アナログ電子回路では、入力された電圧を増幅して別の電圧として出力する電圧増幅器が広く使われています。
しかし、回路の用途によっては、入力電圧に応じた電流を出力する増幅器が必要です。
この役割を持つ回路がトランスコンダクタンスアンプです。
トランスコンダクタンスアンプは、入力電圧の差を出力電流へ変換する増幅器であり、電圧制御電流源として動作します。
特に、相互コンダクタンスを外部の制御電流や制御電圧で変更できる回路はOTAと呼ばれます。
OTAはOperational Transconductance Amplifierの略であり、日本語では演算トランスコンダクタンス増幅器などと呼ばれます。
フィルター、発振器、可変利得増幅器、音響機器、集積回路など、幅広いアナログ回路で利用される素子です。
一般的なオペアンプと外観や記号が似ていることもありますが、出力形式や使い方には重要な違いがあります。
この記事では、トランスコンダクタンスアンプの意味、動作原理、基本式、OTAの特徴、オペアンプとの違い、代表的な応用を詳しく解説します。
トランスコンダクタンスアンプは入力電圧を出力電流へ変換する増幅器
それではまず、トランスコンダクタンスアンプの意味と基本的な動作について解説していきます。
トランスコンダクタンスの意味
トランスコンダクタンスとは、入力電圧の変化に対して出力電流がどの程度変化するかを表す量です。
日本語では相互コンダクタンスと呼ばれることがあります。
一般的に記号gmを使用し、単位はジーメンスです。
出力電流の変化量を入力電圧の変化量で割って求めます。
gm=ΔIout/ΔVinです。
たとえば入力電圧が1mV変化したとき、出力電流が1mA変化する回路では、gmは1Sです。
入力電圧1V当たり1Aの出力電流変化に相当します。
トランジスタでも、ゲート電圧やベース電圧に対するドレイン電流やコレクタ電流の変化を表すためにgmが使われます。
したがって、トランスコンダクタンスは増幅素子の性能を示す基本的な指標です。
値が大きいほど、小さな入力電圧の変化から大きな出力電流の変化を得られます。
ただし、gmは動作点、温度、素子電流などによって変化する場合があります。
データシートでは、指定された条件における代表値や最小値を確認する必要があるでしょう。
電圧制御電流源としての動作
トランスコンダクタンスアンプは、入力電圧によって出力電流を制御する回路です。
理想的な動作は、電圧制御電流源として表せます。
差動入力を持つ場合、非反転入力電圧V+と反転入力電圧V-の差に応じて出力電流が変化します。
Iout=gmV+-V-です。
入力差電圧が正なら一方向の電流が流れ、負なら反対方向の電流が流れます。
入力差電圧が0であれば、理想的な出力電流は0です。
実際の回路では入力オフセットやバイアス電流があるため、完全に0にはならない場合があります。
出力側に抵抗負荷を接続すると、出力電流が電圧へ変換されます。
負荷抵抗をRLとすると、出力電圧はIoutとRLの積です。
Vout=IoutRL=gmRLV+-V-です。
この式から、電圧利得はgmと負荷抵抗の積で決まることが分かります。
同じトランスコンダクタンスでも、負荷インピーダンスを変えることで出力電圧の大きさが変わります。
コンデンサーを負荷に使用すれば、電流で充放電する積分回路を構成できます。
この柔軟性が、OTAをフィルターや発振器へ応用しやすい理由です。
OTAの基本構造
OTAは、差動入力段と電流出力段を基本として構成されます。
入力段では、二つの入力端子へ加わる電圧差を検出します。
差動対を流れる電流の分配が入力電圧差によって変化し、その差が出力電流として取り出される仕組みです。
バイポーラトランジスタを使ったOTAでは、差動対のテール電流を変えることでgmを制御できます。
MOSトランジスタを使ったOTAでも、バイアス電流やゲート電圧によって動作特性を調整できます。
制御端子へ加える電流を増やすとgmが大きくなり、同じ入力電圧差から大きな出力電流を得られます。
制御電流を減らせばgmが小さくなり、利得も低下します。
この性質により、電子的に利得や周波数特性を変更できます。
OTAの重要な特徴は、トランスコンダクタンスを外部信号で制御できることです。
抵抗器を機械的に変更しなくても、電流や電圧によって増幅率やフィルター特性を調整できます。
集積回路では、大きな抵抗器や高精度な可変抵抗器を実装しにくい場合があります。
OTAを利用すれば、トランジスタとコンデンサーを中心に可変機能を構成できるため、IC化に適しています。
トランスコンダクタンスアンプの動作原理
続いては、差動入力から出力電流が生まれる仕組みと、負荷による電圧変換を確認していきます。
差動対による入力電圧の検出
多くのトランスコンダクタンスアンプでは、入力段に差動対が使用されます。
差動対は特性の近い二つのトランジスタを組み合わせた回路です。
二つの入力電圧が等しいとき、共通のバイアス電流はほぼ均等に分かれます。
一方の入力電圧が高くなると、その側のトランジスタへ流れる電流が増えます。
もう一方の電流は減少し、二つの枝電流に差が生じます。
この電流差をカレントミラーなどで取り出すことで、入力差電圧に比例した出力電流を得ます。
入力差が小さい範囲では、電圧と出力電流の関係をほぼ直線として扱えます。
入力差が大きくなると一方のトランジスタへ電流が偏り、出力電流は飽和に近づきます。
したがって、OTAを低ひずみで使用するには入力差電圧を適切な範囲へ抑える必要があります。
データシートには推奨入力範囲やひずみ特性が記載されているため、設計時に確認しましょう。
制御電流とgmの関係
バイポーラ型OTAでは、トランスコンダクタンスgmがアンプバイアス電流に比例する構成が一般的です。
アンプバイアス電流はIABCなどの記号で示されます。
制御電流を変更することで、入力電圧から出力電流への変換係数を調整できます。
理想化したバイポーラ差動対では、gmはバイアス電流と熱電圧に関係します。
代表的な近似ではgmはIABCを定数倍し、熱電圧で割った値として表されます。
実際の係数は内部回路や電流ミラーの構成によって異なります。
制御電流を2倍にすれば、理想的にはgmも約2倍になります。
負荷条件が同じなら電圧利得も約2倍です。
この線形制御特性を利用して、電圧制御増幅器や自動利得制御回路を構成できます。
ただし、非常に小さな制御電流では漏れ電流やオフセットの影響が目立ちます。
大きすぎる制御電流では消費電力、発熱、出力電流範囲などが問題になるでしょう。
また、gmは温度によって変化するため、高精度回路では温度補償が必要です。
設計では代表値だけでなく、個体差や動作温度範囲も考慮します。
出力負荷による電圧増幅
OTAの出力は基本的に電流です。
電圧信号として利用するには、抵抗や能動負荷、コンデンサーなどで電流を電圧へ変換します。
抵抗負荷を接続した場合、出力電圧は出力電流と抵抗値の積です。
したがって、電圧利得はgmRLで近似できます。
ただし、実際にはOTAの出力抵抗と負荷抵抗が並列に作用します。
より正確には、有効な負荷抵抗として両者の並列値を使用します。
電圧利得Avは、おおよそgmと有効負荷抵抗の積です。
負荷抵抗を大きくすると電圧利得は高くなりますが、出力電圧の変化範囲や周波数特性へ影響します。
大きな抵抗と寄生容量の組み合わせにより、帯域幅が狭くなる可能性があります。
コンデンサー負荷の場合は、出力電流によって電荷が蓄積され、出力電圧が時間とともに変化します。
これは積分動作であり、gm-Cフィルターの基本になります。
出力電流を別のOTAやトランジスタ段へ直接入力する電流モード回路もあります。
電圧へ変換せずに信号を処理することで、高速化や低電圧動作に有利になる場合があります。
| 出力負荷 | 主な動作 | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| 抵抗 | 電流を電圧へ変換 | 電圧増幅器 |
| コンデンサー | 電流を積分 | フィルターや発振器 |
| 電流入力回路 | 電流のまま伝送 | 電流モード回路 |
| 能動負荷 | 高い等価抵抗を実現 | 集積回路内の高利得段 |
一般的なオペアンプとの違い
続いては、OTAと一般的なオペアンプの違いを確認していきます。
出力形式の違い
一般的なオペアンプは、二つの入力端子間の電圧差を増幅し、電圧として出力します。
理想的には電圧制御電圧源として扱われます。
一方、OTAは入力電圧差を出力電流へ変換します。
理想的には電圧制御電流源です。
この出力形式の違いが、回路の接続方法や用途の違いにつながります。
オペアンプでは負帰還回路を構成し、抵抗比によって電圧利得を決めるのが一般的です。
OTAではgmと負荷インピーダンスによって出力電圧や利得が決まります。
オペアンプの出力は低インピーダンスで電圧を維持しようとします。
OTAの出力は比較的高インピーダンスであり、負荷へ電流を供給する性質を持ちます。
そのため、OTAの出力へ低い抵抗負荷を直接接続すると、十分な電圧利得を得られない場合があります。
利得制御方法の違い
一般的なオペアンプ回路では、外付け抵抗の比によって閉ループ利得を設定します。
利得を変更するには、抵抗器を切り替えたり、可変抵抗器を使用したりします。
デジタル制御の可変抵抗器を使う方法もありますが、部品数や回路面積が増えることがあります。
OTAでは、バイアス電流や制御電圧によってgmを変化させられます。
したがって、電気信号だけで連続的な利得制御が可能です。
音量調整、自動利得制御、振幅変調、電圧制御フィルターなどに向いています。
機械的な接点を使用しないため、遠隔制御や自動制御にも適しています。
ただし、gmの制御特性には非線形性や温度依存性があります。
高精度な利得が必要な場合は、補正回路や帰還制御を組み合わせる必要があるでしょう。
用途と回路設計の違い
オペアンプは、増幅、加算、減算、積分、比較、フィルターなど、汎用的なアナログ回路で使われます。
高い開ループ利得と負帰還を利用し、外付け部品で正確な特性を設定できます。
OTAは、電子的に特性を可変したい回路や、集積回路内で抵抗を減らしたい場合に適しています。
gmとコンデンサーを組み合わせたフィルターは、抵抗を使うRCフィルターより周波数を電子制御しやすい点が特徴です。
低電圧の集積回路では、電流モード信号処理によって動作範囲を確保する目的でもOTAが利用されます。
一方、OTAは入力可能範囲、出力電流、線形性に制約があります。
単純にオペアンプをOTAへ置き換えられるわけではありません。
出力負荷とgmの関係、制御端子の範囲、周波数特性を考慮して設計する必要があります。
| 比較項目 | 一般的なオペアンプ | OTA |
|---|---|---|
| 入力 | 差動電圧 | 差動電圧 |
| 出力 | 電圧 | 電流 |
| 理想モデル | 電圧制御電圧源 | 電圧制御電流源 |
| 利得設定 | 主に外付け抵抗比 | gmと負荷インピーダンス |
| 可変制御 | 追加回路が必要 | 制御電流などで変更可能 |
| 代表用途 | 汎用増幅や演算回路 | 可変利得や可変フィルター |
オペアンプは電圧を出力し、OTAは電流を出力します。
外形や回路記号が似ていても、負荷の接続方法と利得の決まり方が異なる点に注意しましょう。
トランスコンダクタンスアンプの特徴と応用
続いては、OTAの長所と短所、代表的な応用回路を確認していきます。
電子制御できる可変利得
OTAの大きな長所は、電気信号によって利得を連続的に制御できることです。
制御電流を変えるとgmが変化し、出力電流の大きさが変わります。
負荷が一定であれば、出力電圧の利得も変化します。
この特性は、電圧制御増幅器に利用できます。
音響機器では音量調整、コンプレッサー、ノイズゲート、自動レベル制御などに使われます。
通信回路では、受信信号の強さに応じて増幅率を調整する自動利得制御に利用可能です。
アナログ乗算器や振幅変調回路として使用される場合もあります。
一方の信号をOTAの入力へ、もう一方をgm制御端子へ加えることで、二つの信号の積に近い出力を得ます。
ただし、高い精度や低ひずみを得るには、線形化回路や適切なバイアス設定が必要です。
gm-Cフィルターと発振器
OTAとコンデンサーを組み合わせた回路は、gm-C回路と呼ばれます。
抵抗の代わりにOTAのトランスコンダクタンスを利用し、時定数を作る方式です。
代表的な遮断周波数は、gmとコンデンサー容量Cの比で決まります。
基本的な一次回路では、角周波数はgm/Cに比例します。
周波数はgmを2πCで割った値に比例します。
gmを制御すれば、コンデンサーを交換せずに遮断周波数を変更できます。
このため、電圧制御フィルターや自動調整フィルターに適しています。
集積回路内では、大きな抵抗器を高精度に作ることが難しい場合があります。
OTAと比較的小さなコンデンサーを使えば、IC内部で調整可能なフィルターを構成できます。
ただし、低周波フィルターを小さなコンデンサーで実現するには非常に小さなgmが必要です。
小電流動作では雑音や素子ばらつきの影響が大きくなるため、設計上の工夫が求められます。
複数のOTAとコンデンサーを組み合わせることで、二次フィルター、状態変数フィルター、正弦波発振器なども構成可能です。
電子楽器の電圧制御フィルターにも、OTAの可変特性が活用されてきました。
設計上の注意点
OTAを使用するときは、入力差電圧の範囲に注意が必要です。
差動対の線形範囲を超えると、出力電流が入力電圧に比例しなくなり、ひずみが増加します。
線形化ダイオードやエミッタ抵抗を利用して、入力範囲を広げる構成もあります。
出力電流には上限があり、制御電流や電源電圧によって制約されます。
負荷インピーダンスが高すぎると、必要な出力電圧が電源電圧の範囲を超え、飽和する可能性があります。
反対に負荷インピーダンスが低すぎると、十分な電圧利得が得られません。
周波数が高くなると、内部容量や位相遅れの影響でgmが低下します。
使用周波数がデータシートの帯域内に収まるか確認しましょう。
入力換算雑音や出力電流雑音も、微小信号回路では重要です。
制御電流を小さくすると消費電力を減らせる一方、雑音やオフセットの相対的な影響が増える場合があります。
温度によるgmの変化も考慮し、必要に応じて帰還や校正機能を設けます。
OTAの設計では、gmだけでなく入力線形範囲、出力電流範囲、負荷インピーダンス、帯域幅を同時に確認する必要があります。
理想式だけでなく、使用する製品のデータシートを基準に設計しましょう。
まとめ
トランスコンダクタンスアンプとは、入力電圧の差を出力電流へ変換する増幅器です。
電圧制御電流源として動作し、出力電流は基本的に入力差電圧とトランスコンダクタンスgmの積で表されます。
gmは入力電圧の変化に対する出力電流の変化率であり、単位はジーメンスです。
OTAはOperational Transconductance Amplifierの略で、gmを外部の制御電流や制御電圧によって変更できる点が特徴です。
抵抗負荷を接続すれば電圧増幅器として利用でき、コンデンサー負荷を接続すれば積分回路を構成できます。
一般的なオペアンプは電圧を出力するのに対し、OTAは電流を出力します。
そのため、利得の決まり方や負荷の接続方法が異なります。
OTAは、可変利得増幅器、自動利得制御、gm-Cフィルター、発振器、音響回路などに適しています。
一方で、入力差電圧の線形範囲、出力電流、温度依存性、雑音、周波数特性には注意が必要です。
入力電圧を電流へ変換し、その変換係数を電子的に制御できることがOTAの本質です。
基本式とオペアンプとの違いを理解し、目的に合った負荷や制御条件を選びましょう。