モーメント接合ではフランジの力が特に大きくなるため、スカラップの形状、溶接サイズ、ダイアフラムの有無などを総合的に検討します。
フランジの板厚が増すと耐力が高まる一方、溶接施工の難易度や入熱管理にも配慮が必要になります。
製作工場と現場の施工条件を踏まえ、加工しやすさと必要性能のバランスを取ることが重要です。
ウェブが担うせん断強度
続いてはウェブが担うせん断強度を確認していきます。
せん断力の伝達
梁に荷重が加わると、支点付近を中心にせん断力が発生します。
せん断力は部材を上下方向にずらそうとする力であり、H形鋼では主にウェブが受け持ちます。
ウェブは薄い板に見えても、上下フランジを一体化させながら荷重を支点へ伝える役割を果たします。
特に集中荷重が作用する位置や、柱の近くでは大きなせん断力が生じやすいため、ウェブの検討が欠かせません。
ウェブ厚が不足すると、せん断降伏やせん断座屈が生じるおそれがあります。
単純梁に等分布荷重が作用する場合、せん断力は支点に近いほど大きくなり、梁中央付近では小さくなります。
一方で曲げモーメントは中央付近で大きくなる傾向があり、フランジとウェブの役割を考える基本例になります。
局部座屈と補剛材
ウェブが薄く高さのある形状では、せん断力によって斜め方向にたわむせん断座屈が問題になる場合があります。
このような場合には、ウェブにスチフナと呼ばれる補剛材を取り付け、板の変形を抑える方法が採用されます。
スチフナには、支点や集中荷重点で使う垂直補剛材、広い範囲の座屈を抑える水平補剛材などがあります。
ウェブの板厚だけで解決せず、補剛材を組み合わせて合理化する設計も多く見られます。
橋梁の主桁では、比較的高いウェブと複数の補剛材による構成が代表的です。
集中荷重への対応
梁の途中に別の梁が取り付く場合や、機械設備の荷重が一点に加わる場合、ウェブには局部的に大きな力が集中します。
荷重がフランジを通じてウェブへ伝わる際、ウェブが押しつぶされる局部圧壊や、座屈が起こる可能性があります。
このため、荷重作用位置の近くに補強プレートやスチフナを設けることがあります。
柱梁接合部でも、梁フランジからの力が柱ウェブへ集中するため、ダイアフラムやパネルゾーンの検討が必要です。
見た目だけでは判断しにくい部分だからこそ、荷重経路を意識した構造計画が求められます。
ウェブは単なる仕切り板ではありません。
せん断力、集中荷重、局部座屈を考えるうえで中心となる部位であり、補剛材との組み合わせによって部材全体の安全性を支えています。
断面形状と強度計算
続いては断面形状と強度計算を確認していきます。
断面二次モーメントの考え方
H形鋼の曲げ性能を確認するときは、断面二次モーメントが重要な指標になります。
断面二次モーメントは、断面の材料が中立軸からどの程度離れて分布しているかを表す値です。
フランジが上下に離れて配置されるH形鋼は、同じ断面積の矩形鋼材と比べて、特定方向の曲げに効率よく抵抗できます。
ただし、強軸方向と弱軸方向では断面二次モーメントが大きく異なります。
H形鋼は向きを変えるだけで曲げ強度やたわみ性能が大きく変化するため、設置方向の確認が必要です。
断面係数と許容応力度
断面係数は、曲げモーメントに対してどの程度の曲げ応力が生じるかを確認するための値です。
一般に断面係数が大きいほど、同じ曲げモーメントに対する最大応力を小さくできます。
鋼材の設計では、発生する応力が材料の許容応力度や設計用強度を超えないことを照査します。
ここでは降伏点だけでなく、長期荷重と短期荷重、接合部の耐力、座屈耐力なども関係します。
単純に断面係数だけを比較するのではなく、用途に応じて必要な照査を行うことが大切です。
基本的な考え方として、曲げ応力は曲げモーメントを断面係数で割って確認します。
せん断応力はせん断力とウェブの有効断面積の関係から確認しますが、実際の設計では規準や基準に沿った係数、座屈条件、接合条件も加味します。
たわみと使用性
強度計算で安全と判定されても、たわみが大きすぎると床の振動、仕上げ材の損傷、建具の不具合につながることがあります。
そのため梁の設計では、耐力だけでなく使用時の変形量も確認します。
たわみは荷重、支点間距離、ヤング係数、断面二次モーメントなどの影響を受けます。
梁せいを大きくしたり、断面二次モーメントの大きい部材を選んだりすると、たわみを抑えやすくなります。
フランジとウェブの寸法は、強度だけでなく建物の使いやすさにも関わる要素です。
JIS規格と寸法確認
続いてはJIS規格と寸法確認を確認していきます。
H形鋼の代表寸法
H形鋼は、梁せい、フランジ幅、ウェブ厚、フランジ厚などの寸法で表されます。
たとえば呼称の数値には、おおむね部材の高さと幅を示す情報が含まれています。
ただし、実際の寸法や断面積、単位質量、断面二次モーメントは規格表やメーカーの資料で確認する必要があります。
同じ高さに見えるH形鋼でも、フランジ幅や板厚が異なる複数の種類が存在します。
選定時には、必要な曲げ性能、せん断性能、納まり、重量、入手性を総合的に比較しましょう。
| 確認項目 | 主に関係する部位 | 確認の目的 |
|---|---|---|
| 梁せい | フランジ間の距離を含む全高 | 曲げ剛性と天井内の納まり |
| フランジ幅 | 上下フランジ | 曲げ性能と接合部の納まり |
| ウェブ厚 | 中央の縦板 | せん断耐力と孔あけ可否 |
| フランジ厚 | 上下フランジ | 曲げ耐力と溶接接合の検討 |
| フィレット寸法 | 接合部の曲面 | 加工干渉やガセットの納まり |
規格表を見る際の注意点
規格表には断面寸法だけでなく、断面積、単位質量、断面二次モーメント、断面係数、回転半径などが掲載されています。
これらの数値を使えば、部材重量の概算や構造計算の初期検討を進めやすくなります。
ただし、規格の改定、製造範囲、鋼種、流通在庫によって扱いが変わることもあります。
古い資料の数値をそのまま流用せず、採用時点で有効な規格と製品資料を確認する姿勢が重要です。
設計図に記載する呼称と、発注する鋼材の仕様に食い違いがないかも確認しましょう。
孔あけと欠損の影響
ウェブには設備配管やボルト接合のために孔を設けることがあります。
しかし、孔あけは有効断面積を減らし、せん断耐力や局部的な座屈耐力に影響する可能性があります。
フランジへの孔あけは、曲げ応力が大きい位置で断面欠損を生むため、さらに慎重な検討が必要です。
特に梁端部のウェブ孔、フランジ近傍の大きな開口、連続した孔加工には注意が求められます。
設備との調整では、開口位置を中立軸付近に寄せる、補強板を設ける、梁せいを変更するなどの対応を検討します。
フランジとウェブの寸法は、構造性能だけでなく、ボルト孔、配管開口、溶接、仕上げとの干渉にも影響します。
断面図と詳細図をあわせて確認することが、施工段階の手戻り防止につながります。
フランジとウェブのまとめ
最後にフランジとウェブの要点を整理していきます。
フランジはH形鋼やI形鋼の上下にある幅広い部分で、主に曲げによる引張力と圧縮力を受け持ちます。
ウェブは中央の縦板部分であり、主にせん断力を負担しながら、上下のフランジを一体化させる役割を果たします。
曲げに対してはフランジ、せん断に対してはウェブが中心的に働くと覚えると、断面形状の意味を理解しやすいでしょう。
ただし、実際の鉄骨設計では、フランジの横座屈、ウェブのせん断座屈、集中荷重による局部破壊、接合部の耐力などを一体で検討します。
H形鋼やI形鋼を選ぶ際は、断面係数や断面二次モーメントだけでなく、支持条件、荷重条件、接合方法、施工性まで確認することが大切です。
フランジとウェブの役割を正しく理解すれば、図面の読み取りや鋼材選定の精度も高まり、構造の安全性を考える土台になるはずです。